第182話 奴隷オークション(1)
「ど、奴隷オークションですって!」
俺の言葉を聞いて、ラナさんは怒りを露にする。
「だがまだ売買されているわけじゃない。急ぐぞ!」
「わかったわ!」
「すぐに向かいましょう!」
俺達はレナさんの居場所を見つけ、全速力で歓楽街へと走り出した。
奴隷オークションが行われている場所に到着すると、そこはステラ商会並に大きな建物だった。
「現在奴隷のオークションが始まっています! 最終商品は絶世の美女であるエルフです! 今ならまだ間に合いますのでどうぞ当店へご来場下さい!」
店の呼び込みらしき人がエルフと言っていた。どうやらここで間違いなさそうだ。それにしても隠れることなくオークションを宣伝していると言うことは⋯⋯。
「ちょっとあなた! 姉さんはどこにいるの!」
ラナさんがの胸ぐらを掴み持ち上げると、店員さんは苦悶の表情を浮かべる。
「く、苦しいぃ!」
「早く言いなさい!」
すごい剣幕で問い詰めるため、店員さんは何も出来ずにあたふたとしていた。
「ラナさん、それだと話すことができないぞ。落ち着いてくれ」
「ご、ごめんなさい」
俺の言葉が頭に入ったのか、ラナさんは店員から手を離し解放する。
「ごほっ! ごほっ! た、助かりました」
「それでエルフはどこにいるの⁉️」
まだ冷静になっていないようで、口調が少し強い。ここは俺が話をした方がよさそうだ。
「オークションはどちらで行っているのですか?」
「地下一階で行っています。入場料として金貨1枚必要となります」
「き、金貨1枚ですか⁉️」
ただで入れるとは思っていなかったが、金貨一枚か⋯⋯高いな。
「そ、そんなお金もってないわ」
「わ、私も銀貨2枚しかもっていません」
俺は受付に金貨3枚を渡し、店の中へと向かう。
「2人ともいくよ」
「ヒイロさん⋯⋯」
「ありがとうヒイロ⋯⋯このお金は必ず返すわ」
「いやいいよ。それより早くレナさんを助けに行こう」
「だめよ! 借りたお金は返さないと⋯⋯親しき仲にも礼儀ありよ」
「そうですよ」
どうやらラナさんとマーサちゃんは、お金についてしっかりしている様で、理由もなく奢られるのは嫌みたいだ。
「わかった⋯⋯いつでもいいから返してくれ」
「わかったわ」
「はい」
そして俺達は店の中にある地下への階段へと向かった。
「ラナさん、一応この奴隷オークションは合法的に行われているみたいだ」
階段を降りている最中、俺はラナさんに伝えなければならないことを口にする。
「どうしてそんなことがわかるの?」
「店員が呼び込みをしていたからだよ。もし非合法で行っていることならオークションは秘密裏にやるはずだ」
おそらく普段のラナさんなら気づいているはずだ。それだけ今はレナさんのことで頭に血が昇り、周りが見えていないのだろう。
「何が起きても落ち着いて冷静に⋯⋯そうしないと助けられるものも助けられない」
ここで問題を起こしたらそれこそレナさんの救出が難しくなるし、助けた後に指名手配されるのもごめんだ。
頭の良いラナさんなら、俺の言った言葉の意味をわかってくれるはず。
「⋯⋯わかったわ」
ラナさんは1度目を閉じ、怒りを静め、俺の言葉に頷いてくれた。
「どんな手を使っても必ず俺が助けるから安心して」
「ヒイロ⋯⋯」
さあこの先で、絶対姉妹の再会を果たしてみせるぞ。
階段が終わると幾つかの扉があり、中から騒がしい声が聞こえくる。
そして扉の前には1人の店員がおり、こちらに視線を向けてきた。
「これはお客様⋯⋯残念ですが本日のオークションは終わりに近づいておりますが、入場されますか?」
「ああ⋯⋯すぐに案内してくれ」
「かしこまりました」
店員が扉を開くと中はホールとなっており、薄暗い空間に50人ほどの人達が賑わいを見せていた。
「いや~今日は良い買い物でした」
「ですがこの後、本日の目玉商品が出品されるみたいですよ」
どうやらレナさんのオークションには間に合ったようだ。
「それでどうするの?」
「もうオークションが始まってしまいますよ」
ラナさんとマーサちゃんが焦った様子で語りかけてくる。
「ぐへへ、最後の商品は美しいエルフと聞いている。金に糸目はつけないぞ」
「はっ! ボーゲン様⋯⋯まだまだ金貨は残っています」
「そうか⋯⋯後もう少しでエルフを好き勝手にできるのか⋯⋯ぐふふ⋯⋯」
前の方の席に、巨漢で金やダイヤを身体中に身につけた、いかにも金持ちといった風貌の男と執事の姿が見える。
「あんな奴に姉さんを買われたら⋯⋯どんな目に遭わされるかわからないわ」
「で、ですが金貨をたくさん持っていると言ってましたよ」
「このままだと姉さんが⋯⋯」
しかし2人の不安を他所に、司会者が舞台に現れ、今まさに最後のオークションが始まろうとしていた。
「それでは皆様お待たせ致しました! これより最後の商品の紹介させて頂きます!」
そして司会者が舞台の袖の方に合図をすると、胸と下半身の大事な所しか隠れていない衣服を着た美しいエルフが現れた。
魔法ではなく実際に見てみても、ラナさんに似ており、美しい容姿と相まって今の扇情的な姿は、多くの男を虜にすることは間違いないだろう。
そしてこんな状況でも気丈に振る舞っている所はラナさんにそっくりだ。
「げへげへ⋯⋯これは夜が楽しみだ。あの衣装のまま僕ちんの相手をさせてやるぞ!」
「おっとぉ! これは領主のボーゲン男爵様! 本日の目玉商品を手に入れる気満々ですね!」
あいつは領主なのか! 初めて見ただけで決めつけるのは申し訳ないが、ろくな政治は行っていないことが目に浮かぶ。
「司会者早く始めろ! 僕ちんはすぐにその奴隷を手に入れたいんだ!」
レナさんは大きな声を上げるボーゲンと目が合うと、さすがに買われたくない相手だったようで、顔をしかめる。
「それではこれより美しいエルフのオークションを開始します」
司会者が声を上げるとレナさんの競りが始まり、会場のボルテージも最高潮に達するのであった。
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