第10章 帝国の花嫁

第214話 宣戦布告

 ルーンフォレスト王国が宣戦布告をしてきた。

 その出来事に、玉座の間は騒然となる。


「皆の者静まれい!」


 ディレイト王は騒ぎを収めるため語気を強め、声を張り上げる。

 すると直ぐ様玉座の間は静かになり、音1つない空間へと戻った。


「ルーンフォレストが我が国へ攻め込む理由はなんだ!」


 兵士は一瞬リアナの方に視線を送る。


 まさか⋯⋯。


「ルーンフォレスト王国の勇者を匿っていること⋯⋯」


 やはりそうか。リアナは兵士の言葉を聞いて青ざめてしまった。

 メルビアにリアナがいることは、おそらくマリウス伯爵に化けていた魔族から伝わったのだろう。


「そして我が国の騎士を殺害したことと言っております」


 騎士を殺害?


「何を血迷ったことを言っておる! ルーンフォレストはリアナ君を見殺しにしようとしたではないか! それに騎士を殺害だと⁉️ そんなことをした覚えはない!」


 メルビアの誰かが騎士を殺したのか?


「王よ、そのような情報は我らも聞いておりませぬ」


 ここにいるメルビアの重鎮の方々も、見に覚えがないと言っている。


「勝手に情報を捏造しおって! 何様のつもりだ!」

「ル、ルーンフォレスト王国は、デュランという騎士が殺されたと⋯⋯」

「デュラン⋯⋯だと⋯⋯」


 デュラン⁉️ 聞いたことがあるぞ!


「おにい⋯⋯いえ、ヒイロさん⋯⋯デュランって⋯⋯」


 公の場だからか、俺のことを言い直したティアが、その名前に気づく。


「はい⋯⋯ティアリーズ王女の考えている通りです」


 俺の確信を得ると、ティアはスッと皆の前に出る。


「お父様! デュランという騎士は、ルーンフォレストで盗賊に紛れ、私達を殺害しようとした者です!」

「あの時魔道具を使って自爆した奴か!」


 そう。一瞬でしか鑑定で視ることが出来なかったが、ディレイト王とティアを殺そうとした奴と同じ名前だ。


「まさかあの時の出来事は我らに非がある言いたいのか!」

「ディレイト王⋯⋯このことは抗議致しますか?」

「当たり前だ! だが奴らは大国であることをいいことに、認めない可能性が高いがな」


 道理で簡単に死を選んだわけだ。

 ルーンフォレストとしてはあのまま2人を殺せればよし⋯⋯もし失敗したとしてもメルビアがデュランを殺したと吹聴し、戦争を起こすきっかけにしようと考えていたんだ。

 リアナを生け贄に出そうとしたことといい、心底腐ってるなランフォースは!


「宣戦布告は、メルビアだけに出しているのか」

「いえ、我が国だけではなく、アルスバーン帝国、バビロ神聖国、商業連合国マリスリードに出しております」


 どうやら今現存している全ての国に宣戦布告をしているようだ。

 ルーンフォレスト王国の東にアルスバーン帝国、南東にメルビア王国、西に商業連合国マルスリードと3方向から攻められても、負けない自信があるというのか、ランフォースは⁉️

 唯一アルスバーン帝国の東にあるバビロ神聖国だけが、ルーンフォレスト王国に直接攻めいることができない。


 今は人同士で争っている暇はないのに⋯⋯普通ならこんなバカなことをするはずがない。魔族が裏で暗躍していることは明白だ。

 このままだとジルド王国やガルバトル帝国と同じ末路を辿ることになるぞ。


 以前は今より2つ多く国があり、7大国家と呼ばれていた。ルーンフォレスト王国の北東には獣人が王を務めるジルド王国が、そして北西には最強軍事国家、ガルバトル帝国があった。しかしジルド王国は5年前に魔王ヘルドによって、ガルバトル帝国は数ヶ月前に魔王軍に滅ぼされてしまっている。


「あの小童が血迷ったか! バルト、宣戦布告をされた国々と連携を取るため直ちに書状を送れ」

「はっ!」


 バルト宰相は急ぎ玉座の間から退出する。


「尚、開戦は今日より1ヶ月後にすると言っております」

「1ヶ月後だと! なるほどそういうことか⋯⋯」


 勝つためならすぐに攻め込んだ方がいいと思うが、ディレイト王には何か思い付くことがあるのか。


「お父様、どういうことでしょうか」

「おそらくアルスバーン帝国にいる人質の存在が関係しているのだろう」

「人質⋯⋯ですか⋯⋯」

「そうだ。ルーンフォレスト王国とアルスバーン帝国は同盟の証として、お互いの娘を差し出しているはずだ」


 元々人質を差し出さないと維持できない、脆い関係ということか。


「その人質の返還期間として、1ヶ月の猶予を設けているのだろう。ルーンフォレストの王女は、市民に絶大な人気があると聞いているから、さすがに見捨てることができないはずだ」


 相手の戦力が整う前に叩けば、戦争に勝つ確率が高くなる。特に今回は4ヶ国に宣戦布告をしているから電撃作戦で行きたいはずだ。しかし裏を返せば、そのようなことをしなくても勝てる算段が付いているということなのか。


「我が軍も戦の準備をするぞ! またルーンフォレストにいる、メルビアの市民の受け入れがスムーズに行くよう手配しろ。その際に間者が紛れ込む可能性があるため、チェックは入念にすることを徹底させるんだ!」

「「「「はっ!」」」」


 ディレイト王の命令で玉座の間は慌ただしく動き始める。


「大変なことになったな」

「そうね」


 この場は、褒美をもらって浮かれるような雰囲気ではなくなった。


「すまんな⋯⋯せっかくの席がこのようなことになってしまって⋯⋯」


 ディレイト王が俺達に頭を下げて来た。


「いえ、仕方がありません。もし俺に出来ることがありましたら言ってください」

「⋯⋯わかった」


 ディレイト王の表情が暗くなる。

 おそらく本心では、俺達を戦争に関わらせたくないのだろう。


 そして俺達はこの場から退出しようとした時、異変が起きた。


「リアナ!」


 突然玉座の間にラナさんの声が鳴り響き、視線を向けると、そこには床に倒れているリアナの姿があった。


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