第183話 奴隷オークション(2)

「こちらのエルフは勿論生娘でございます。まずは金貨300枚から」

「さ、300枚⁉️」


 あまりの額に思わずラナさんが声を出してしまうが、その声もすぐに周囲の声にかき消されてしまう。


「400枚!」

「500枚!」

「700枚!」


 美しいエルフということで値段はどんどんつり上がっていく。


「800枚!」

「1,000枚!」


 あっさりと金貨1,000枚を越えて行く。

 これだけのお金があれば一般家庭なら250年は暮らしていける額になる。


「ど、どうしましょうヒイロさん」

「何か、何か姉さんを助ける方法はないの!」


 競り上がっていく金貨の枚数に、ラナさんとマーサちゃんは徐々に焦燥した表情を浮かべてくる。だが2人のことは関係なしに、さらにレナさんの値段は上がる。


「1,100枚!」

「1,200枚!」

「ええい! 1,700枚だ!」


 1人の商人風の男が、100枚、200枚と上がっていく金貨の枚数に業を煮やし、一気に500枚の価格を上げてきた。


「おおっと! ここで1,700枚が出ました! もしいらっしゃらないようでしたら、美しいエルフはそちらの方のものになります!」


 しかしそうはならないだろう。なぜならあのボーゲンとかいうキモ豚男爵がまだ1度も競りに参加していない。その理由はたぶん⋯⋯。


「さあ他にいらっしゃいませんか!」

「くっ! 1,700枚は手が出せない!」

「このままではあのエルフが他の奴のものに⋯⋯」


 あまりの額の多さに、ラナさんとマーサちゃんを含んだ、会場にいる者の大半はレナさんを買うことを断念した。


 だがまだ諦めていないものがいる。

 1人は1,700枚で手を上げた商人。そしてもう1人は⋯⋯。


「2,000枚だ」


 レナさんに執着を見せていたボーゲンだ。

 そして口を開いたかと思えば一気に2,000枚まで値段をつり上げてきた。


「くっ! 2,200枚!」


 しかし商人ほまだ諦める気はないようで、なおも食い下がっていく。


「庶民達の醜い争いの果て、僕ちんの圧倒的財力で勝つ⋯⋯何度やってもやめられないなあ」


 ボーゲンはゲスな笑みを浮かべ、勝利を確信している。


 こいつは見た目だけでなく、性格も醜い奴だ。もし貴族として生まれていなければ、生きていくことなどできないだろう。


「2,300枚や!」

「2,500」


 商人は苦悶の表情を浮かべているが、ボーゲンはまだまだ余裕の表情だ。

 おそらくまだ金貨をたくさん持っているのだろう。


「くそお! これがわいの全財産や! 金貨3,000枚!」


 おお!


 大台に乗ったことで会場からも驚きの声が上がる。


「どうや!」


 勝ったといわんばかりに商人は高らかに声を上げる。

 さすがのボーゲンも顔が少しひきつったが、すぐに不気味な笑みに変わった。


「金貨3,500」


 だが商人の思惑ははずれ、ボーゲンはさらなら金額を提示する。


「うそや! わいより多く金を持ってるなんて⋯⋯」


 商人はボーゲンのあまりの金額の多さに、膝をガックリと落とす。


「さあ金貨3,500枚が出ました! これで美しいエルフはボーゲン様のものになるのか!」


 司会者がさらなる金額をつり上げようと買い手を煽る。


「嫌よ! 姉さんが奴隷として売られてしまうなんて⋯⋯」

「残念ながらレナさんが奴隷として買われる運命を回避することはできないよ」

「えっ?」


 俺の言った言葉にラナさんは信じられないといった表情を浮かべる。


「ごめん、行くとこがあるから少し席を外すね⋯⋯【転移魔法シフト】」

「ちょっとヒイロ⁉️」


 ラナはヒイロを呼び止めたが、すぐに転移魔法でこの場からいなくなってしまった。


「ど、どうしますか⋯⋯」


 マーサも突然ヒイロがいなくなり、動揺を隠せない。


「3,500枚⋯⋯3,500枚以上出される方はもういませんか⁉️」


 このままでは姉がボーゲンに買われてしまう。そんなことになるくらいなら⋯⋯この時ラナは1つの決断をする。


「マーサ⋯⋯競売が終わった瞬間に、姉さんを力ずくで奪い返すわ」

「ええっ!」

「しっ! 大きな声を出さないで」


 ラナの注意を受け、マーサは慌てて口を塞ぎ頷く。


「けどそんなことをしたらラナさんは犯罪者になってしまいますよ!」

「そんなことは覚悟の上よ⋯⋯このまま姉さんがあいつの慰み者になるくらいなら罪に問われる方がまだましだわ」


 マーサはラナの真剣な瞳を見るとこれは何を言っても無駄だと悟る。


「わかりました⋯⋯その時は私もお供します」

「だめよ! あなたに何かあったらマーサのお母さんに申し訳ないわ」

「ラナさん、この街に来る前にヒイロさんに言いましたよね。仲間だと思うなら仮面の騎士様の正体を教えてほしいと⋯⋯」

「ええ」

「ラナさんは私のことを仲間だと思って頂けないのですか? もし仲間だと認めて下さっているなら私を連れていって下さい」

「⋯⋯後悔してもしらないわよ」

「ラナさんとレナさんを見捨てる方が後悔してしまいます」


 2人は顔を合わせてニヤリと笑い、飛び出すタイミングを伺う。


「それでは3,500枚以上で手を上げる方はいらっしゃらないので、こちらの美しいエルフはボーゲン様の⋯⋯」


 司会者が言葉を言い終わる前に2人は頷き、舞台に上がろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る