第171話 奴隷の居所

「貴方ここに!」


 ラナさんが待ちきれなくてか、サブルに食いかかろうとしていたので、俺は身体を掴み、静止させた。


「ここは私に任せる約束だ」

「も、申し訳ありません」


 逸る気持ちはわかる。長年探していた姉がすぐ側にいるかもしれないんだ。すぐに取り戻すからもう少し待っていてくれ。


「失礼⋯⋯それで支配人、ここは何でも揃えて貰えるのだな?」

「はい⋯⋯余程希少な物でなければ、時間とお金を頂ければ⋯⋯」

「では奴隷を頼む⋯⋯種族はエルフで」

「申し訳ございませんが、当店では奴隷販売の許可は得ておりませんので、御用意することができません」


 確信をついた質問をしたのだが、サブルは涼しい顔でその質問を答えてくる。


 顔や声に態度を出さないとは中々やるじゃないか。


「ではもしこの店に奴隷がいたら、違法と言うことで間違いないな?」

「ええ、そのような者がいれば」


 こいつ! 飽くまで惚けるつもりか。だったら実力行使で行かせてもらう。


「【風切断魔法ウインドカッター】」


「なっ! 何をする!」


 部屋の右側にある本棚に向かって風の刃を放つと壁が壊れ、奥から隠し通路が現れる。

 そしてここにいた客達は、突然の出来事に恐怖し、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 前回ティア達と来た時にステラ商会の建物構造は探知魔法で把握している。

 あの時は地下に誰もいなかったが今は⋯⋯。


「ラナさん行って」

「はい!」


 俺は地下へ行くように促すと、ラナさんは疾風の如く、暗闇の中を駆け抜けていく。


「者共であえ!」


 サブルが声を荒げると、おおよそここに似つかわしくない、人相が悪い男達が奥の部屋から現れる。


「どうしましたサブルさん」

「今大きな音がしやしたけど」

「この怪しい男と地下にいった女を殺せ!」

「りょ、了解しました!」


 5人の男達が俺を取り囲むように配置する。


「へへ、依頼者様の命令だ⋯⋯悪く思うなよ」


 正直こいつらを倒すのに一秒もかからないだろう。だが残念ながら俺の出番はないようだ。


「何事ですか!」


 タイミング良く、兵士を引き連れたティアがこの部屋へと乱入してくる。


「げっ! ティアリーズ王女!」


 サブルは、まさかティアが来るとは思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべ、腰が抜けて地面に座り込んでしまう。


「サブル! 今の音は⁉️」

「いや⋯⋯その⋯⋯」


 だがサブルは王女であるティアの言葉に答えることが出来ない。もし答えてしまったら、地下にいる者達のことを自分は知っていると認めてしまうことになるからだ。


「あら? こんな所に地下へ行く階段が?」

「そ、それは⋯⋯」

「以前来たときにはありませんでしたよね?」

「わ、わたしも初めて知りました⋯⋯まさかこの店にこんな階段があるとは⋯⋯」


 こいつ、まさか知らない振りをして、自分はこの件に関しては無関係だと言い張るつもりか!


 そして地下へと向かったラナさんが、十数人のエルフを連れて階段を上がってくる。

 エルフ達の首には皆以前ルーナが付けられた時と同じ、奴隷の首輪がされていた。


「サブル支配人⋯⋯これはどういうことか説明してもらいましょうか」


 ティアや兵士達全員の目が、サブル支配人の元へと向く。


「地下への道を今知った私にわかるはずがございませぬ。まさか奴隷がいたとは⋯⋯」


 白々しい嘘をつき、何とかこの場を逃れようとしてやがる。


「もしお疑いならそこにいるエルフ達に聞いてみてください」


 確かにラナさんが救出したエルフ達が証言してくれたら早いのだが、彼ら彼女達は何も答えることをしない。

 ひょっとしたらサブルのことを言わないように、既に命令を受けている可能性がある。


「そうですか⋯⋯実は先程エリウッドという従業員を捕縛致しました。そしてステラ商会の地下に奴隷がいることを教えてくれましたわ」

「な、なんですと!」


 いや、今はブラフだ。エリウッドは凍ったまま。そのようの時間はなかったはず。


「くそ! あのエルフめ! やはり亜人など信用できん!」


 ようやく諦めたか⋯⋯いやこういう奴は往生際が悪いのが相場だ。

 俺は少しずつティアの近くへ移動する。


「かくなる上は!」


 そう言葉を放った瞬間! サブルは右手に短剣を持ちティアに襲いかかる。


「私が脱出するまで人質に⋯⋯あびし!」


 俺はティアに迫るサブルの顔面を死なない程度に、なおかつ苦痛を与えるように殴る。するとサブルの巨体が壁まで吹き飛ばされたことに兵士達が目を丸くし、一瞬動きが止まる。


「ひ、姫に狼藉を働く不届き者を捕らえろ!」


 隊長さんらしき人の声で皆我に返り、サブルや用心棒達が捕縛されていく。


「ありがとうございますおに⋯⋯いえ仮面の騎士さん⋯⋯さすが私の騎士ですね」


 自分を護った仮面の騎士の行動に、ティアは顔を赤くしてお礼を言う。


 こうしてサブルとエリウッドが捕まり、この件は解決したかのように見えたが、しかしまだ事件は終わりを遂げていなかった。

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