第191話 誤解
【
俺はレナに魔法を使うと奴隷の首輪が跡形もなく消え去った。
「あ、ありがとうヒイロくん」
レナからお礼を言われるが、どこか様子がおかしい。顔を赤くして何だかモジモジしている気がする。
「その⋯⋯大したお礼はできないけど受け取って」
レナはそう言ってこちらに近づいてくる。そして女の子特有の甘い香りがすると同時に、レナの綺麗な唇が俺の口を塞いだ。
「んっ!」
俺は突然の出来事に一瞬驚きの声を上げるが、あまりの気持ちよさに自然と目を閉じる。
「ふふ⋯⋯私のファーストキスよ。初めてだから上手くいかなかったかららもう一度していい?」
頬を染め、照れる表情を作るレナの問いに俺は操り人形のように頷くしか出来なかった。
そして2度目キスをかわすと今度は1回目より余裕ができ、その気持ちよさを堪能することが出来た。
この時間がいつまで続けばいい⋯⋯そう思っていたが、それは周りにいるみんなが許すはずがなかった。
「「「「キスっっっ!」」」」
「ヒ、ヒイロちゃん⁉️ 何をしているのかな、かな」
「私という婚約者がいながらまた⋯⋯もうこうなったら私にもキスして下さい!」
「私も奴隷なのに⋯⋯ヒイロくんは全然手を出してくれません」
「お兄ちゃん⋯⋯ひょっとして奴隷の契約がまだ解除されていないのかな? まさか得意の認識阻害魔法で首輪を見えなくしているの?」
「ヒイロてめえ! 何でお前だけいつも⋯⋯ちくしょう!」
「ね、姉さん⋯⋯いくら助けてもらったお礼だからといって、唇にキスをするのはどうかと思うわ」
「「「「「あんたが言うな!」」」」」
ラナさんに対してみなの一糸乱れぬ突っ込みが入る。
「ラナちゃんは数時間前のことを忘れちゃったのかな、かな」
「まさか自分はヒイロさんの恋人だからいいと言う訳じゃありませんよね」
「こうなったら私もヒイロくんが寝ている間に⋯⋯」
「ラナは自分の行動を省みて下さいね」
「こうなったらもう⋯⋯ヒイロ! キスさせろ!」
「ふざけるな! 何を言ってるんだ!」
「今お前の唇にはラナちゃんとレナちゃんの温もりが残っているんだ! 直接することができないならせめてその感触だけでも!」
グレイはレナのキスがショックだったのか血迷ったことを言い始めた。
「冗談じゃない! ここにいる女性陣ならいいけど何が悲しくて男とキスをしなくちゃならないんだ!」
グレイとキスをするくらいなら死を選ぶぞ。
しかし幸いなことに俺の魂の叫びを受けて、グレイの目は正気に戻ってくれた。
「す、すまねえヒイロ⋯⋯あまりに羨ましすぎて混乱していたようだ」
良かった⋯⋯本当に良かった。グレイとキスなど罰ゲームでしかない。
だがこの話はまだ終わらなかった。
「ヒ、ヒイロちゃんはそんなに⋯⋯キ、キ、キスがしたいの⁉️ どう~してもしたいっていうなら⋯⋯ヒイロちゃんが一生のお願いっていうなら⋯⋯わ、私がして上げなくもないよ」
「それなら婚約者として私が立候補します」
「私はヒイロさんの奴隷ですから、命じて頂ければいつでも⋯⋯」
「ごめんなさいお兄ちゃん⋯⋯この間助けてもらった時、口じゃなくて頬にキスしてしまって。今からやり直しをしてもよろしいでしょうか?」
「わ、わたしは嫌だけど⋯⋯助けてくれたお礼が足りないというならしてあげてもいいわよ」
ん? これってひょっとして皆俺とキスをしてもいいって思ってくれているのか⁉️ マーサちゃんやティア、それにルーナはともかくリアナとラナさんも⁉️
「ラナちゃんは1度キスしたからもうだめだよ」
「やっぱりラナさんはヒイロくんのことが好きなんですね⋯⋯いつかリアナさんと予想したことが当たってしまいましたか」
「べ、べ、べ、別に好きじゃないから! 大切な仲間がヒイロに汚されるなら私が代わりにって思ってるだけだから!」
汚されるってひどいな。
だがこの場にいるヒイロ以外は、ラナの言葉を信じていなかった。態度を見ればヒイロが好きなことは一目瞭然だ。
「あらあら⋯⋯ヒイロくんは大人気ね。それなら私も参戦しちゃおうかしら。私は別に1番じゃなくて2番、3番でもいいわよ」
⁉️
レナの言葉に女性陣は騒然となる。
「別におかしいことじゃないでしょ? 2人、3人って奥さんを持つ人はたくさんいるから⋯⋯むしろヒイロくんの遺伝子を後世に残さないことの方が人類の大きな損失だわ」
確かに貴族達は一夫多嫁のことが多い。いいのか? ハーレムを築いても!
「貴様!」
突如グレイが殴りかかってきたため、俺はその拳を受け止める。
「殺す! お前を殺して俺がヒイロになる!」
「何訳のわからないことを言ってるんだ!」
しかし俺の言葉など聞こえていないかのように、グレイはパンチを繰り出してくる。
このままだと殺られてしまう。
右に左にと放たれるパンチを何とかかわすが、徐々にさばききれなくなっている。グレイの攻撃を食らうのは時間の問題だ。
それなら⋯⋯ここだ!
俺はタイミングを見計らいグレイの右ストーレートに合わせて、左の拳でカウンターを放つ。
「幻の左⋯⋯だと⋯⋯」
俺の左が見事にグレイの顔面に突き刺さり、グレイはそのまま地面に崩れ落ちる。
ふう⋯⋯危なかった。
だが俺への攻撃はまだ終わっていなかった。
「死ねぇぇ!」
グレイを倒して安心仕切っていた俺の背後から、新たな刺客が蹴りを放ってくる。
「「お、おとうさん⁉️」」
ラナさんとレナの姉妹の声が重なり、刺客の存在を教えてくれる。
「貴様! レナだけではなくラナにまで手をだしていたとは! しかもそちらのお嬢さん方にも!」
お父さんはそう言い放つと、するどい蹴りを絶え間なく繰り出してきて、俺は息つく暇もない。
「別に俺からキスしたわけじゃありませんよ!」
「そんなことは関係ない! 娘を2人取られて黙っていられるか!」
「取ったっていってもキスしただけじゃないですか!」
「だからそれが問題なんだ!」
どういうことだ? エルフはキスしたら駄目とかそんな風習があるのか⁉️
グレイと違ってラナさんとレナのお父さんを殴り飛ばすわけにはいかない。かといってこのままではいずれ殺られてしまう。しかしそんな中俺に救いの手が現れた。
「仕方ないわねあの人は⋯⋯あなたやめなさい!」
しかしお父さんは、お母さんの制止の声が聞こえても攻撃を止める様子はない。
「何でそんなに怒っているんですか!」
本当にわけがわからない。怒るにしてもちょっと殺意を込め過ぎじゃないか⁉️ 疑問に思っているとその答えをお母さんが教えてくれる。
「エルフは⋯⋯というか私達の村では⋯⋯1度キスした人と結婚をする決まりになっているの」
「えっ⁉️」
「私は人族だけど強いし、カッコいいし、何より私達を助けてくれた子だから言うことはないけどね⋯⋯娘達もあなたのことを気に入っているし」
⁉️
その言葉にラナさんとレナは顔を赤くする。
えっ? まじで⁉️
「しまった!」
俺は姉妹の予想外の反応に足を滑らせて、体勢を崩してしまう。
「だからそれが気に入らないんだ!」
ヤバい!
お父さんはここぞとばかりに俺に迫ってきた。
殺られる!
「いい加減にしなさ~い!」
「げふっ!」
しかし俺が蹴りを食らう前に、ラナさんの拳が見事にお父さんの顔面へと突き刺さり、お父さんは壁まで吹き飛ばされる。
そしてレナは俺を抱き止め、優しく起こしてくれた。
「あ、ありがとう」
「べ、別にあなたのために助けたわけじゃないからね。父さんが恥ずかしいことをするから止めただけよ」
「私はヒイロくんを助けるために行動したから感謝していいのよ」
「あっ! 姉さんずるい!」
「ふふ⋯⋯ラナも素直になった方がいいわよ」
「うぅぅ⋯⋯」
2人が何を話しているのか聞こえないが、とりあえず助かった。
「ラナちゃん⋯⋯ラナちゃんはエルフの村の決まりを知ってたのかな、かな」
ラナさんがどう答えればいいか困っていると、レナがラナさんに小声で何かを語りかける。
「ラナ⋯⋯素直に⋯⋯ね」
レナの言葉の後、ラナさん顔を今まで以上に真っ赤にしながら答える。
「し⋯⋯知っていたわ」
「ふ、ふ~ん⋯⋯そ、それでヒイロちゃんは今のラナちゃんの言葉を聞いてどう返事をするの?」
皆の視線が一斉に俺へと集まる。
レナさんとお母さんはワクワクした様子で。
ラナさんは目を閉じ何かを祈るような気持ちで。
そして残りの女性陣は俺を睨むような目つきで見てくる。
えっ? 何これ? ここで俺の人生決まっちゃうの?
そんなことを今答えないといけないの?
ど、どうする俺⁉️
こんな時は必殺のあれを使うしかない!
「お、俺は⋯⋯」
「「「「俺は?」」」」
「まだそんなこと決められません! 【
「あっ⁉️ 逃げた!」
俺はどのスライムより早く逃げ出すことを選択した。
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