第190話 短いご主人様人生

 ガチャ!


 突然部屋のドアが開くと、ラナさんとレナのご両親が中へと入ってくる。


「レナ! ラナ!」


 お母さんは大きな声を上げ、2人の姉妹を抱きしめると瞳から涙がボロボロと溢れ落ちた。


 そうだ、今の残りのMPなら一回は使えるはずだ。


 俺はラナさん達のお父さんの奴隷契約を解除するため、魔法を唱える。


「【女神の息吹きアルテナブレス】」


 まばゆいばかりの光の中、女性を司った粒子が、ラナさんのお父さんを抱きしめると首に着いていた首輪が一瞬で砕け散ちった。


「あ⋯⋯あ⋯⋯声が⋯⋯声が出るぞ!」


 そしてラナさんとレナさんのお父さんもその輪に加わり、家族が無事揃った瞬間となった。



「良かった⋯⋯本当に良かったよ⋯⋯ラナちゃん」


 ラナさん達のご両親から遅れてリアナ達も現れ、女性陣は皆、この家族の再会に涙を流している。


 俺の仲間達は本当良い奴ばかりだな。

 俺もラナさんを家族に会わせる約束を守ることができ、そしてこの光景を見ることが出来て本当に嬉しく思う。


「みんなありがとう⋯⋯みんなのおかげでこうして家族と無事に会うことができました」


 ラナさんは深々と全員に向かって頭を下げると、少し遅れてレナと御両親も同じ様に頭を下げた。


「皆さんありがとうございました」

「一度は最悪の事態を考えてしまいましたが⋯⋯これも皆様のおかけです」

「私共を含め、娘達を救って頂きありがとうございます」


 その言葉に俺達は嬉しくも、照れくさい気持ちになる。


「困っている人を助けるのは当たり前です」

「ラナちゃんは私達のお友達ですから」

「美人のラナさんの頼みは断れねえぜ」


 グレイの言葉はどうかと思うが、逆に場を重苦しいものにしないためには良かったのかもしれない。


「特にヒイロは⋯⋯私の命を何度も助けてくれて⋯⋯父さん、母さん、姉さんを奴隷の道からも救ってくれた」

「私を奴隷オークションで買い戻すため⋯⋯金貨5,000枚も使わせてしまったしね」

「「「「金貨5,000枚!」」」」


 事情を知っているラナさん達以外の仲間や御両親が驚きの声を上げる。


「うちの娘を救うために金貨5,000枚も⋯⋯」

「ヒイロくんはスケールが違いますね」

「ヒイロちゃん⋯⋯お金持ちだったんだ」

「それだけの金があれば大人の店に行きたい放題じゃないか! 今度連れてけ!」


 俺だって行きたいさ! と女性陣のいる前で言える勇気は、今の俺にはない。


「あれ? レナさんの首に着いているものは奴隷の首輪ですよね?」


 ティアが目ざとく奴隷契約の証を発見すると一斉に皆の視線がレナさんに集中する。


「そうなりますと主人がいるはずですが⋯⋯まさか!」


 今度は俺の方をみんなが見てくる。


「ふ、ふ~ん⋯⋯ヒイロちゃんはまた新しい奴隷を手に入れたんだ⋯⋯昔からそういう内容のエッチな本をいっぱい持ってたよね」


 あ、あれは過去の過ちなんだ! ちょっとした好奇心で手に入れた所を偶々リアナに見られてしまっただけと言い訳したいが、今の俺の言葉を聞く者は誰もいないだろう。


「私だけでは奴隷は足りないのですね」


 このタイミングでルーナが嫌なことを言う。

 ほら見ろ、ラナさんとレナさんの御両親がいぶかしむ目つきで俺の方を見てるよ。


「君はこの娘を奴隷にしているのかね」

「ま、まさかラナとレナを助けたのも2人を奴隷にするつもりで⋯⋯」


 いやいや⋯⋯何を言ってるんだこの人達は。しかし俺の信用は今、地に落ちようとしていた。


「ヒイロてめえ! ルーナちゃんの身体を弄ぶだけじゃなく、ラナさんやそのお姉さんのレナさんまで毒牙にかけるつもりか!」

「だまれグレイ」


 お前が話に入るとややこしくなるだろうが。

 そして案の定先程まで友好的だった御両親が、敵意を持って俺を睨んでいる。


「ヒイロ⋯⋯父さんや母さんに疑われないためにも姉さんの首輪を取ったら?」


 ラナさんが的確なアドバイスをくれる。だか俺にはもう【女神の息吹きアルテナブレス】を使うMPは残っていない。それにどうせなら、レナさんみたいな綺麗な人を奴隷に出来ることなど二度とないだろうから、今この瞬間を少しでも楽しみたい。

 まあ結局何かを命令することはないだろうけど。


「さっきラナさんのお父さんに魔法を使ったから今日はもう無理だ」


 けして嘘は言ってないぞ。少なくても明日まで、レナさんは俺の奴隷だな。


「大丈夫ですよ⋯⋯お父様からMP回服薬を貰ってきますから⋯⋯もしなかった場合はこの国にいる全ての兵士を使って探させますので安心して下さい」


 俺の邪な考えを見透かしたかのように、ティアが先手を打ってくる。


 くっ! 万事休すか!

 それにしてもこの国の全ての兵士を使うのはさすがにやり過ぎじゃないか。


 しかしこの部屋にいるヒイロ以外の者は皆、その言葉に疑問を持っていない。なぜなら美しいレナが、ヒイロの奴隷として側にいることが、危険だとわかっているからだ。女性から見ても綺麗だと思えるレナの色気に、いつヒイロが惑わされてしまうかわからない。つまりは嫉妬しているのである。


「それでは、お父様の所へ行ってきますね」


 短いご主人様人生だった。


 そしてティアは宣言通り、すぐにMP回服薬を持ってきたため、俺はレナの奴隷の首輪を取ることとなった。

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