第246話 ルドルフVSドマ

「くっ!」


 許せない! 皆を殺したこと、演技をして私を嘲笑っていたこと⋯⋯そしてそんなドマの策略で死ぬ自分を。

 結局私には何も出来なかった。何が王家の血を引く者として逃げ出す訳にはいかない! 仮面の騎士に大層なことを話しておいてこの有り様はもう情けないとしか言いようがないです。

 私の体が谷底へと落下してることによって、周囲の景色が猛スピードで過ぎていき、そしてとうとう地面が見えてきた。後数秒もしない内に私の命が失われるのは間違いないです。皆も今の私みたいに悔しい気持ちを胸に死んでしまったのかな。


 そう考えると死んでも死に切れない!


 落ちていく中地面に視線を向けると崖から飛び出ている枝が見えた。


「届いてぇぇ!」


 私は必死に右手を伸ばしてその枝を掴もうとする。


 こ、これは何とか届き⋯⋯そう。

 そして掌が枝に触れた瞬間おもいっきり握り締める。


「っ!!」


 しかし私の細腕で自分の体重と落下速度の重力を止めることができず、あまりの激痛に声を出すことも出来ない。


 右腕の骨が折れた、いえ砕けたかもしれないです。腕1本を代償にしましたが、落下速度が緩むことはなかった。

 けれど私のために死んでいった者のためにも諦めることはできない。

 もう地面は目前まで迫ってる。無駄かもしれないけど1%でも可能性がな

 あるなら私は死に抗って助かってみせる!

 私は何とか落ちるスピードを緩めようと壁に向かって左腕を伸ばす。


「やれやれ⋯⋯無茶をするお姫様じゃのう」

「えっ?」


 突然声が聞こえてきたかと思ったら、私は空を飛んでいる1人の老人に抱きかかえられていた。


「お主の力では左腕1つ出した所で落下速度を抑えることはできんぞ⋯⋯じゃがその諦めない姿勢は嫌いじゃない」

「あ、貴方は!」


 威厳のあるロープを着た白髪の老人。私はこの方を見たことがある。


「嬢ちゃん久しぶりじゃのう⋯⋯いや今はリズリット姫と呼んだ方がよいか?」

「ルドルフ様!」


 勇者パーティーの1人である賢者ルドルフ様。ルーンフォレストにいた頃、同じくらいの年の孫がいると言ってよく遊んで下さった。


「まずはその傷を⋯⋯【完全回復パーフェクトヒール】」


 ルドルフ様が魔法を唱えると先程枝を掴もうとして砕け散った右腕が、一瞬で治る。


「ル、ルドルフ様ぁ⋯⋯」


 私はルドルフ様が助けに来てくれたことが嬉しくて、そのまま抱きついてしまう。


「リズリット姫がんばったのう。もうわしが来たからには安心じゃ」

「はい」


 ルドルフ様は人間界の魔法使いでNo.1と言われている。敵のいる戦場の中これほど側にいて安堵できる存在は他にはいない。


「で、ですがルドルフ様はどうしてこちらへ?」


 私の身を案じてルドルフ様に依頼を出す人など⋯⋯。


「その話は後で教えてしんぜよう⋯⋯今は上にいる魔族を倒すのが先じゃ」

「わかりました」


 確かに今は魔族を倒すことが先決。ルドルフ様に皆を殺した仇を取ってほしい。


「【飛翔魔法ハイウイング】」


 ルドルフ様が言葉を発すると先程の落下速度以上のスピードで上空へと上昇していく。


「きゃっ」


 私はあまりのスピードに怖くなってしまい、より一層ルドルフ様を抱きしめてしまう。

 そしてあっという間に崖の上へと戻ってくる。


「あ、貴方は⁉️」


 生きて戻ってくるとは思わなかったのか、私の顔を見てドマが驚きの声をあげた。


「ドマ⋯⋯地獄から戻ってきたわよ」

「バ、バカな! あそこから落ちて生きているはずがありません! まさかその老人に救ってもらったのですか!」

「ええそうよ」


 ドマは翼を広げ空を飛び、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


「ご老人⋯⋯見たところ飛翔魔法を使えるとは驚きです。敬意を表して貴方のお名前を聞いて上げましょう」


 リズリットが生きていたことでドマの心が乱れたのは一瞬で、すぐにまた平静さを取り戻していた。


「後で教えてしんぜよう。今は貴様を滅ぼす方が先じゃ【火炎弾魔法ファイヤーボール】」


 ルドルフは右手に持った杖から炎の弾を出し、ドマに向かって放つ。


「クックック⋯⋯そのような下級魔法が私に効くと思っているのですか?」


 確かに魔族には下級の魔法はダメージが通らない。実際ドマに【火炎弾魔法ファイヤーボール】が直撃したが、傷を負っている様子はない。


「せめてこのくらいの魔法は使って頂かないと【暴嵐魔法】テンペスト


 ドマの前方に広範囲の嵐が生まれ、ルドルフとリズリットの下へ向かってくる。


 この嵐の中に入れば瞬時に切り刻まれて命を落とすことは見ただけでわかる。

 まさかドマがこのような恐ろしい魔法を使ってくるなんて。魔族は基本、身体能力も魔力も優れている種族と言われている。ルドルフ様は私を抱え、すでに空を飛ぶ魔法を使っているため、全力を出しきることができない。


「生き残ったのならそのまま逃げていれば良いものを⋯⋯あの崖から落ちていったクズどもの敵討ちをしようするなんてバカですか貴女は!」

「くっ!」


 悔しい! 私のせいで皆死んでしまい、そして今ルドルフ様も⋯⋯。


 私は後悔した。


 ルドルフ様を信じなかった自分を。


「やれやれ⋯⋯この程度の魔法でよいのか【暴嵐魔法】テンペスト


 ルドルフ様が魔法を唱えるとドマと同じ⋯⋯いえドマの倍近くある嵐が生まれる。


「あ、ありえない! な、なぜ人間ごときがこんな魔法を!」


 ルドルフ様の嵐とドマの嵐が衝突するがどちらが勝つかは、見れば子供でもわかることだった。


 ドマの嵐は一瞬で飲み込みこまれ、そのままドマへと向かっていく。


「こ、こんな魔法を使える奴がただの人間なはずがない! お、お前は!」

「わしか? わしはルドルフ⋯⋯賢者ルドルフじゃ」


 先程とは違い、ルドルフ様はあっさりと名前をドマに教える。


「け、賢者ルドルフだと! 多くの同胞を殺した⁉️ ちくしょう! そうと分かれば初めから逃げ⋯⋯ぎゃぁぁぁ!」


 ドマの身体が嵐に飲み込まれると瞬時に身体が切り刻まれると共に断末魔が聞こえ、そして嵐が収まるとそこにはドマという存在はなかった。


「す、すごいです」


 今日初めてルドルフ様が魔法を使う所を拝見させて頂きましたけど私が思い描くより圧倒的に強く、さすが魔王を倒した勇者パーティーの一員と言わざるを得ません。


「わしの名前を聞くと戦わずに逃げる魔族がいるから言わんのじゃよ」


 しかしそのルドルフ言葉はもうドマに届くことはなかった。

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