第184話 奴隷オークション(3)

 レナside


 3年ぶりにセルグ村へと戻った際に、父と母と共に人族に捕えられ、私は奴隷の首輪をされてしまった。

 アッサラーマに来るまで好奇な目に晒されてきたけど、幸いなことに、生娘の方が価値が上がるということで、私を襲ってくる者はいなかった。

 けれどその時間はもう終わろうとしている。

 前の方に座っている肥った貴族が、汚らわしい目で私に視線を送り、オークションで買おうと躍起にいた。


 私にはやらなければならない使命がある。そして3年前に別れてしまった妹のラナと再会するため、ここまで頑張ってきたけど、堂々あの貴族のものになるかと思うと不意に涙が出てしまった。

 もう私には泣くことしかできないの⋯⋯誰か⋯⋯誰か⋯⋯助けて⋯⋯。



 ラナとマーサは司会者の言葉が終わる前に、舞台に上がりレナを助けようとする。


「「えっ!」」


 しかし背後から誰かに手で抑えられ、ラナとマーサは動くことができない。


「金貨5,000枚だ!」


 そして見知った声が後ろから聞こえてきた。


 ヒイロside


 俺は2人が無茶をしないよう止め、レナさんを救うため競売に参加する。


「ヒイロ⁉️」

「ヒイロさん⁉️」


 2人も手で抑えられた相手が俺だとわかり、肩の力が抜ける。


「どこに行ってたのよ⋯⋯」

「き、金貨5,000枚って大丈夫ですか⁉️」

「これからはあの貴族に好き勝手させないから安心してくれ」


 普通なら金貨5,000枚を冒険者に成り立ての俺が持っているはずがないだろう。だがラナさんとマーサちゃんは、俺を信じてくれているのか、安堵した表情を浮かべてくれた。


「き、金貨5,000枚が出ました! 今までオークションに参加していなかった青年がまさかの金額で参戦してきました! 5,000枚⋯⋯これを越える額を提示する方はいらっしゃいますか⁉️」


 司会者も金貨3,500枚から一気に5,000枚まで上がったため、驚きの表情を隠せない。


「バ、バカな! 金貨5,000枚⋯⋯だと⋯⋯。ハリソン! 僕ちんの金はいくら残っている!」


 ボーゲンは慌てて執事のハリソンに、今持っている金貨を確かめる。


「ボーゲン様⋯⋯今お持ちの金貨は4,500枚ほどです⋯⋯」

「ぼ、僕ちんがあんな奴に負けるというのか!」

「残念ですが⋯⋯」

「むっきぃぃぃっ!」


 ボーゲンは悔しさのため奇声を上げ、床を踏みつける。


「どうやらこの青年に太刀打ちできる方はいないようですね⋯⋯ではこの美しきエルフは金貨5,000枚で、そちらの青年のものとなりました! おめでとうございます! ではあなただけ舞台に上がり、支払いが終わりしだい奴隷は別室でお渡しします」


そしてレナさんは舞台から降り、先程司会者が言っていた別室へと向かっていった。


 ふぅ⋯⋯何とか間に合うことができて俺は安堵のため息をつく。

 これでレナさんとラナさんが無事に再会することができる。

 あのくそみたいな貴族に買われなくて本当に良かった。


「これで本日の競売は終了となります。皆様、またのご来店をお待ちしております」

「ちょっと待った!」


 俺は舞台に上がり、レナさんを引き取りに向かった際にボーゲンから声が上がった。


「お前は本当に金貨5,000枚も持っているのか? もし金がないのに競売に参加したら罪になるんだぞ」


 なるほど⋯⋯いちゃもんをつけてレナさんを自分のものにしようとしているのか。


「た、確かにあの若い青年が金をたくさん持っているようには見えないな」

「どこに金貨5,000枚があるんだ?」

「まさかボーゲン男爵がいう通り、金を持ってないのか」


 ボーゲンの言葉により、俺は会場からも疑わしきの目を向けられる。


「さあ、早く金を見せてくれないか」


 勝ち誇った顔で、ボーゲンは俺を問い詰めてくる。


「大丈夫⋯⋯ヒイロさんは規格外ですから絶対にお金を用意してくれているはずです」

「そうね⋯⋯私もヒイロのことを信じているわ」


 この会場でマーサちゃんとラナさんだけが、俺のことを信じてくれているようだ。


「やれやれ⋯⋯俺が金を持ってない⋯⋯だと⋯⋯。これを見てからそのセリフを吐くんだな」


 俺はサイフからの通貨を司会者に渡す。


「バカが! お前は金貨5,000枚でエルフを買ったんだぞ! 桁を間違えているのか? これでエルフはやはり僕ちんのものだな⋯⋯ぐふふ」


 勝ち誇った顔でボーゲンは気持ちの悪い笑顔を見せる。


「さあ司会者よ! これで競売はやり直しだな」

「⋯⋯いえやはりエルフはこちらの青年のものです」

「ん? 何をバカなことを言ってるんだ? お前まで頭がおかしくなったのか?」

「いえ、私は正常ですよ」

「そんな5枚の金で買えるわけないだろうが!」


 ボーゲンは司会者の手を掴み、手の中にある通貨を奪い取るかのように確認する。


「こ、これは!」


 ボーゲンの手には金色ではなく、白い光沢を持つ通貨が握られていた。


「は、白金貨ではないか!」


 そう、俺が渡したのは金貨ではなく白金貨⋯⋯1枚で金貨1,000枚分の価値があり、市場にはほぼ流通しないため、見たことがある者は少ない。


「なぜ貴様のような庶民がそのような大金を持っている!」

「ヒイロはどこで白金貨を手に入れたのかしら」

「メルビアに戻ってティアに貸して貰ったのでは」


 3人はどうして俺が白金貨を持っているか不思議に思っているようだ。


「この金は――」


 俺は白金貨をどうやって手に入れたか経緯を話した。


―――――――――――――――


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