第154話 メルビア城の地下遺跡

 コンコン


 明日の旅立ちに向けて準備を行っていたら、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえてくる。


「どうぞ」


 声をかけると部屋に入ってきたのは、ティアとリアナとマーサちゃんの3人だった。


「どうした? まさか3人共セルグ村まで連れていけ、なんて言うつもりじゃないだろうな」

「ち、ちがいますよ⋯⋯お兄ちゃんに用があって参りました」

「用?」

「はい⋯⋯それに明日のことはどうするかもう考えていますから」


 何か不穏なことを言っていたように感じたが、今はその用とやらを聞いてみよう。


「少しお兄ちゃん達に来て欲しい所があります」

「来て欲しい所?」

「はい」

「それでどこに行けばいいんだ」

「こちらです」


 俺達はティアの後について、城の中を歩く。


「2人はどこに行くのか知っているのか?」


 俺はリアナとマーサちゃんに、これから向かっている場所を聞いてみる。


「私は聞いてないよ。ヒイロちゃんと同じで、一緒に着いてきて欲しいって」

「私もですね」

「2人も知らないのか」

「口で説明するのは難しく⋯⋯実際に見て頂いた方が早いと思いまして」


 俺達の話し声が聞こえたのか、ティアが俺の問いに答えてくれる⋯⋯いや さらに疑問が深まったとも言えるが⋯⋯。


 そして大きな扉の前に到着し、そこには2人の兵士が立っていた。


「これから中には誰も入れないで下さい」

「承知しました!」


 2人の兵士はティアに敬礼をして、その大きな扉を左右に開き、俺達を中へと導いてくれる。


「これは⋯⋯玉座の間か」


 中央後方に重厚な椅子が2つ並び、そこまでの道筋には高そうな赤い絨毯が広がっている。


「王様がいた部屋と似ている感じがする」


 そういえばリアナは一度勲章を貰っているから、ルーンフォレストの玉座の間に行ったことがあったな。


「わ、私⋯⋯こんなに凄い部屋に来たの初めてです」


 マーサちゃんが緊張しているのか、俺の服の裾を掴み、身体を寄せてくる。

 まあ、それが普通の反応だろう。上級貴族でもない限り、この部屋に来ることなどあり得ないからな。


「か、勝手に入って怒られませんか」

「一応、ティアと一緒だからそれはないと思うよ」


 そういえばティアはどこに行ったんだ?


「皆様こちらです」


 玉座の裏から声が聞こえて来たので向かうと、そこには地下へと行く階段が目に入った。


「隠し階段か⁉️」

「はい⋯⋯ここから下へと降りていきます」


 これって普通は城が攻められた時に、王族が逃げるために使う物だよな。


 逃げ道で待ち伏せされないためにも、この隠し階段を知っている者は限定されているはずだ。


「俺達に見せても良かったのか?」

「大丈夫です。お父様には許可を得ていますので」


 王も承知済みか⋯⋯ならばこの先にあるものはなんだ。ただの逃げ道ならわざわざ俺達だけをここに案内するはずがない。


 5階分くらいの階段を降りると、そこは大理石か何か異質な物で作られた 広い空間が姿を見せた。


「この壁⋯⋯綺麗だねえ。光っているし、灯りがなくても歩くことができそう」

「何で出来ているのでしょうか」


 確かにこのような壁は今まで見たことがない。何か神々しいものを感じる気がする。


「こちらになります」


 俺達に見せたい物はまだ先にあるらしく、ティアの後ろを着いて行く。


 5分、10分、いや1時間ほど歩いたのだろうか。同じ景色が続いているため、どれだけ進んだのかが把握できない。それにこの独特の空間が俺達に時という存在を忘れさせる。


「後どれくらいでその目的地に着くんだ?」


 後ろを振り向くとマーサちゃんが肩で息をしていたため、俺はティアにどこまで行くのか聞いてみる。


「着きました」


 ティアの言葉を聞いて、前方に視線を向けるとそこに玉座の間と同じくらいの大きさの扉があり、ティアがゆっくりと開いていく。


「少し驚くかもしれませんが、悪いものではないので⋯⋯」


 驚く? 悪いものではない?


 俺達はその言葉の意味が理解できず、疑問符を浮かべながら、ティアに続いて扉の中へ入ると、突然何か、風のような息吹きが俺達を襲った。


「くっ! なんだこれは」

「こんな所で風?」

「でも何か心地よい気がします」


 何か身体が⋯⋯心が綺麗になる波動を受け、一瞬驚いたが、すぐにマーサちゃんが言っていたように、安らぎを身体全体で感じる。


 これって⋯⋯そうだ! 教会や神殿にいる時の感じにそっくりだ。

 だが感知できる聖なる力は教会とかと比べ物にならない。今ここに女神アルテナ様がいると言われても信じてしまいそうなくらいだ。


「それで俺達をここに招き入れたのはどうしてだ」


 俺はここまで案内された理由を聞いてみると、ティアは部屋の中にある7つの扉を指で指した。


「これをお兄ちゃん達に見て欲しくて」


 扉は全て同じ物だと思ったが、中心部分にあるマークがそれぞれ違う。


「こ、これは⋯⋯」


 左3つが魔方陣の上にクロスした杖、拳に天、女神に十字架。1番右が竜と妖精で何のマークかわからないが、右から2つ目はマーサちゃんの筒のような紋章と魔方陣の紋章だ。


「この半分は私の紋章では⋯⋯」


 そしてその左隣はリアナが持つ勇者の紋章。


「私の紋章もあるよ!」


 そして中心の扉に描かれているのは⋯⋯。


「⋯⋯俺の紋章だ」


 誰に聞いても、そして王立図書館でもわからなかった【門と翼の紋章】がそこに描かれている。


「テ、ティアこれは⋯⋯」

「ここは代々メルビア王家に伝えられていた遺跡⋯⋯神々の試練が受けられる場所と言われています」


 そういえばネネ先生の授業で、メルビアは最古の国で遺跡が多いって言ってたな。城の地下にあるということは、何か特別なものかもしれない。


「お兄ちゃん達の紋章を見て驚きました⋯⋯リアナさんの紋章は有名ですから存じてましたが、まさかここに描かれているものと同じ、もしくは似ている物を2人がお持ちしているなんて」


 ひょっとしたら俺達の紋章が何なのか分かるかも知れない。俺は期待を胸に、心臓の鼓動が速くなっていくのが手に取るようにわかった。


「こ、この中に行けば、俺達の紋章が何かわかるのか」


 俺は逸る気持ちを抑えきれず、思わず【門と翼の紋章】の扉に触れてしまう。


「お兄ちゃんダメです!」


 触れた扉の奥にはうっすらと広い空間のようなものが見え、その先に1体の石像のようなものが見える。


「ティア⋯⋯何がダメなんだ」

「言い伝えでは、部屋の中には神々の武器を護るガーディアンが複数いると言われてます」

「ガーディアン? ひょっとしてあの石像みたいな奴か」

「おそらく⋯⋯聞いた話ではレベルが50は越えているらしいです」

「レベル50⁉️」


 少なくとも俺よりはレベルが高いのは間違いない。


「50を越えるものが複数いるなんていくらヒイロちゃんでも⋯⋯」

「わ、私の2倍以上⋯⋯ですか⋯⋯」


 50という数字を聞いて、俺達は扉から一歩後退ってしまう。


「そしてこの試練は、扉の紋章を持つ者ともう1人の2名でしか受けることができないらしいです」


 一瞬マグナスさんとルドルフさんの力を借りれればと考えたが、どうやらその手段は使えないらしい。


「そして過去に、勇者アレル様とリョウト様が試練に挑んだ結果⋯⋯」

「どうなったんだ」


 父さん達が負けるはずがないと思いたいが、今のティアに言い方だと⋯⋯。


「2人は瀕死の重症を負い、命からがら逃げて来られたようです」


 正直勇者パーティーの2人がいて、負けるなんて信じられない。

 俺は、それほどまでに強いのか、目に見えるガーディアンに対して鑑定魔法ライブラをかけてみる。


 名前:神々の先兵

 性別:不明

 種族:神の使徒

 紋章:なし

 レベル:50

 HP:8,632

 MP:2,211

 力:A+

 魔力:B

 素早さ:B+

 知性:C

 運:C


 こ、こんなのが複数いるのか⋯⋯この試練を越えるのは並大抵の強さでは無理だ。


「ヒイロちゃん⋯⋯何だか震えが止まらなくなってきたよ」

「わ、私もです」


 あまりのレベル差に2人は恐怖で動けなくなってしまう。

 そういう俺も恐れを抱き、開いてしまった扉を急ぎ閉める。


「魔王を倒した勇者パーティーでも突破することできない試練⋯⋯いつか更なる強敵が現れた時に、挑戦する時が来るかもしれません。その資格を持つ可能性がある3人にはどうしても知ってほしかったので本日は案内させて頂きました」


 神々の武器か⋯⋯もし手に入れることができたら戦力が大幅にアップすることができそうだが、それも命あっての物種だ。

 残念ながら今は諦めるが、いつかその武器を手にすると心に誓い、俺達は転移魔法で玉座まで戻った。

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