第163話 消えたラナ
セルグ村から帰って来た翌日
朝から俺の部屋に来訪者が現れた。だが本人もまだ起きたばかりなのか、ピョンと寝癖が天高く伸びている姿が見られる。
「ヒイロちゃん昨日はいつの間に帰ってきてたの? 私に言ってくれないなんてひどいよ」
「昨日はディレイト王の所へ行かなければならなかったし、疲れてたんだ。しょうがないだろ」
「もう⋯⋯次からはちゃんとどこかに行くときと帰って来た時は私に報告すること⋯⋯わかった? 一生のお願いだよ」
お前は俺の母親か! と突っ込みたかったが、下手なことを言うと話が長くなりそうだからやめておいた。それにもしかしたらルーンフォレストでボルデラに嵌められて1人で戦うことになったから、不安な気持ちがあるかもしれない。だから俺はいつも通り、リアナのお願いを聞くことにする。
「わかったわかった⋯⋯次からはちゃんと言うことにするから」
「本当だよ? もし約束を破ったら針を千本飲んでもらうからね」
それこそ嘘であってほしい。本当にそんな物を飲んだら死んでしまうじゃないか。
「今日は何か予定があるの?」
「昼前くらいにステラ商会に行こうかと思っている。ひょっとしたらグリトニルの眼鏡の情報を知っているかもしれないエルフがいるからね」
「そうなんだ⋯⋯だったら私も行ってもいいかな」
まあ昨日フィアさんに忠告されたが、真っ昼間からステラ商会が何かを仕掛けてくることはないだろう。
「いいよ。リアナも一緒に行こうか」
「ありがとう⋯⋯それじゃあ準備してくるね」
そう言ってリアナは自分の部屋へと戻っていった。
その後、俺達は朝食を頂き、ティアとラナさんと合流して、ステラ商会へ行くはずが、ラナさんの姿が見当たらない。
まさか先に1人で行ったのか⁉️
失敗したな。昨日の内にステラ商会のことを伝えておけば良かった。
ラナさんからすればただ、同郷のエルフと会いに行くだけだから危険はないと思ったのかもしれない。
探知魔法で城の中を探してみるが、やはりラナさんの姿は見えないため、俺はティアとリアナを連れてステラ商会へと向かう。
「ティアリーズ王女、リアナ様、ヒイロ様⋯⋯いってらっしゃいませ」
城の外へと向かう時に、門番の方達から声をかけられる。
そうだ! この人達ならラナさんのことを知っているかもしれない。
「すみません⋯⋯今日の朝、エルフの少女がここから出て行きませんでしたか?」
「ラナ様のことでしょうか?」
「2時間程前に、エルフの男性が訪ねて来られたので、お取り次ぎしましたが」
エルフの男性? それってエリウッドさんのことだよな。
「そしてそのまま御二人で街の方へと行かれました」
ステラ商会へと行ったのだろうか。
「お兄ちゃん⋯⋯とにかく私達もステラ商会へと行ってみましょう」
「そうだな」
俺とリアナはティアの案内で、ラナさんがいるかもしれないステラ商会へと急ぎ向かうのであった。
しばらく歩いていると、大通りに面した最も賑わいを見せている場所に、一際大きな建物が見えてきた。周囲の店と比べて、倍以上はあるその建物がどうやらステラ商会のようだ。
「さあ、行きましょうか」
ティアの後に続いて入ると、雑貨、生活用品、そして食糧などが綺麗に区画され、中々好感度が高い作りになっており、リアナはその様に、目を奪われていた。
俺もフィアさんからの前情報がなければ、感嘆として見れたが、悪どいことをして儲けた金で作った物だと思ったら、素直に見ることができなかった。
「いらっしゃ⋯⋯あ、あなたはティアリーズ王女!」
店員さんがメルビア王女であるティアの顔を見て、驚きの表情を浮かべる。
「少々お待ち下さい。今支配人をお呼び致します」
そう言葉を残して店員さんは奥の部屋へと向かい、巨漢の中年男性をティアの前に連れてくる。
「これはこれはティアリーズ様。本日はどのような御用件でしょうか」
挨拶をしてきた男は、体重100kgは越え、すべての指に指輪をしており、如何にも成金という風貌だ。
「サブル支配人⋯⋯ここでエリウッドというエルフが護衛役として勤めていると思いますが、今日はどちらにいらっしゃるか教えて頂けないでしょうか」
「エリウッドですか? 本日は休日のため、こちらには来ていませんが」
俺はサブル支配人の言っていることが本当か、探知魔法を使って確認してみる。
確かにラナさんとエリウッドさんはここにはいないようだ。
だが⋯⋯。
「そうですか⋯⋯」
「エリウッドがどうかされましたか?」
「いえ、私の知り合いがエリウッドを訪ねて来ていないかを確認したくて」
「もしエリウッドが来ましたら、城の方へ使いを出しましょうか?」
「そのようにして頂けると助かります」
そしてティアが席を外そうとした時に、俺からもサブル支配人に質問をする。
「ここの商品は素晴らしいものばかりですね」
「お褒めに預り光栄です」
「ちなみにどのような物を取り扱っているか教えて頂けないでしょうか? なにぶんまだメルビアに来たばかりで、色々取り揃えなくてはならなくて」
「そうですか。当店では雑貨、生活用品、食糧、何でも揃えることができます。もし当店に無いものでもお金さえ支払って頂ければ可能な限り準備させて致します」
「それはすごいですね⋯⋯ちなみに奴隷も買えるのでしょうか」
俺が奴隷という言葉を発するとそれまで流暢に会話をしていたサブル支配人の動きが一瞬止まった。
「⋯⋯当店は奴隷を販売する許可を持っていませんので、もしご利用でしたら、ルーンフォレストにある本店でお願いします」
「そうですか⋯⋯わかりました」
そして俺達はサブル支配人や店員達に見送られ、ステラ商会を後にする。
「ラナちゃんいなかったね」
「探知魔法を使ったけど2人の反応はなかったから、ステラ商会にいないことは間違いないよ」
「お兄ちゃん⋯⋯サブル支配人に奴隷のことを聞いていたけどまさかあそこにいたの?」
「いや、奴隷はいなかったよ。ただ少し気になることがあってね」
「気になること?」
「まあそれは置いといて、今はラナさんを探そう」
「そうですね」
ステラ商会を出た後、俺達は探知魔法を使いながら、メルビアの城下町を探すが、ラナさんとエリウッドさんの反応は見つかることはなかった。
もうそろそろ正午になる。これだけ探していないとなるとひょっとしたら街の外へ行ったんじゃ⋯⋯。
俺達は昨日通った西門へと向かい、門を護っている兵士の方にラナさん達のことを聞いてみる。
「エルフの男女⋯⋯ああ、それなら朝方ここを通って行ったよ」
「本当でしょうか⁉️」
「こ、これはティアリーズ王女⋯⋯ええ、間違いありません。女の子の方は昨日君と一緒に西門から出ていったエルフだよ」
やはり! そうなると行き先はセルグ村か?
「たぶんわざわざ外に出たのはセルグ村に向かったからだと思う」
「セルグ村にですか?」
「ちょっと急いで見てくるから2人は城に戻っていてくれないか」
ヒイロの問いにティアは一緒に着いて行きたかったが、昨日のように足手まといになることは目に見えていたので自重する。
「⋯⋯わかりました」
「ラナちゃんをお願いねヒイロちゃん」
「任せろ」
俺はティアとリアナを転移魔法で城まで送り、自分自身にも魔法をかけてエルフの森の入口まで飛んだ。
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