第205話 魔界獣ゼヴェル(10)
「うおぉぉぉ!」
ザイドが雄叫びを上げながら氷魔の斧を振るうと、小型ゼヴェルは容易く吹き飛んで行き、近づくことさえ許さない。
小型ゼヴェルはそれならと距離を取って石化ブレスをしても、氷魔の斧の特殊能力の1つである氷の壁に阻まれてしまう。
「何よこいつ⁉️ 圧倒的じゃない!」
ザイドの戦いぶりを初めて見るラナさんは、その暴力的な力に驚きの表情を浮かべる。
これで小型ゼヴェルの方は何とかなりそうだ。後は本体のゼヴェルを倒すだけだ!
「ムダダ⋯⋯ナニヲシテモケッカハカワラナイ」
ゼヴェルは再度瘴気を口に集約させ、こちらに石化ブレスを放とうしている。
ザイドは小型ゼヴェルと戦っているため、防御を当てにすることはできない。
マーサちゃんとレナは疲労で動ける状態ではないので、ここは俺がやるしかない。
そしてゼヴェルから城壁に向けて、広範囲の石化ブレスが飛んでくる。このままだと俺達はおろかリアナ達も石にされてしまう。
「ヒイロくん!」
「ヒイロさん!」
レナとマーサちゃんが恐怖に声を上げるが、既に対策を講じているから大丈夫。
俺は右手に込めた魔力を解放する。
「【
液体窒素の白き霧が、黒い瘴気のブレスとぶつかり相殺させる。
ザイドの氷の壁で防げるならと思ってやってみたが、やはり予想通り石化ブレスを防ぐことができた。
「2人とも大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
「ありがとう」
だが護っているだけでは勝てない。
何か⋯⋯何か奴を倒す方法はないのか⁉️
「ザイド! お前はゼヴェルを倒すことができないのか!」
「悔しいが接近すると石にされてしまう。それに近づいたとしても一撃でゼヴェルを倒すことはできぬ!」
ザイドの言う通り、一撃で倒さないとおそらく直ぐ様石化ブレスを放たれ、接近している分かわすことは困難だろう。
護ることはできるけど攻撃する手段がない。
魔法無効化が厄介であることは間違いないが、今までスキル【魔法の真理】に頼りすぎて、剣技を磨いてなかったからそのつけがきたのか。
だがそれを今悔やんでもしょうがない。
どうする⁉️ 奴を倒す方法はないのか!
その後、幾度となく小型ゼヴェルを蹴散らし、ゼヴェル本体のブレスを防いでいたが、結局良い作戦が思い浮かばず。MPだけがイタズラに消費しており、残りはのMPは2/3を切った。
このままだとこちらが負けるのは確定事項だ。
「コレデ⋯⋯オワリダ」
そう言ってゼヴェルは石化ブレスを放とうとするが、これまでに比べて溜めが長い。
「ヒイロ! 何か変だぞ!」
俺と同じ様に何かを感じ取ったのか、グレイが大声を上げ忠告してくる。
だがブレスであることは間違いなさそうなので、迎撃するため、俺は魔法を唱える。
「【
液体窒素の白き霧が、黒い瘴気とぶつかり相殺させる⋯⋯ことができず【
「なんだと!」
ゼヴェルのブレスは、黒い霧であることは確かだが先程とは違い、黒いながらも色が⋯⋯そう黒光りしたものだった。
「さっきとはブレスの純度が違うっていうのか⁉️」
白い霧を貫いた黒光りしたブレスが迫ってくる。
「ザイド!」
「わかってる!
俺の考えを察してくれたのか、ザイドは直ぐ様3重の氷の壁を展開してくれる。
だが黒光りのブレスは1枚、2枚と氷の壁を打ち破り、そして3枚目を貫こうとしていた。
「あっ⋯⋯」
まずい! 札による攻撃の使いすぎなのか、レナは反応出来ていない!
ブレスの威力は弱まっているがこのままだとレナに当たってしまう!
そう思った瞬間、俺は無意識にレナを護るよう左手を伸ばす。
パリンッ!
無情にも氷の壁は砕けちり、黒光りのブレスがレナを襲う。
「間に合えぇぇぇ!」
そして間一髪ブレスとレナの間に手を入れることができ、レナを護ることができたが、代わりに俺の腕から激痛が走る。
「ぐあぁぁぁっ!」
痛い! 今まで感じたことのない痛みが俺を襲う。
だが次第にその痛みは消え、徐々に腕が石化してくる。
そして左腕からは感覚がなくなり、あるのは灰色の無機物となった石であった。
「レ、レナさん大丈夫?」
「ああっ⋯⋯わ、私を守るためにヒイロくんの腕が⋯⋯」
クソッ! まさか俺とザイドの護りを突破するなんて思わなかった。レナが泣きそうな表情でこっちを見ている。
「ごめんね⋯⋯ごめんね⋯⋯」
レナの目から涙がポロポロと流れだした。
「ヒイロさん大丈夫⁉️」
マーサちゃんが俺達の方へと駆け寄ってくる。
「ああ⋯⋯石になったことで逆に痛みとか感じないから平気だよ」
2人に心配をかけないように笑顔で言ったが、マーサちゃんも俺の腕を見て、涙を流してしまう。
「ごめんなさい⋯⋯ゼヴェルを止めることができなくて⋯⋯」
「そんなことない。マーサちゃんとレナはよくやってくれてるよ」
レナとマーサちゃんの魔力は限界だ。それにザイドやリアナ達も後どれくらい持ちこたえられるかわからない。
ちくしょう! 皆死力を尽くして戦ってくれているのに⋯⋯何がゼヴェルを倒すだ! 何がレナの運命を変えてやるだ! 自分が情けなくて涙が出る。
「ヒイロくん⋯⋯後は私に任せてください」
レナが涙を拭い、覚悟を決めた目でこちらを見つめてきた。
まさか⋯⋯。
「ゼヴェルを⋯⋯ゼヴェルを封印します」
レナはメルビアを、仲間を、妹を⋯⋯そしてヒイロを護るため命をかける事を決意した。
「それはダメだ!」
「そうですよレナさん!」
「もうこれしか方法はありません。今のゼヴェルには多少なりともダメージは入っているから封印できるはずです」
「だけど封印したらレナさんは⋯⋯」
次のゼヴェルとなり、何百年も眠りについて⋯⋯そして人間を襲う。
そんな未来が確実に待っているのに、レナにはもう昨日のような迷いは瞳に見られない。
逆に命をかける強い意志を感じる。
「ハハッ⋯⋯」
「ヒイロくん?」
「えっ? ヒ、ヒイロさんどうしちゃったんですか突然笑いだして⁉️」
「ごめん⋯⋯自分の甘さ加減に笑いが込み上げて来ちゃって。大丈夫⋯⋯ゼヴェルを倒す方法を見つけた」
「本当に⁉️」
「ああ、だから2人は残った力を振り絞って、全力でゼヴェルを攻撃してくれないか」
「わかりました! 任せてくださいヒイロさん!」
マーサちゃんは元気に返事をしてくれた。いつまでもその素敵な笑顔と元気を忘れないで欲しいものだ。
「ザイド聞こえたか! お前も頼む!」
俺は城壁の下にいるザイドにも伝える。
「承知した!」
準備は整った。後は3人の攻撃を待つだけだ。
「ヒイロくん⋯⋯その方法は危険じゃないの?」
勘がいいのかレナが鋭い質問をしてくる。
「何を言ってるんだ⋯⋯この戦い事態が既に危険じゃないか!
レナは俺の目を見据えてくる。
まずい⋯⋯ひょっとして
「わかりました。全てをヒイロくんに託します⋯⋯無事に帰って来て下さいね」
「ああ」
ごめんレナ。それは約束できない。
俺は心の中でレナに謝る。
「行くぞ! 唸れ!
氷魔の斧から発せられる吹雪が合図となり、レナとマーサちゃんもゼヴェルに向けて攻撃態勢に入る。
「は、八雷神の1つよ。我が祈りに答え、眼前の敵を滅ぼせ⋯⋯【
「これが私の最後の力だよ!」
レナの雷とマーサちゃんの魔力弾がゼヴェルに襲いかかる。
これで倒せるとは思っていない。だが陽動には十分だ。2人とも満身創痍の中良くやってくれたよ。後は任せろ!
「レナ⋯⋯幸せになれよ。マーサちゃん⋯⋯君がいてくれて助かった」
「ヒイロくん⁉️」
「まさかヒイロさん死ぬつもりじゃ⁉️」
そして俺はゼヴェルを倒すため魔法を唱えた。
「【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます