第164話 ラナとエリウッド

 ラナside


「う~ん⋯⋯今日も良い天気ね」


 私は寝起きに身体を伸ばして、ベッドから降り、今日着る服に着替える。


「ちょっと遅くまで寝過ぎたわね」


 昨日、セルグ村へと行った疲れなのか、それとも姉さん達がいなかったことで落胆し、心労が祟ったのか、いつもより遅い時間に起きてしまった。


 今日エリウッド兄さんに会って聞けば、グリトニルの眼鏡のことがわかるのかしら。そのことがなくても久しぶりに話せるのはとても嬉しい。

 逸る気持ちを抑えながら、私は朝食を頂きに食堂へと向かう。



「ラナ様」


 食堂へと向かっている途中で、若い綺麗⋯⋯ううん、可愛いメイドさんが私に声をかけてきた。


「はい⋯⋯どうしましたか」

「表にラナ様の御友人と仰っている方がお見栄になっています」

「友人⋯⋯ですか」


 メルビアで私を訪ねてくる友人なんているのかしら。ひょっとしたらエリウッド兄さんかな?


「お名前はエリウッド様と仰っていました」


 やっぱりそうだわ。私が今メルビアにいることはエリウッド兄さんくらいしか知らないもの。


「私の知り合いです。すぐに行きます」


 私は朝食のことなど忘れ、すぐに城の外まで駆け足で向かうと壁に寄りかかるように、エリウッド兄さんが佇んでいた。


「おはようラナ」

「おはよう⋯⋯どうしたの? こんなに朝早く」

「いや、昨日ラナが西門から帰って来るのが見えたから、すぐにでも話がしたいと思ってね」

「ちょうど良かったわ⋯⋯私も聞きたいことがあったの」

「それなら歩きながら話さないか」

「わかったわ」


 そして私はエリウッド兄さんの後ろに着いて歩くと、街の中を流れる運河の畔が見えてきた。

 周りには私達と同じように、散歩を楽しむ老年の夫婦や遊んでいる少年少女の姿があり、もし夜の時間であるならカップルが愛を育む場所になっているとだろう。


「ラナは村が襲撃された後、どうやって今まで生き延びて来たんだ」

「私は勇者パーティーに助けられて⋯⋯エリウッド兄さんは?」

「あの時突然の襲撃に会い、村を護れず⋯⋯護り人なのに不甲斐なくて申し訳ない」

「エリウッド兄さんは悪くないわ⋯⋯悪いのは人間よ!」


 村を襲われた時の光景が甦り、人は信じるべき者ではないという想いが身体の中から沸き上がってくる。

 けど人族にも良い人はいる。特に最近知り合ったリアナ、ルーナ、マーサ、ティアリーズそれとついでにヒイロとグレイ。この人達は信用できると思う。けれど人族は私の家族を仲間を故郷を奪った種族⋯⋯許せない気持ちもあり、私の中で葛藤が生まれてくる。


「それで私は放浪としていた時にステラ商会のサブル支配人に拾われて、今を過ごしているのさ」

「そう⋯⋯村の人達はどうなったかわかりますか?」

「いや⋯⋯今の所全く情報が入ってきていない」

「情報が入ってない?」

「ああ⋯⋯私が商会で働いているのはセルグ村の人達の情報を仕入れるためなんだ。メルビアのステラ商会では取り扱っていないけど奴隷についての情報も入ってくるし、護衛として色々な所へ行くことがあるから、皆を探しやすいからね」

「エリウッド兄さんは凄いわ⋯⋯私も負けてられないわね」


 私以外にも村の皆を探している人がいる。こんなに心強いことはない。


「それで私に聞きたいことがあるんだろ?」


 そうだ! エリウッド兄さんに会えたことが嬉しくて、そのことを忘れてたわ。


「【グリトニルの眼鏡】という魔道具をエリウッド兄さんは御存知ですか?」

「【グリトニルの眼鏡】?」


 もし知らないとなると、手がかりがなく、探すのが困難になってしまう。


「セルグ村にあるらしいのですが⋯⋯」


 エリウッド兄さんは腕を組んで考える素振りしている。

 お願い⋯⋯私は祈るような気持ちで答えを待つ。


「⋯⋯私も詳しくはわからないが、長が昔言っていたのを聞いたことがある」

「本当⁉️」

「ただ、直接行って確認しないと何ともいえないな」


 暗闇に覆われた所に、一筋の光明が射した。これで【グリトニルの眼鏡】が手に入るかもしれない。


「けど私も仕事が入っていて⋯⋯今これからならセルグ村へと行くことができるけどどうする?」

「勿論行くわ⋯⋯けどその前に皆に報告してくるから少し待ってて」


 ヒイロ達も【グリトニルの眼鏡】の情報が入って喜んでくれるはず⋯⋯私は急ぎ城の中へと戻ろうとした時、エリウッド兄さんに呼び止められる。


「待ってくれラナ」

「何?」

「人族にセルグ村に行くことを伝えるのか?」

「そ、そうよ」


 エリウッド兄さんがいつもと違い、何か怒っているような気がして、私は言葉に詰まってしまった。


「あそこに⋯⋯セルグ村に人族を入れたくはない」

「そう⋯⋯ね」


 エリウッド兄さんの気持ちもわかる。私達を襲って来た人族を村に入れるのは抵抗があり、私もヒイロ達じゃなければあそこには連れていかなかっただろう。


「わかったわ⋯⋯私達だけで行きましょう」


 こうして私は昨日に引き続き、エリウッド兄さんとセルグ村へと向かうこととなった。

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