第228話 負傷者を救え
メルビア城で目的の人物に会えたため、俺は急ぎ転移魔法を使い、シズリアの宿に止めてある馬車の元へと向かう。
「おっ? ヒイロ戻ったか」
馬車に戻るとそこにはグレイとティアがおり、俺を出迎えてくれた。
「あれ? リアナとルーナは?」
4人共馬車の所まで転移させたはずだけど2人の姿が見当たらない。
「リアナさんとルーナさんは噴水広場で負傷された方達を治療しに、あちらにある教会へ行かれました」
「教会?」
ティアの視線の先には、建物の天辺に十字架が見られる教会があった。
「多くの人が運ばれているのが、ここからでもわかったぜ」
「回復魔法が使えるお二人はその状況を見るに見かねて――」
優しい心を持ったリアナとルーナならあり得そうなことだ。
「どっちみち街の外へ続く全ての道で検問をしてるから、今日はシズリアから移動するのは厳しいぞ」
それもそうか⋯⋯大国の姫が殺されそうになったんだ。このまま犯人を逃がしてはシズリアの冒険者の名は地に落ちるだろう。思わぬところで足止めを食らったけどしょうがない。
教会の方へと視線を向けると、幾人かがあたふたしている様が見られた。
負傷者がたくさんいるのか⋯⋯これは俺も行った方が良さそうだな。
「お兄ちゃんは負傷された方が気になるの?」
教会の方を見ていたからティアにはバレバレのようだ。
「ティアちゃんは俺が見ているから行って来てもいいぞ」
「そうですよ。私にはクロもいるから安心して教会へ行ってきて下さい」
「キュウキュウ!」
そういえば朝からクロを見ていなかったけど馬車の中にいたんだな。
「わかった⋯⋯それじゃあお言葉に甘えて行ってくるよ」
俺はティア達に見送られながら教会へと向かった。
「回復魔法を使える奴はまだか!」
「早く⋯⋯早くしてくれ! このままだと妻が!」
「妹からたくさん血が出てるんだ! 誰か助けてよ!」
教会の中へ入ると負傷者の多さに辺りは騒然としていた。
「神父様! 回復魔法を使える人が足りません! このままでは多くの人が⋯⋯」
シスターらしき人が神父にすがるような顔立ちで声を発している。
回復魔法が使える奴が足りない? それもそのはず、ざっと見ても負傷している者は50人近くはいるように感じる。
「しかし負傷者が運ばれているのはここだけではないのだ。それに我等の魔力は尽きてしまった⋯⋯緊急に対応しなければならない負傷者は、あの少女達に頼るよりしかあるまい」
神父が向けた視線の先には必死に回復魔法を唱えるリアナとルーナの姿があった。
「【
「【
「次はどの人かな!」
「重症な方から治していきます」
もうすでに何人も治療しているのだろうか、2人は額に汗を浮かべ、次々と負傷者を治していく。
「あのお二人のおかげで今は何とか持ちこたえているが、もし魔力が尽きてしまったら⋯⋯おや? あなたは?」
神父が教会に入ってきた俺に気づいたようだ。
おっと、リアナとルーナの必死な姿に見とれてしまった。俺も早く治療に入らないと。
「俺も回復魔法が使えるので治療に当たります」
「おお! これは神のお導きか! ぜひお願い致します」
神父の許可を得たので俺も負傷者の治療に入る。時間との勝負なので、リアナ達が言っていたように重傷者から治した方が良さそうだな。
「何でだよ! お姉ちゃん達なら妹を治せるんじゃないのかよ!」
俺は誰から治療しようかと周囲を見渡していたら、突如少年とおぼしき声が辺りに鳴り響いたのでその場に向かう。
「私達の回復魔法だと手足や臓器の欠損までは治せないの⋯⋯」
「ごめんね⋯⋯ごめんね⋯⋯」
泣きながら怒っている少年に対して、リアナやルーナは悲しい顔をしながら謝罪をしている。
「頼むよ⋯⋯妹は今日が誕生日なんだ。せっかく誕生日の日にお姫様が見られるって喜んでいたのに⋯⋯」
「坊主⋯⋯無理なものは無理だ。この方達を困らせるんじゃない。この子だってこのままだと苦しいだけだ。楽にしてあげよう」
中年の男性が少年に向かって妹を諦めるように言う。
「嫌だ! お姉ちゃん達回復魔法をかけ続けてくれよ! お願いだ⋯⋯」
「私は⋯⋯私はまた困っている人を救うことができないの⋯⋯」
少年とリアナは自分の無力さからかその場に崩れ落ちる。
「そんなことはない。今までリアナやルーナがいたから多くの人が助かったんだ」
「ヒイロちゃん!」
「ヒイロくん!」
ヒイロが現れたことによって、絶望した目をしたリアナとルーナに希望の火が灯る。
「この子は俺に任せろ」
「兄ちゃんなら治せるの⁉️ 妹を治してくれたら俺⋯⋯なんだってする! だから⋯⋯助けてください!」
俺は少年の熱き想いを胸に、負傷した妹の様子を見る。
女の子は手足が吹き飛ばされ、左目が無くなっている。それに腹部から臓器が見えており、すでに意識はなく浅く呼吸をしているだけだ。
リアナとルーナが治療したおかげで血は止まっているが、正直生きているのが不思議なくらいだ。
だがよくがんばってくれた。今楽にして上げる。
「【
女の子の体全体が光に包まれ、輝きが収まった時には手足や目、臓器、全てが爆発を受ける前の体に戻る。
「ゴン⋯⋯お兄ちゃん⋯⋯」
「ナナ!」
「私⋯⋯爆発に巻き込まれて⋯⋯」
「そうだよ! どこか痛い所はない⁉️」
「ううん⋯⋯さっきまで身体中痛かったけど今は何ともないよ」
「ああ! 良かった! 兄ちゃんありがとう!」
命が無くなる前にナナちゃんの体を治すことが出来て良かった。
目の前で喜んでいる少年とナナちゃんを見て、魔法が使えることに感謝する。
「まだナナちゃんは本調子じゃないかもしれないから、君が側にいてあげるんだ」
「わかった! ありがとうお兄ちゃん!」
ナナちゃんの体の傷は治っているが、爆発を食らったことによる精神的ダメージは治すことができない。しかし、兄であるあの子がいれば、少しはそのダメージを減らすことができるだろう。
「ヒイロくん今のは⋯⋯ラナさんを治した時の魔法ですか」
「そうだよ」
「さすが私のご主人様です。私も負けていられません」
「私も⋯⋯頑張ってみんなの命を助けるよ」
そして俺達は新たな負傷者の下へと向かう。
体の欠損がある者は俺が、それ以外の者はリアナとルーナが治すことによって負傷者はみるみると減っていく。
「3人共凄いですね」
「あれだけ魔法を使ってMPが残っているのも驚きですが、特にあの男――」
「あの回復魔法⋯⋯聖女様と言われてもおかしくない」
シスターや神父、そして周りの人達が俺のことを口にしているのがわかる。
ちょっとやりすぎてしまったか? 目立つことはしたくなかったけどナナちゃんは一刻を争う状態だった。もし躊躇していたら、死んでしまったかもしれない。ナナちゃんの命と比べれば少し目立つくらいなんてことはない。
とりあえず今は目の前の人を助けることに集中しよう。
こうして俺達3人の回復魔法によって、昼頃にはこの教会にいる負傷者は0になり、多くの人達の命を全て救うことができたのであった。
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