第170話 姉を追って

「勝った⋯⋯の⋯⋯」


 ラナさんが足元で凍りづけになっているエリウッドを見て、言葉を発する。


「一応まだ生きてるがな⋯⋯これでラナさん達の恨みは少しは晴らせたか」

「⋯⋯はい」


 目的の一部を達成できたせいか、ラナさんは感極まってぽろぼろと涙が溢れていた。


 無理もない⋯⋯家族を探す、そして里を襲った奴を捕まえる⋯⋯そのために今まで頑張ってきたんだもんな。


「仮面の騎士様ありが⋯⋯」


 しかしラナさんはお礼の言葉を言う前によろけ、地面に膝をついてしまう。【聖結界魔法サンクチュアリ】が途中で破られてしまったため、傷が回復しきってないんだ。


 俺は急ぎ【完全回復魔法パーフェクトヒール】をラナさんと自分自身にかけ、エリウッドにつけられた傷を完全に治す。


「いつも助けて頂き⋯⋯ありがとうございます」

「気にするな、それが俺の使命だ」


 ラナさんの言葉に思わず返してしまったが、メチャクチャキザなことを言ってないか⁉️ もしグレイにバレたらおもいっきり笑われそうだ。


 しかしラナは初めてしっかりと仮面の騎士と話をしたことで、かなり緊張しており、その言葉に感動を覚えていた。

 だけど今は時間がない⋯⋯本当は仮面の騎士にすぐにでも聞いてみたいことがあったが、今はそのことより重要なことがあるので、後回しにする。


「仮面の騎士様! お願いがあります!」


 ラナは地面に着きそうなくらい頭を下げ、懇願してきた。


「どうした?」

「姉が⋯⋯姉がエリウッドの仲間に追われています! 助けて頂けませんか⁉️」

「お姉さんがエリウッドの仲間に⁉️」

「ティアリーズ王女からお聞きしました⋯⋯仮面の騎士様は転移魔法が使えると⋯⋯だからお願いします! 私をメルビアまで連れていって下さい」


 俺はラナさんの手を取り、迷いの森の魔力に触れて入口まで戻る。


「えっ? えっ?」


 俺の突然の行動にラナさんは驚きを隠せない。


「一刻を争うんだろ? 私も手伝おう⋯⋯約束だからな」

「えっ⁉️ 約束?」

「さあ急ぐぞ」

「ちょっ⁉️」


 俺はラナさんの言葉を待たずメルビア城の前に転移する。


「ありがとうございます⋯⋯でもどこから探せば⋯⋯」

「少しだけ待っててくれ」

「は、はい」


「【探知魔法ディテクション】」


 今この位置から1番近いのは⋯⋯良かったティアがいる。

 俺は急ぎ城の中庭に向かうと驚いた表情でティアが出迎えてくれた。


「あれ⁉️ おに⋯⋯ではなくて仮面の騎士さんどうしたのですか?」


 そうだ⋯⋯今は仮面の騎士になっていたんだ。

 いきなりこの姿で現れてビックリさせてしまったかな。


「兵士を引き連れてステラ商会の前で待機してほしい。おそらく奴隷がいると思うから」

「本当ですか⁉️」

「俺は先にラナさんと行ってるから、タイミング良く踏み込んでくれると助かる」

「わ、わかりました」

「後この凍っている奴が、ラナさんの故郷を陥れた元凶だから牢屋に入れておいてくれ」


 そう言葉を残し、俺は直ぐ様この場を立ち去る。


「えっ⁉️ ちょっと⁉️」


 そして俺はラナさんと共にステラ商会の前へと転移した。



「ここは⋯⋯」


 隣接する建物より、一回り大きな店の前で俺達は佇んでいる。


「⋯⋯エリウッドが働いていたステラ商会だ」

「えっ⁉️ じゃあ姉さんはここに!」


 ラナさんが今にも殴り込みに行こうとしたので、俺は腕を掴み止める。


「放して! 早く姉さんを助けないと!」

「だから落ち着くんだ⋯⋯ただ乗り込んでもシラをきられて誤魔化されるだけだぞ! 仲間を助けたくないのか!」


 俺の言った言葉が効いたのか、ラナさんは少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「でもどうすればいいの⋯⋯」

「大丈夫⋯⋯ここは私に任せてくれ」

「仮面の騎士様⋯⋯⋯⋯わかりました。よろしくお願いします」


 俺は冷静になったラナさんと共に、ステラ商会へと入っていった。



「い、いらっしゃいませ」


 店に入った途端、店員が挨拶をしにくるがどこかこちらに恐れを抱いている。

 おそらく仮面を着けた怪しい騎士(俺)が来たからだと思う。


「お客様⋯⋯当店では仮面やマスクなど顔を隠しての来店はお断りとなっております」

「ほう⋯⋯私にそんな口を利いてもいいのかな? 貴女では話にならない。責任者を呼べ」

「わ、わかりました。少々お待ち下さい」


 店員は訝しむ目付きで俺に視線を送り奥の部屋へと下がっていった。そして1、2分後⋯⋯。

 先程の店員がサブル支配人を連れて、この場へと戻ってくる。


「これはこれは⋯⋯私は当店の支配人をしておりますサブルと申します。生憎ですが、盗難や強盗防止のため、当店では素顔をお見せできない方とは⋯⋯」


 ドンっ!


 俺は机の上に袋を出すと、光輝く無数の金貨が散らばる。


「こ、これは!」

「金はある⋯⋯盗難や強盗などする必要は俺にはない」

「か、仮面の騎士様⋯⋯このお金は⋯⋯」


 以前強奪者スナッチャーのサブリーダーであるドゥウマを捕まえた時にもらった懸賞金、金貨100枚だ。


 そして俺が金を持っていると知るとサブルの態度が一変する。


「し、失礼しました。君、ここは私に任せて下がりたまえ」

「は、はい」

「お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。それで本日はどのような商品を御希望でしょうか? 当店は雑貨、生活用品、食糧など幅広く販売しておりまして、お金さえ出して頂けるのであれば、ここにない商品でも御用意させて頂きます」


 サブルは先程の怪しむ顔から笑顔に変わり、暑苦しい営業スマイルで俺達に商品を進めてきた。

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