第212話 幕間1 宴
ゼヴェル討伐の宴にて
「今日は街や村を石にした、
ディレイト王の挨拶により宴が始まる。
「よお! ヒイロ! 飲んでるか⁉️」
何かその言い方だと俺が酒を飲んでいるように思われるが、一応未成年なのでアルコールのないジュースを頂いている。
「グレイお疲れ」
俺は持っていたグラスをグレイのグラスに合わせるとチーンと音が鳴る。
「今回の敵はマジやばかったな」
「ああ⋯⋯石化に魔法無効化⋯⋯さすかに肝を冷やしたよ」
魔界獣ゼヴェルは強かった。もし仲間やザイドがいなかったらと思うとゾッとする。
「石になった村や街も元通りになったし、何より⋯⋯レナさんが救えて良かったぜ⋯⋯それにこの⋯⋯おチビちゃん達もな」
そう言ったグレイの視線の先には、俺の腰をギュッと抱きしめているエルミアの姿があった。
「随分懐かれたな」
グレイが声をかけると、更にエルミアちゃんは俺の体を抱きしめてくる。
「このお兄さんは変態だから近寄らない方がいいよ」
「うん⋯⋯わかった⋯⋯」
「わかったじゃねえ!」
俺とエルミアちゃんのやり取りに、グレイが盛大な突っ込みを入れる。
「ひぃっ!」
だが他の人が怖いエルミアは、いきなり大きな声を出されて、ビックリしてしまったようだ。
「ごめんエルミアちゃん! 別に今のは怒った訳じゃないんだ⋯⋯なっ! ヒイロ」
「そうだな。変態だけど怖い人じゃないからグレイは」
「てめっ!」
「ほら、エルミアちゃんが怖がってるぞ」
「くっ!」
今日お前が、2度陥れようとしたことは忘れてないからな。
俺の気持ちを味わうがいい。
「ヒイロ⋯⋯後で覚えてろよ」
そう言ってグレイは去っていった。
「お兄さん⋯⋯あの人には近寄らないようにするね」
やばい⋯⋯エルミアちゃんは純粋なのか、俺の言葉を本当に信じてしまったようだ。
「いやいや、さっきのは冗談だから⋯⋯仲が良いからこそのやり取りというか⋯⋯」
「そうなの?」
首を傾げる姿が様になるなあこの子は。
「そう。ああ見えて頼れる奴だから⋯⋯困った時には相談するといいよ。ただし1人じゃだめだ。何するかわからないから⋯⋯だから他の人も誘って2人以上で」
さすがに一対一だと女好きのグレイがエルミアちゃんに手を出さない保証はない。
「⋯⋯なんだか⋯⋯信用できるのかわからない人ですね⋯⋯」
「確かにそうだな⋯⋯けど1つだけ確実に言えるのは、グレイが俺達の中で⋯⋯いや俺の知る限り、1番努力している奴だよ」
初めは賢者であるルドルフさんの孫だから、血統で能力が高いと思っていたが、冒険者学校でもメルビアでも1番朝早く、そして夜遅くまで鍛練しているのはグレイだ。
本人は隠しているつもりなのかもしれないが、俺には【
遊び人の紋章なのに腐らず、努力する姿は尊敬に値する。
まあ、恥ずかしくてこんなことは、絶対に本人には言わないけどな。
「⋯⋯お兄さんは⋯⋯あの人のこと信用しているように見える⋯⋯」
「そうだね。男の友達では1番信用しているかな⋯⋯けどこれは2人だけの秘密だ」
「うん⋯⋯わかった」
年下に見えるエルミアだからくさいセリフが言えたのか、何だか今になって恥ずかしくなってきたぞ。
「ヒイロくん何してるの?」
背後から声をかけられ後ろを振り向くと、そこにはレナとラナさんがいた。
「エルミアちゃんと話をしてただけだよ」
「そう⋯⋯いいわね」
ラナさんは俺の言葉に、心底羨ましそうにこちらを見てくる。
やはりラナさんはエルミアちゃんのことが、大好きなようだ。さきほど拒絶されてかなりショックを受けていたからな。
「ヒイロくん」
レナが⋯⋯いやレナとラナさんが真剣な表情でこちらに視線を向けてくる。
「本当にありがとう」
「私からもお礼を言わせてもらうわ。姉さんを救ってくれてありがとう」
2人は寄り添っていて、とても幸せそうに見える。改めて、レナさんを護れて良かったと実感した。
「このお礼は必ず致します」
「いや、いいですよ。仲間の⋯⋯ラナさんのお姉さんを助けるのは当然ですから」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ヒイロはいつも無茶をするんだから」
「無茶?」
「そうよ姉さん」
あれ? ラナさんの前で、今回みたいにピンチになったことってないよな。
「私、知っているのよ⋯⋯リアナを護るために、元魔王と戦って力を失ったこととか、自分も瀕死だったのに回復魔法を先にルーナにかけて死にそうになったこととか」
ああ⋯⋯確かにそんなことがあったな。ラナさんはリアナやルーナに聞いたのだろうか。
「そうなの⋯⋯でしたら今回のお礼で、私がヒイロくんのお姉さんになって上げます」
「「えっ⁉️」」
何を言ってるんだこの人は。けれどよく考えるとオークションの後にもレナお姉ちゃんと呼んでもいいと言っていたな。
「ダメよ姉さん! ヒイロのことだから、姉弟なら一緒にお風呂に入っても問題ないよなって言うに決まってるわ!」
おい!
「もう決めたわ。私はヒイロくんが今後無茶をしないように姉として管理することを⋯⋯」
「姉さん⋯⋯」
レナが姉⁉️ 確かにラーカス村にいた時は、父さん母さんがいなくて兄弟でもいればと思ったことはあるけど⋯⋯。
「姉さんやめた方がいいわ⋯⋯いえ、ちょっと待って⋯⋯」
ラナさんside
姉さんがヒイロの姉になるなんて⋯⋯ヒイロはエッチだから絶対変なことをするに決まってるわ。
ん? けどヒイロの姉が姉さんになることも将来的にあるのよね。たとえば私とヒイロが結婚すれば⋯⋯。
結婚って当人同士だけの問題じゃないわよね。やっぱりヒイロとは家族ぐるみのお付き合いをしたいから、将来の予行練習のためにはありかも⋯⋯。
ヒイロside
何故かラナさんの顔が突然赤くなり、両手を頬に当て悶え始めた。
「しょ、しょうがないから姉さんがヒイロの
「えっ⁉️」
いったいどういう風の吹き回しだ。さっきまでラナさんは反対してたのに⋯⋯。
「ひょっとしてラナは、自分がヒイロくんと結婚して私が義姉になったことを想像しちゃった?」
レナがラナさんの耳元で何かを囁くと、ラナさんの顔がさらに赤くなった。
「ち、違うわよ! そんなこと考えてないわ! ただ、姉さんは今まで苦労してきたから好きなようにしてほしいだけよ!」
「そう? 私は優しい妹を持てて幸せだわ⋯⋯けど安心して。ヒイロくんが弟になっても、ラナには変わらず愛情を注いであげるから」
「べ、別に私はいいわよ」
そう言ってラナさんはそっぽを向いてしまった。
仲いいな。この姉妹は。
「ヒイロくん!」
突然声がするとレナとラナさんのお父さんに肩を組まれた。
「な、なんでしょうか⋯⋯」
少し酒くさいぞ。
「ゼヴェルを倒してくれて⋯⋯俺の家族を助けてくれてほんとぉぉぉぉぉにありがとぅ!」
どうやらもうかなり出来上がっているようだ。
「いえ、仲間であるラナさんの御家族を助けるのは当然のことですから」
俺は先ほどレナに言ったセリフをもう一度言う。
「君には感謝している。私に出来ることがあったら何でも言ってくれ⋯⋯だが! 娘達はやらんぞ! もしレナとラナが欲しければ私を倒していけぇぇ!」
何を言ってるんだこの人は! しかも、今にも俺に飛びかかってきそうな感じですけど。さすがにレナとラナさんのお父さんに怪我をさせるわけにはいかないぞ。
しかし俺の心配事はすぐになくなった。
ガッ!
ドカッ!
ズガシャンッ!
背後から、レナ、ラナさん、そしてお母さんが現れ、そして容赦なくお父さんを攻撃していく。
しかもお母さんのグーパンの擬音がズカシャンッてどうなのよ。
お父さんは気絶していますが⋯⋯。
「お父さん恥ずかしいからやめて」
「お、お父さん! な、何を言ってるのよ!」
「ホホホッ! ごめんなさいね。この人はすぐに回収していくから」
ラナさんが武道家なのは、お母さん譲りの力を持っているからかもしれない。
「ヒイロくん、私達を助けてくれて本当にありがとう。恋愛に関しては私は口出ししないから」
そう言ってお父さんの首根っこを掴み、ズルズルと引きずって去っていくお母さん。
「と、とにかく私はヒイロくんのお姉ちゃんになるから⋯⋯よろしくね弟くん」
こうして俺は自分の意思とは関係なく、レナの弟にされるのであった。
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