第165話 真実

 私達がセルグ村へと向かう途中、魔物が何体か現れたが、エリウッド兄さんが瞬時に排除していく。


「すごい⋯⋯これが村の護り人の力⋯⋯」


 確かエリウッド兄さんの紋章は弓と矢で職はハンター。

 器用で素早さが高く。弓矢の扱いが長けている。


 先ほどから魔物はなす術もなく、姿が見えた瞬間に弓矢が突き刺さって、絶命している。

 今の私ではエリウッド兄さんに遠く及ばないということを理解させられるが、味方だと思うとこれほど頼もしいことはない。


「さあ、いくぞ」

「え、ええ」


 私の出番は全くなく、森までエリウッド兄さんの後ろを着いていくだけだった。



「久しぶりだな。ここに来るのは⋯⋯」


 エルフの森に到着すると物思いにふけた表情でエリウッド兄さんは呟く。

 私も【グリトニルの眼鏡】の件がなかったらここには来なかったと思う。生まれ故郷だけど嫌な思い出があるから⋯⋯。


「だが、今は前に進まないとな」

「そうね」


 言葉少なめに私達は深い森へと足を運び、そしてセルグ村へと到着した。


「こっちだ」


 エリウッド兄さんは村の奥へと足を向ける。

 ここから先にあるのは⋯⋯世界樹! やっぱりそこにグリトニルの眼鏡があるのね。

 私は期待に胸を膨らませながら進んで行くと、神々しい領域にある世界樹へとたどり着いた。


「それでどこに【グリトニルの眼鏡】があるの?」

「⋯⋯実は私もその【グリトニルの眼鏡】については知らない」

「じゃあどうしてここに⋯⋯」


 それならなぜエリウッド兄さんは私をここまで連れてきたの?


「ラナと二人っきりになりたくて⋯⋯実は⋯⋯私は昔からラナのことが好きだったんだ」

「えっ⁉️」


 私のことが好き⋯⋯そ、それってもしかして告白!


「こんなこと言うつもりではなかったが、久しぶりに同胞を見て愛しい気持ちが沸き上がって⋯⋯」


 エリウッド兄さんが私のことを⋯⋯全然気づかなかったわ。


「もし良ければ、私と一緒になってほしい」


 そしてエリウッド兄さんは私の方に右手差し出してきた。

 この手を取ればオッケーということになるの?

 だったら最初から答えは決まっている。


 私はその手を⋯⋯取らない。


「ごめんなさい」


 エリウッド兄さんに頭を下げ、私は告白に対してNOの答えを伝える。


「ど、どうしてだい」


 冷静沈着なエリウッド兄さんが、動揺した姿を見せる。それだけ本気だったってことかしら。断って申し訳ないけど自分の気持ちには嘘をつけない。


「⋯⋯私好きな人がいるの⋯⋯」


 言ってしまった⁉️ 今までその言葉を口にしたことはなかったけど、正直に言わなければ誠実に告白してくれたエリウッド兄さんに悪いわ。

 私は初めて口にしたその言葉で、顔が紅潮していくのが自分でもわかった。


「ふ⋯⋯け⋯⋯な⋯⋯」


 私の答えを聞いてショックなのか、エリウッド兄さんは俯き、小声で何かをブツブツ呟いている。


 私は心配になり顔を覗き込むと、突如エリウッド兄さんの様子が豹変する。


「ふざけるな! この私が告白してやったんだぞ! 強くて誰よりも見た目が良い私が!」

「エ、エリウッド兄さん?」

「お前達姉妹は何様のつもりだ!」

「姉妹? まさかエリウッド兄さん、姉さんにも告白したの!」

「そうだ⋯⋯それなのにあいつは断りやがった⋯⋯だから人間を使って村を襲わせてやったんだ⋯⋯奴らはエルフの奴隷が手に入るって喜んでたよ」

「まさかそれでセルグ村が襲撃されたの!」

「それと俺は前々からこんな森の奥で護り人なんてことをやるのが気に食わなかった! それなのに長は我らには使命があるとか抜かしやがって、俺の言うことを聞かなかったからまとめて葬ってやったんだ!」


 やっとわかった。

 なぜ人間が迷いの森を通ってきたのか、なぜエリウッド兄さんがいて襲ってきた人間達を退けられなかったのか⋯⋯それはエリウッド兄さん、ううん、こいつのせいだったんだ!


「許せない⋯⋯あんただけは絶対に許さない!」

「許せない? それはこっちのセリフだ⋯⋯レナとは犯りそびれたから代わりに妹のお前で我慢してやるよ」

「あんたの思い通りにはさせないから!」

「素直に犯られとけば痛い思いをしなくて済⋯⋯」

「はぁ!」


 私は言葉が終わる前に、右の拳をエリウッドの顔面に突きつける。

 間合いを取られると遠距離攻撃がない私が、圧倒的不利になってしまうから。

 しかし私の拳は、後方にジャンプされて避けられてしまう。

 そしてエリウッドは木々の中へと消えていく。


「逃げてもいいんだぞ」


 どこからかエリウッドの声が聞こえ、この場に響き渡る。


「私は逃げないわ!」

「クックック⋯⋯そうだな⋯⋯ラナはそういう性格だからこの場に呼び寄せたんだ」

「知った風なことを言って!」


 悔しいが、エリウッドの言っていることは間違いではない。父さんや母さん、姉さん、そしてセルグ村をメチャクチャにしたエリウッドを前にして逃げるなんて選択肢は私にはない!


「まずはその手足を撃ち抜いて、その後ゆっくりいたぶってやるか」


 こうしてセルグ村の世界樹の前にて、エルフ対エルフの戦いが始まった。

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