第166話 ラナVSエリウッド前編

 背後から左手を狙って飛んできた弓を、身体を捻って辛うじてかわす。

 攻撃された方に視線を向けるが、既にそこには誰もいなかった。


 どういうことなの⁉️ さっきから矢が飛んでくる方向はおろか、エリウッドの気配すら感じることができない。


 私は前後左右に視線を向けるが、やはりエリウッドはどこにも見当たらない。


「クックック⋯⋯私の居場所を探しても無駄だぞ」


 エリウッドの声は確かに前方から聞こえるが、それは声だけで、姿を見つけることはできない。


 これってまさかスキル⁉️ けどハンターのスキルに隠密系の物なんてあったかしら。

 けれど考えている間も次々と矢が飛んで来て、私の命をおびやかす。


「くっ!」


 8本中7本はかわし、受け止めることができたが、1本の矢が私の左腕を掠め、思わず苦痛の声を出してしまう。

 だけどエリウッドの攻撃はどこから来るのかはわからないけど、致命傷を受けるほどじゃない。


「どこにいるの! 出てきなさい!」


 しかし私の声が辺りに響くだけで、エリウッドからの反応はまるでない。


 それなら⋯⋯、


「貴方みたいな隠れてこそこそする者がセルグ村の護り人? ふふ⋯⋯笑ってしまうわね」

「なんだと!」


 予想通り挑発に乗り、エリウッドから声が返ってくる。


「それじゃあ私や姉さんに振られるのも無理ないわ」

「貴様ぁ! その言葉⋯⋯後悔させてやるぞ!」


 やっぱり声は聞こえるけどエリウッドの位置がわからない。接近しなければ私は攻撃することが出来ないため、作戦を変更し、矢が尽きるのを待つことにする。

 いくらエリウッドでも矢がなければ、攻撃する手段がなくなるはずだ。私にとってはその時勝負!


 なぜエリウッドの姿は見えないのか。それはラナの言うとおりエリウッドのスキル【同化】を使用しているからである。このスキルは森や草木と一体化することができ、相手の目を欺くことができ、しかも文字通り一体化するため、ヒイロの探知魔法でもエリウッドの居場所を特定するのは難しい。


 シュン!


 矢が風を切り、的確に私を狙ってくる。しかも頭や身体の中心部分を外して私の手足を⋯⋯本当に動けなくして犯すつもりだ。

 この外道には絶対に負けるわけにはいかない。


「勝ち気なお前が逃げ回ってばかりだな!」

「あなたこそハンターというのは名ばかりなの? 私を倒すことができないじゃない」


 正直私にはエリウッドほどの余裕はない。致命傷こそ避けているが、矢が襲いかかってくる度に、肌は傷つき、うっすらと赤いものが流れ出ている。しかしエリウッドも格下と見ていた私を、仕留めることができず、苛立ちを覚えているような気がする。このまま避け続ければ、必ず勝機が訪れるはず。


「ラナは見た目は良いが、スタイルは遠くレナには及ばないな」

「な、なんですって!」


 さっきの仕返しなのかエリウッドが私を挑発してきた。


 確かに姉さんはルーナ以上の胸を持っている。それに比べて私は⋯⋯ううん、私も平均値くらいはあるはずよ。だけどこの外道に指摘されると凄い腹が立つ!


「本当はレナの方がいいが、しょうがないからお前で我慢してやるよ」

「くっ!」


 私はエリウッドの言葉に理性を忘れ、飛びかかりたい気持ちを何とか抑えて、その場に踏みとどまる。

 どこから来るかわからないが、攻撃は周囲の森から放たれている。さすがにこれ以上近づくと矢を捌けなくなるから、あいつの挑発に乗ったらダメよ。


「ほう⋯⋯少しは冷静になるってことを覚えたようだな⋯⋯これも私がセルグ村を襲ってやったおかげだ。感謝しろ」

「このぉ!」


 もしこの圧倒的不利な状況でなければ私は激昂し、エリウッドに襲いかかっていたと思う。でも今は冷静さを失う=敗北に直結するため、私は動くことが出来ない。


 覚えてなさいよ⋯⋯矢がなくなったら痛い目に合わせてあげるわ!


 しばらくエリウッドの矢を防いでいると突然攻撃が止み、辺りに静寂が訪れる。

 堂々矢が尽きたのかしら?


「どうしたの? もう攻撃はしてこないの!」


 まさか逃げた⁉️ ううん⋯⋯それはないはず。もし私がこのまま街に戻ればエリウッドの悪行を憲兵に伝え、あいつは指名手配犯になる。だから逃げるなんてことは絶対にしないはず。

 ならやっぱり矢がなくなったの⁉️

 私は周囲の気配を探すと、観念したのか、前方の森からエリウッドが姿を見せる。


「ひょっとして投降? 残念ながらそんなことで私の怒りは収まらないから」


 私の声が聞こえていないのか、エリウッドは反応を示さない。

 もう諦めたの? だけど憲兵に突き出すにしても一発⋯⋯いえ、百発は殴らないと気が済まないわ。


「クックック⋯⋯もう勝った気でいるのか?」


 突如エリウッドは不気味な笑顔を浮かべ、虚ろな目で私を見据えてくる。


 何なの? 敗北して頭がおかしくなった?


 私はエリウッドを観察するともう矢を持っている気配はない。

 やっぱり矢が尽きたのだ。

 さっきの言葉はブラフであいつの攻撃手段はもうないはず。

 今がチャンスよ!

 私は傷ついた身体で、エリウッドに接近しようとしたが、なぜかあいつは矢が無いにも関わらずこちらに弓を構える。


「矢がないのにどうやって攻撃するのよ!」


 しかし私は構わず、エリウッドの顔面を殴るため接近するが、突然左手の甲に激痛を感じた。

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