第192話 恋の駆け引き?

 レナさんを救出した翌日


 昨日はえらい目にあった。まさか結婚という人生の岐路に立たされるとは思わなかったぞ。結局転移魔法で逃げた後、皆から問い詰められることはなかったけどいずれ何らかの解答を出さなければならない時がくるかもしれない。特にキスしたら結婚する決まりを知っていたラナさんには⋯⋯。


 トントン


 突然部屋のドアがノックされ、まさか昨日の件で何か言われるのではないかと一瞬ビクッと反応してしまう。


 だ、誰だ。

 その答えは相手が声をかけてきたのですぐにわかった。


「ヒ、ヒイロ⋯⋯起きてる? 少しいいかしら?」


 ラナさんだ。

 何だろう⋯⋯まさか昨日の返事を聞きに来たとか?

 緊張しているのか声が少し震えているような気がする。


「どうぞ」


 俺が声をかけるとゆっくりとドアが開いていく。


「お、おはようヒイロ」

「ラナさんおはよう」


 ラナさんの顔はいつもより少し紅潮している気がする。やっぱり昨日のことが尾を引いているのか。

 だがそんな中、なぜ俺の部屋に来たんだろう。


「ヒ、ヒイロ!」

「はい!」


 突然ラナさんが大きな声を出してきたので、思わず俺も同じくらいの声量で返してしまった。


「姉さんから大事な話があるらしいの! 王様も含めてお話するから急いできて」

「わ、わかった」


 てっきり昨日のことかと思ったが違ったようだ。

 それにしてもディレイト王を含めた大事な話? 何だろう?

 これは早くレナの所へ向かった方がいいのかもしれない。


「ヒイロちょっと待って!」


 部屋の外に出ようとした時、ラナさんから声をかけられる。


「そ、その⋯⋯昨日のことなんだけど⋯⋯」


 きた! 今はその話はないかと思ったが、どうやらそうもいかないようだ。

 ラナさんのことが好きか嫌いかで言ったらもちろん好きだ。

 容姿が綺麗で、性格も真っ直ぐで、ちょっとツンデレが入っている所が好みだ。それに何より仲間のために一生懸命になれるところが好ましい。


 だけどそういう想いを持っている娘は他にもいて、今何て答えればいいか、うまく言葉が出ない。


「き、気にしないでいいから」

「えっ?」

「村の風習だけど、私はもうセルグ村を離れているから⋯⋯昨日のキスはあくまでお礼のキス⋯⋯勘違いしないでよね」


 勘⋯⋯違い⋯⋯。


「まさか私がヒイロのこと好きだと思った? 結婚できると思ってたの?」

「いや、まあ結婚までは考えてなかったけど恋人くらいは考えたかな」

「ば、ばっかじゃないの! そ、そ、そ、そんなわけあるわけないわ」


 否定している割にはめっちゃ動揺してどもってますけど。


「もう昨日の話は終わり! キスも深い意味はないから!」

「そ、そうだね⁉️ 俺がラナさんと付き合えるわけないよね⁉️ ごめん、もうこの話は忘れるよ」


 あぶねえ⋯⋯1人でその気になっていたよ。

 ラナさん俺のこと好きだよね? だったら付き合おうかなんて言ったら恥をかくどころじゃない。自信過剰のただのうざい奴だ。


「レナから話があるんだよね? 行こうか」

「そうね⋯⋯早く行かないと」


 ドアを開け玉座の間へと向かう。


 そんなヒイロの背中を見てラナは一言だけ呟く。


「何も想わない人にキスするはずないでしょ⋯⋯ヒイロの⋯⋯ばか⋯⋯」


 しかしその声は残念ながらヒイロの耳には届くことはなかった。


 ん? ラナさんが後ろから着いてきてないぞ。


「ラナさん行かないの?」

「ううん⋯⋯行くわ」


 何だろう⋯⋯今一瞬だけどラナさんは泣きそうな表情をしていたように見えたが気のせいか。


 ラナside


 もう何なのこの朴念仁は! 私、けっこうアピールしてるわよね? これで気づかないなんてありえないわ!

 けど⋯⋯本当に気づいてないのかもしれない。私以外にもヒイロが好きな娘はいっぱいいるけど手を出している様子は全然ない。

 このハーレム的状況を楽しみたくて、わざと気づかない振りをしているの? それとも私が知らないだけでこれが恋愛の駆け引きというやつなのかしら。


 うぅ⋯⋯やめてよね。私恋愛の経験値なんて全くないのよ。それこそレベルでいったら1よ1!

 雑魚モンスターに一発でやられるほどなんだから。


 いいわ⋯⋯今は無理でも、いつか貴方でもわかるようハッキリと言って上げる!


「ヒイロ!」

「何?」

「きっとあなたに届けて見せるから」


 ヒイロは何のことかわからないって顔をしているけど、今はそれでいい。


 覚えてなさいよ! 貴方に私の恋の一撃を食らわせて、好きって気持ちをわからせてやるんだから!


 こうしてヒイロとラナの件は有耶無耶になったが、1人の少女が一歩踏み出すためのキッカケになった出来事であった。


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