第211話 動乱

 この場には怒り心頭のリアナとラナさん⋯⋯ウルウルとした瞳で俺を見つめるエルミアちゃん⋯⋯そしてこの状況を楽しんでいるアリエル。


 アリエル⋯⋯いつか絶対泣かせてやる。


 このまま逃げ出したいが、出口は塞がれているしそれは不可能だろう。

 答えを出さねばならない。

 俺は断腸の思いで口を開く。


「い、言いました⋯⋯」

「う、うそ⁉️」

「ヒ、ヒイロちゃん⋯⋯」


 その瞬間リアナとラナさんが凍りついていた。


 いいさ⋯⋯どうせ俺はロリコン変態野郎としてこれから生きていけばいいんだ。

 今の言葉で1人の少女の笑顔が護れたなら本望さ。


「ありがとう⋯⋯お兄さん⋯⋯」


 エルミアちゃんは感情が顔に出ないからよくわからないが、たぶん嬉しそうに見える。


「それじゃあ妾も一緒に寝てよいということじゃな」

「はっ? 何でそうなるんだ」


 アリエルの言葉の意味が全く理解できない。


「妾もエルミアと同じ、誰も知り合いがいない世界に飛ばされた可哀想な少女じゃぞ」

「それはそうだけど⋯⋯」


 だが正直アリエルなら、1人で生きていけそうに見えるが⋯⋯。


「なんじゃ? エルミアは良くて妾はダメなのか? ひどいのじゃ⋯⋯」


 くっ! そう言ってアリエルは目に涙を浮かべてきた。

 女の涙はずるいというが、確かにこれを見たら、はいかイエスしか言えなくなる。


「わ、わかっ⋯⋯」

「「ダメ!」」


 しかし突如リアナとラナさんの叫び声が聞こえ、俺は言葉を止める。


「年端もいかぬ少女の願いを無視するつもりなのか?」

「と、年端もいかないってあなた何歳よ!」


 確かにラナさんの質問は気になるところだ。見た目は2人とも10歳(エルフなら100歳)くらいに見えるけど実際はどうなんだろう。


「妾か? 妾は220歳じゃ!」

「私より年上じゃない!」


 アリエルの言葉にラナさんが盛大な突っ込みを入れる。

 だがその気持ちはわかる。この子は見た目は子供で頭脳は大人だったのかよ!


「ヒイロと寝るなんて絶対ダメよ! 何かあっても合法になっちゃうじゃない⋯⋯」


 ラナの声は後半ボソボソと小さな声で言っていたので、誰も聞こえていなかった。


「残念じゃ⋯⋯いや残念じゃったのはヒイロかのう」


 その言葉に一瞬ドキッとするが俺は平静を保つ。

 確かに両手に花で寝るのも悪くないと思ったが、それは皆には内緒だ。


「な、なんのことかな⋯⋯それよりエルミアちゃんもまさか⋯⋯」


 見た目より年上なのか!


「私は⋯⋯100歳⋯⋯だよ⋯⋯」


 良かった⋯⋯もしこれでエルミアちゃんが年上だったら、エルフを信じることができなくなりそうだった。


「ラナちゃんは年相応なのかな、かな」


 リアナだから出来そうな質問をラナさんにする。


「わ、私はちゃんと年相応で15⋯⋯って何言わすつもりなのよ!」

「ごめん、ごめん」


 仲いいなあこの2人。もし俺が聞いたら回し蹴りが飛んでくるのは間違いないだろう。


「あなた達何をしているの?」


 レナが部屋の外から現れ、声をかけてくる。


「もう皆待っているわよ」

「「あっ!」」


 そういえばリアナが部屋に入ってきた時、ディレイト王が来てほしいって言ってたな。


「何をやっておるのじゃお主達は⋯⋯時代が時代なら首を切られてもおかしくないぞ」

「アリエルがかき乱したせいだろ!」

「妾は事実を述べただけじゃ」


 その言い方が問題なんだよ。わざと誤解を招くよう遠回しに言いやがって。


「ヒイロちゃん早く早く!」

「早く行くわよヒイロ!」


 だがアリエルを問い詰める前に俺は2人に押されて、メルビア城の玉座へと向かうのであった。



「遅れて申し訳ありません」


 既に玉座の間には王を初め、俺達の仲間、そして大臣や貴族と思われる方達が膝を着き待っていた。


「よい⋯⋯それよりも今日は2つほど話がある」


 2つ? 何だろう。


「まずは1つ⋯⋯レナ殿から御借りしたグリトニルの眼鏡で、我国の重鎮達を確認してみたが⋯⋯」


 魔族はいたのか!



 いない⋯⋯だと⋯⋯⁉️


「良かったです⋯⋯メルビアは魔族に侵されていなかったのですね」


 メルビア王国の王女であるティアは安堵の息をつく。


 けどそんなはずは⋯⋯ルドルフさん達は各国に、メルビアにも魔族がいると言っていた⋯⋯いやまてよ。


 俺は回りを見渡してあることに気がついた。


「ティアリーズ王女⋯⋯そうとは限りませんよ」


 王や重鎮の前だからか、珍しく真面目な顔でグレイが意見をする。


「どういうことでしょうか?」

「ディレイト王はと仰ってました⋯⋯言い方を変えれば、この場にいない人が魔族だったということでしょう」

「えっ⁉️」


 グレイも気がついていたか⋯⋯俺達が知る、ある人物がここにはいない。


「ま、まさか⁉️ マリウス伯爵ですか⋯⋯」


 ティアは驚愕の表情で言葉を紡ぐ。

 そう⋯⋯この場には俺達を好意的に見てくれたマリウス伯爵が不在だ。


「その通りだティア⋯⋯【グリトニルの眼鏡】を手に入れた後、マリウスが行方がわからなかったため、使いのものを出したら屋敷の中は、白骨の遺体が蔓延っておった」


 本物のマリウス伯爵と使用人達を虐殺されたということか!


「マリウスには【グリトニルの眼鏡】のことは話してあった⋯⋯【グリトニルの眼鏡】を手に入れたことで正体が見破られると思い、逃げ出したのだろう」


 玉座の間には重苦しい雰囲気が漂う。

 自分達が一緒に働いていた者が魔族だったんだ。一歩間違えれば自分が殺されてしまうかもしれなかった⋯⋯そう考えると恐怖でしかないだろう。


「マリウスのことは残念に思う⋯⋯しかし今そのことを嘆いて歩みを止める訳には行かん!」


 マリウス伯爵のことは悲しく思うが、メルビアから魔族を排除できたことは喜ばしいことだろう。


「そして君達をここへ呼んだもう1つの理由は⋯⋯これだ!」


 ディレイト王が合図をすると兵士が俺達の前に宝箱を置いた。


「此度はよくぞゼヴェル討伐を成し遂げた。君達のおかげで被害は少なかったが、メルビアの存亡の危機であったことは間違いないだろう。これは少なからず私からのお礼だ」


 王様から褒美とかテンション上がるんですけど! それは俺だけではなく仲間達もそうだったようで、高揚しているが見てわかる。


「ははっ! ありがたき幸せ!」


 臣下のように振る舞い、俺達は宝箱を開けるとそこにはライトアーマーが入っていた。


「ヒイロくんとリアナくんにはミスリルの鎧を、その他の者にはフェニックスの羽が織り込まれいる服を授けよう」


 ミスリル⋯⋯だと⋯⋯。


 ミスリルと言えば希少金属で、軽量だが防御力が高い。冒険者として1度は身につけてみたい防具の1つだ。


「しかもこれ、それぞれによってデザインが違うわよ」


 確かにラナさんの言うとおり、ぶどうぎのようなものだったり、修道服だったりと個々に合ったものになっている。


「熱や冷気を防ぐ作用があるので、魔物との戦いにも役に立つだろう」


 そんな効力が⋯⋯さすがは王族からの褒美だ。


「た、大変です!」


 玉座の間に突如1人の兵士が慌てて飛び込んできた。


 これは嫌な予感がするぞ⋯⋯ゼヴェルが現れた時と同じ下りだ。


「王の御前である! 控えろ!」


 バルト宰相が兵士に対して叱責する。


「し、失礼しました!」


 兵士は直ぐ様、王の前で膝をつく。


「よい⋯⋯それで何かあったのか」

「ル、ルーンフォレスト王国が⋯⋯」


 兵士は慌てているのか、言葉を上手くすることができていない。


「ルーンフォレスト王国がどうした!」


 ディレイト王は兵の慌てようがただ事ではないと感じ取ったのか語気を強める。


「ルーンフォレスト王国が⋯⋯各国に宣戦布告してきました!」


 この時兵士の報告を聞いた、玉座の間にいる者達全員に激震が走った。


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