第209話 巫女達の秘密

「ゼヴェルは2回封印されたということなの⁉️」


 巫女のことだからなのか、珍しくレナが驚いた様子でアリエルに問いかける。


「一族の伝承にはそんなことは伝えられてなかったわ」

「それは妾にもわからぬ⋯⋯じゃが1度しか起きていないことをわざわざ伝承にして、後世に伝えんじゃろ。2回以上起きた出来事だからこそ伝承にしたとは考えられんか」


 確かにそうだ。1度封印して復活したからこそ、レナの一族が後世のために語り継いできたのかもしれない。


「妾が巫女の力を使って、封印などという手段を取ってしまったために、後の時代の者達に苦労をかけてしまった」


 アリエルはエルミアとレナへと慈しむような目で見る。


「妾は良かった⋯⋯自分の意志でゼヴェルを封印すると決めて行動したからのう⋯⋯じゃがエルミアは⋯⋯」


 まさか無理矢理封印をやらされたのか⁉️


「妾はゼヴェルとなっても意識はあった⋯⋯エルミアが辛い目に合う所を目の当たりにしていたからのう」


 最悪だ⋯⋯こんな小さな子にゼヴェル封印を押しつけるなんて。


「その時のことがあって、人やエルフと関わるのが怖くなってしまったのじゃ。じゃから小芝居でもして、少しは和ませればと思ったのじゃが⋯⋯」


 なるほど⋯⋯結果として俺が断罪されただけだったが一応考えあってのことか。ならグチグチ言うのはやめよう。


 今ふと思ったのだが、ゼヴェルや巫女が封印できることをレナやラナさんの一族しか知らなかったことは、エルミアのことがあったからなのかもしれない。巫女が本人の意志を関係なしに祭り上げられないよう、心ある人達が情報を消していったような気がする。


「け、けど何でヒイロには懐いているのよ!」


 それは俺も教えてほしい。


「言ったじゃろ? ゼヴェルになっても意識はあったと。それはもちろん妾だけではなくエルミアもそうじゃ。最初は怯えておった⋯⋯特にゼヴェルの体の中に手を入れて魔法を放たれた時は恐怖で叫んでおった」


女神の息吹きアルテナブレス】をした時か。


「じゃがこやつは自分の命が危険な状態で、助けられる確証がなかった妾達を救う選択をしてくれたのじゃ」


 確かに【女神の息吹きアルテナブレス】ではなく先に【煉獄魔法インフェルノ】を使っていたら、石にされることはなかったけど、もし生きていたら絶対に救いたかった⋯⋯なぜなら彼女達は、自分の命をかけてゼヴェルを封印してくれたから。


「それがヒイロちゃんの良いところだから」

「そうね。私や姉さんも命を救ってもらったわ」

「私も魔王軍に拐われた時助けてもらいました」

「困っている人がいたら見過ごせませんよね⋯⋯ヒイロくんは」

「お兄ちゃん偉いね」


 何だか皆が褒めてきて背中がむず痒いぞ。


「じゃからエルミアが皆に懐かなくても許してもらえんか⋯⋯」


 アリエルの問いに皆が頷く。


「けど仲良くなる努力はしてもいいよね」

「わ、私も!」


 何故かラナさんは、エルミアと仲良くなるために必死なように見える。クロの時も思ったが、ラナさんは可愛いもの好きなのかな。


「そこの人間の娘はもしかするとエルミアと仲良くなれるかもしれんが、エルフの娘は無理かもしれぬ」

「な、なんでよ⁉️」

「言ってよいのか?」

「ええ⋯⋯ぜひ聞きたいわ」


 何だろう? リアナはよくてラナさんはダメな理由は。まさか自分と同じエルフだから? いやいや⋯⋯そんなはずはないよな。


 そしてこれから言うアリエルの言葉は、俺の予想の斜め上を行くものだった。


「他の者はうまく隠せている気がするが、お主だけはこの男に対する気持ちを隠せてないからのう」


 えっ? ラナさんが俺を好き? いやいや⋯⋯つい最近それは違うって言われたばかりだろ。


「そういえばラナはヒイロくんがゼヴェルから落下した時、逸早く助けに行ったわね」

「べ、別に仲間を助けるのは当然でしょ⁉️」

「そうかなあ⋯⋯あの時のラナは、好きな人は絶対私が助ける! て乙女の顔をしてたわ」


 レナの問いに皆が同意している。

 やっぱりラナさんは俺のこと⋯⋯それはないか。危うく勘違い男の痛い奴になる所だった。


「な、な、仲間として信頼しているだけよ!」


 ですよね。


「以前のラナだったら⋯⋯好きじゃない! 嫌いよ! くらい言ってると思いますが」

「さすがティアちゃんは王女だけあってよく見ているわね。たぶんラナは嘘でも好きじゃないとか嫌いって言いたくないのよ」


 怒り? からなのか、ティアとレナの言葉にラナは顔が真っ赤になる。


「2人ともいい加減にしなさーい!」


 ラナの叫び声が、部屋中に響き渡り、追いかけられるレナとティア。


「この時代の者達は賑やかで退屈しなそうじゃのう」


 3人の様子を見て、ニヤリと笑みを浮かべるアリエルであった。

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