第204話 魔界獣ゼヴェル(9)
氷の壁がゼヴェルの瘴気に触れて石化していく。
「今の声⋯⋯それにこの防御方法は⋯⋯ザイドか!」
城壁の上にはかつてエリベートの街道で激闘を繰り広げた、魔獣軍団団長のザイドの姿があった。
「げっ! こんな時にあいつも来たのか!」
「あれはルーンフォレストで私が襲われた時にいた⋯⋯」
ザイドに見覚えがあるグレイとリアナは、突然の来訪者に思わず声を上げる。
「ヒ、ヒイロさんこの方は⋯⋯」
ザイドを初めて見るマーサちゃんは、そのあまりの巨体とオーラに、恐怖で声が震えている。
無理もない。いきなり2メートルを越すリザードマンが現れたんだ。
探知魔法に引っ掛からなかったのは、おそらく前にも使っていた転移の翼を使ったからだろう。
だがザイドは何をしに来たんだ。
さっきはレナとマーサちゃんを護ったように見えたけど⋯⋯もしゼヴェルと共に俺達を殺すつもりで来たのなら最悪の展開だ。
俺達のパーティーは全滅するだろう。
「前回戦った時の借りでも返しに来たのか?」
「ふっふっふ⋯⋯それもいいかもしれんな」
そしてザイドは自分の武器である氷魔の斧を構える。あの斧は攻守を兼ね揃えた最強の武器だ⋯⋯厄介なことこの上ない。
どうする? 今はこんなことしている暇なんてない。何とかザイドだけでもこの場から引いてもらいたいが⋯⋯。
「ヒイロちゃん! 石化ブレスが!」
リアナが声を上げた時には既に黒い瘴気が迫っていた。
「しまった!」
気づいた時には既に遅く、魔力を込めて魔法を使う時間がなかった。転移も防御もできない。
俺はやられたと考えが過ったが、思いもよらない所から助けが入った。
「
ザイドか展開した氷の壁が俺達を包み、石化ブレスから護るような形になる。
「どういうことだ⋯⋯」
なぜザイドは俺達を⋯⋯。ゼヴェルと共にメルビアを滅ぼすために来たのではないのか⁉️
「⋯⋯貴様を殺すのは俺だ。あのような殺戮兵器ではない」
「殺戮兵器?」
「そうだ! なりふり構わず石にするなどそのようなものは戦いではない! 虐殺だ!」
今の発言を素直に捉えると魔王軍でもゼヴェルは異質な存在なのか? それともザイドだけが特別な考えを持っている?
「不本意ではあるが、ゼヴェルを倒すために貴様に力を貸してやろうか?」
「力を貸す⋯⋯だと⋯⋯」
耳を疑うようなことを言ってきた⁉️
魔王軍の一軍を預かる者が、俺達に力を貸すなんて⋯⋯。
確かにこの劣勢に追い込まれた状況で、ザイドが味方になってくれたら助かるが⋯⋯。
前回ザイドと戦闘した時、奴は純粋に戦いを楽しむタイプに見えた。だから剣や魔法を交えずに決着が着く方法をよしとしていないのか。
正直今は猫の手でも借りたい。だが
「ヒイロちゃん!」
小型ゼヴェルとの戦いが落ち着いたのか、突如リアナが城壁の上へと上がってきた。
「下は大丈夫なのか?」
「数は減ってきているから後はラナちゃんにお願いしてきた」
確かに城壁の下を覗いて見ると小型ゼヴェルは後4匹ほどしかいなかった。
「それより⋯⋯私はザイドちゃんのこと信じていいと思う」
「ザ、ザイドちゃん⋯⋯だと⋯⋯」
言われことのない可愛い呼び方にザイドは困惑している。
こんな時でもリアナはリアナだと改めて認識し、強ばっていた俺の肩の力が抜ける。
「それはなぜだ?」
「ルーンフォレスト王国で魔物の軍勢に囲まれた時⋯⋯」
リアナがランフォースの策略で魔物に差し出されたことか⁉️ 今思い出すだけでもはらわたが煮え繰り返ってくる。
「ザイドちゃんはこの人数で勇者を襲うのかあとか、武人の誇りを何だと思ってるってボルデラに叫んでいたよ」
あの時ザイドもいたのか! もしザイドが戦いに加わっていたら間違いなく俺がたどり着く前にリアナは死んでいただろう。
「だから私は信用してもいいと思うよ」
魔物を⋯⋯しかも魔王軍の団長を信用するか⋯⋯普通ならあり得ないことだ。だがリアナはこう見えて見る目があるし、それにさっき自分自身も思っていただろ⋯⋯
「頼むザイド⋯⋯力を貸してくれ」
敵に助けを求めるなどありえないが、これで皆が助かるなら安いものだ。
「フッフッフ⋯⋯やはり面白いな。頭を下げられているのに卑屈さを見せず、何か信念のようなものを感じるなど初めてのことだ」
何かよくわからないが、ザイドは笑みを浮かべているように見える。
「いいだろう⋯⋯ゼヴェルを倒すため、この魔獣軍団団長ザイドの力を貸してやる」
「助かる」
「ありがとうザイドちゃん」
「力は貸すがその⋯⋯ザイドちゃんはやめろ」
何か照れた様子でリアナに忠告するザイド。
「え~、ザイドちゃんはザイドちゃんだよ⋯⋯よろしくね」
「うっ⋯⋯」
リアナの無邪気な笑顔が炸裂し、ザイドは困惑している。
「リアナ戻ってきて! 敵の援軍が来たわ!」
この時、城壁の下で戦っていたラナさんから声が発せられる。
どうやらゼヴェルは、自分の毛から新たに小型ゼヴェルを産み出したようだ。
「わ、私に任せろ!」
ザイドはこの場から逃げるように城壁から飛び降り、小型ゼヴェルの所へ向かうのであった。
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