第193話 封印されしもの

 ラナさんと一緒に玉座の間へ向かうと、俺達が最後だったのか、仲間達、レナさんと御両親、ディレイト王、護衛隊長のトーマスさん、バルト宰相、それに騎士団に出向していたエリスさんとダリアさんが待っていた。


「遅かったねヒイロちゃん⋯⋯まさかラナちゃんとエッチなことをしてたわけじゃないよね」

「な、なんだと! てめえヒイロ! 大人の階段を昇る時は一緒だって約束したじゃねえか!」


 俺の両左右にいるリアナとグレイがばかなことを言ってきた。


「あほか! そんなことするか! 恋人同士じゃあるまいし⋯⋯」

「そうなの!」

「俺は信じてたぜ! 俺達はやっぱり親友だな」


 本当、都合のいい親友だな。


「こら! そこの3人! 王の御前だぞ!」

「「「す、すみません」」」


 俺達は反射的に謝罪の言葉を口にする。


 くそぉ! リアナとグレイのせいでバルト宰相に怒られたじゃないか。


「皆様本日はお集まり頂きありがとうございます」


 レナさんがディレイト王の前に一歩進み、言葉を発する。


「まずは私達親子を救って頂き、そして匿って下さったディレイト王と皆様に感謝の意を述べさせて頂きます」


 レナさん達は深々と俺達に向かって頭を下げる。


「今回私達が、なぜステラ商会の者に捕まってしまったか、その理由ですが、それは定期的にセルグ村へと戻っていたからです」

「だがセルグ村は3年前に滅んだと聞いておるぞ」


 ディレイト王の言う通り、エリウッドの手筈で、セルグ村は人間に襲われ、廃墟となったはずだ。


「まさか私を探すために⋯⋯」


 確かに離れ離れになったラナさんを探すために来ていたなら、わざわざ滅んだ村に来る理由になる。

 しかしそうなるとラナさんは責任を感じてしまうかもしれない。


「もちろんラナと会えるかもしれないから、セルグ村に行ったことも理由の1つですが、他にもう1つあります」


 他に理由? なんだろう?


「皆さんセルグ村にある世界樹はご存知でしょうか?」

「昨今エルフ族を奴隷にする輩が多いため、メルビア王国では森に立ち入ることは許可していないので、我らは知らぬ」


 トーマス隊長やバルト宰相も首を横に振る。

 そうなると世界樹に行ったことがあるのは、この間セルグ村に行った俺とルーナ、ティア、そしてラナさんだけか。


「私達は行ったことがありますよ」

「すごく大きくて⋯⋯何か厳かさを感じる木でした」


 俺もルーナの意見と同じだ。あれほどの大木をお目にかかることは他にはないだろう。


「ラナから聞きました⋯⋯皆様はグリトニルの眼鏡を求めていると」


 グリトニルの眼鏡? なぜここでその話が出てくるんだ。


「しかしグリトニルの眼鏡をお渡しするわけにはいきません」


 今の口振りから、レナさんはグリトニルの眼鏡の在りかを知っているようだ。しかしその上で俺達には渡さないと言っている。


「何故ですか⁉️」


 皆が疑問に思ったことをティアが代表してレナさんに語りかける。


「それは⋯⋯いにしえの時代に現れた魔界獣ゼヴェルを封じるのに必要だからです」


 魔界獣ゼヴェル?


「ゼヴェルを封印するためには世界樹の聖なる力、グリトニルの眼鏡が持つ魔力⋯⋯が必要です」


 ん? 今のレナさんの言い方、少し間があったようにみえたけど。


「そのゼヴェルという魔物は強いのか?」


 ディレイト王が気になる部分を言葉にする。裏を返せばその魔界獣ゼヴェルを倒すことが出来ればグリトニルの眼鏡を手に入れることが出きるかもしれない。


「我が一族に伝わる話では、巨大な狼の姿を持ち、闇よりも暗い毛は魔法を無効化し、そして生き物を石化する瘴気を放つと言われています」

「巨大な狼? それに魔法を無効化だと⁉️ それでは武器による攻撃しか効かぬということか⁉️」

「しかしディレイト王⋯⋯今のレナ殿の話では、接近しても瘴気を放たれて石にされてしまいます」

「となると打つ手がないではないか!」


 本当に魔法が効かないとしたら、俺にとってかなり不利な相手になる。今まで敵に勝つことができたのもスキル【魔法の真理】を使うことができたからだ。


「過去にその魔界獣ゼヴェルは、どうやって封印することに成功したのだ」


 確かに前回封じた方法がわかるなら、今回も同じ手を使えばいい。


「それは巫子の紋章を持つ者が世界樹とグリトニルの眼鏡を使い、ゼヴェルを封印することに成功しました」

「巫女⋯⋯だと⋯⋯そのような紋章は聞いたことがないぞ」

「巫女に関しては問題ありません」

「なぜだ?」

「私がその巫女の紋章の持ち主だからです」


 そう言ってレナさんは左手を掲げ、紋章を見せてくれる。


 あれはぬさか? 神の社で使う、白く長い紙のついた棒だ。


「それならもしゼヴェルが復活したとしても問題ないのではないか」

「⋯⋯いえ、ゼヴェルが万全の状態では、封印することはできないので、ある程度ダメージを与える必要があります」


 まただ⋯⋯ゼヴェル封印に必要な物を話している時と同じ様に、一瞬だがレナさんは何か言い淀んでいる。ひょっとして何かかくしていることがあるのか。


「しかし接近戦は瘴気により石化されてしまう、かと言って魔法は効かない⋯⋯そのようなものにどうやってダメージを当てればいいのだ!」


 瘴気の範囲がどのくらいあるかわからないが、何とかかわしながら近接攻撃を食らわすしかないのか。


「過去に封印した時は天族の協力があったと言い伝えられています」


 レナさんの言葉に誰もが絶望する。冒険者学校にいた頃、ネネ先生が授業で、天族は姿を消したと言っていたからな。


「だ、だがその魔界獣は本当に復活するのか?」

「それを確認するために、私達はセルグ村を訪れていたのですが⋯⋯」


 エリウッドに捕まってしまったというわけか。


「封印が破られる際には、何かしらの予兆があると思います」


 予兆? ひょっとして。


「ヒイロくん、そういえばセルグ村にいた時に」

「ああ、地震があったな」

「地震⋯⋯だと⋯⋯。メルビア王国で地震などきいたことがないぞ!」


 ディレイト王の言うことが確かなら少なくとも3、40年はないということか⋯⋯俺達が行った時の地震が偶々とは考え難くなったな。


「た、大変です!」


 玉座の間に突如1人の兵士が慌てて飛び込んできた。


 これは嫌な予感がするぞ。


「王の御前である! 控えろ!」


 バルト宰相が兵士に対して叱責する。


「し、失礼しました!」


 兵士は直ぐ様、王の前で膝をつく。


「よい⋯⋯それで何かあったのか」

「は、はっ! ほ、北西にあるダライの村が⋯⋯」


 余程あせっているのか、兵士は言葉がうまくでないようだ。


「ダライ村がどうしたのだ⁉️」

「せ、石化して発見されました!」


 兵士の報告により、メルビア王国の玉座の間は騒然となるのであった。

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