第8章 エルフの村とラナと秘宝と
第153話 異空間収納とメンバー人選
メルビア王城にて
ルドルフさんの転移魔法でメルビアへと戻り、各個人に割り振られた部屋にて、異空間収納の中身を解放していく。
「これだけの人数の荷物を収納できるなんて、ヒイロくんは本当にすごいですね」
「確かにそうね。便利な魔法だから私も覚えたいわ」
ルーナとラナさんが俺の魔法に感心している。
滅多に誉めることがない(俺とグレイに対して)ラナさんが称賛してくれるなんて珍しい。
「じゃが異空間収納は相当魔力が高くないとむずかしいぞい」
「そうなのですか?」
「常にMPがないと、異空間に収納したものが出て来てしまうからのう」
「それでは私には難しそうですね」
ラナさんは魔法系が得意なエルフなだけあって、職は武道家だけど魔力はけして低い訳じゃないんだよな。修練していけばいつかできそうな気がするけど。
「不思議に思っていたのですが、商人のスキルの異空間収納と魔法の異空間収納は何が違うのでしょうか?」
ルーナが疑問に思い、賢者であるルドルフさんに尋ねる。
「良い質問じゃのう」
「あ、ありがとうございます」
ルドルフさんに誉められ、ルーナは少し顔が紅潮し、照れている。
「まず大前提として、生きておる物はスキルだろうが魔法だろうが収納することができん」
それが出来たら、人を入れて運搬とかすれば、危険なく旅ができるから商売になりそうだ。
「商人スキルの場合は、容量が決まっておる。魔法は魔力が高ければいくらでも容量が入る⋯⋯後は大きく違うのは状態維持じゃな」
「状態維持⋯⋯ですか」
「そうじゃ⋯⋯例えば冷たい氷を収納した場合、スキルはそのまま置いておけば溶けるが、魔法の場合は状態維持がされておるから溶けることはない」
「そうなると魔法はスキルの上位互換ということでしょうか」
「その分使い手もおらんからのう」
俺は【魔法の真理】から簡単に使うことができるが、本来はとても難しい魔法のようだ。
「ということは、ヒイロさんはやっぱり凄いってことですね」
「そうね。異空間収納の魔法を使えるから⋯⋯」
「いえラナさん⋯⋯魔力が凄いってことです」
「どういうこと?」
まさかマーサちゃん。
「それは⋯⋯」
「だってうちの宿屋をそのまま異空間に収納しちゃったんですよ」
「「「「「えっ⁉️」」」」」
俺は慌ててマーサちゃんの口を塞ごうとしたが、遅かったようだ。
「嘘でしょ⁉️」
「ヒイロちゃんなら⋯⋯できるね」
「さすが私のご主人様⋯⋯いえヒイロくんです」
ラナさんが信じられないという表情をしながら、俺のことを怪しむ目で見てくる。
やばいな⋯⋯仮面の騎士の正体に気づかれないまでも、疑いを持たれてしまうかもしれない。
「あなた⋯⋯ひょっとして実力を隠しているの? その紋章も何なのか良くわからないし」
ほらきた。ここはどう答えるべきか。
と言っても異空間収納が使えることはバレているし、下手な言い訳はかえって怪しまれるかもしれない。
「魔力が高いイコール強いってわけじゃないだろ」
グレイもステータスを見て、魔法に関してかなり強いということになる。しかし本人は魔法が使えない。
「確かにそうね」
「それより早くみんなの荷物を部屋に入れないと」
俺は全員に、それぞれの部屋に移動することを促す。
「私、部屋の配置を決めたいから早く荷物を出してほしいな」
「どこに配置するか迷いますね」
俺の言葉を察したリアナとルーナがラナさんの手を繋ぎ、部屋の方へと誘導する。
「それじゃあまずはエリスさんの部屋から行きますね」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。私は最後でいいわ」
一応年長者なのでエリスさんを優先にしたが、何故か断られてしまう。そんなエリスさんを見てダリアさんが横から口を挟んでくる。
「はは~ん⋯⋯エリスはあの下着を皆に見られたくないんだね~⋯⋯片付けを手伝うとか言われちゃうとひょっとしたらバレちゃんかもしれないからね~」
エリスさんはダリアさんの言葉を聞いて顔が真っ赤になる。
確かにあれを見られたらまたからかわれることは必須だ。しかも年下のマーサちゃんには教育上良くないので、俺はエリスさんの意見を採用する。
「それじゃあルーナの部屋から行こっか」
「ヒイロくんお願いします」
こうしてルーナから始まり、最後にエリスさんの部屋に収納していた荷物を解放した。そしてちょうど城下町で、以前火事で焼け落ちた建物の跡地があったので、ディレイト王の許可を得て、エールの宿屋をその場所に置かせてもらった。
そして1時間ほど経った後。
全員が俺の部屋へと入り、今後についての話をする。
「マグナスさんが仰った【グリトニルの眼鏡】はエルフの村にある。場所は⋯⋯」
「ここから北西に行ったところにあるわ」
ラナさんはセルグ村の出身地であるため、さすがに場所は詳しそうだ。
「しかしマグナスおじ様⋯⋯そのような真実を見抜く魔道具など聞いたことありませんよ」
「文献にはエルフ族の限られた人にしか伝わっていない秘宝だと記載してありました」
限られた人にしか伝わらない秘宝⋯⋯だと⋯⋯。男のロマンをくすぐる言葉だな。
「それなら私より、姉さんに引き継がれているのかもしれません」
「ラナちゃんってお姉ちゃんがいたんだ」
我が道を往くタイプだから一人っ子かと思ったが違うのか。
「私の家は代々長をしている家系だけど、姉さんがいたからそういう一族のことはあまり教えられていないの」
余所に情報が漏れないように秘匿されているのか。マグナスさんが仰っていることに信憑性が出てきた気がする。
「それでセルグ村には誰が行くんじゃ」
俺は皆を見渡すとラナさん以外の視線が、俺に集中している。
「ヒイロちゃんが決めて」
「お兄ちゃんが決めれば、皆様納得するのではないですか」
「皆がそういうなら変態ロリ好きエロ男が決めても良いわよ」
どうやら俺が決定していいらしい。
「今回の調査にはラナさんは行くとして、他には⋯⋯」
リアナとグレイは王都襲撃の件があったから、休んでもらった方がいいかな。エリスさんとダリアさんはメルビア騎士団の人を鍛えると言っていたから無理だし、マーサちゃんはまだ13歳で、未だに何の職かもわかっていないから行かせるわけにはいかない。
そうなると⋯⋯。
「俺とルーナで行こうか」
「はい」
ルーナは嬉しそうな声で、満面の笑みを浮かべて返事をする。
そんなに行きたかったのかな。
「まあ、妥当な所ね」
正直ラナさんが納得するとは思わなかった。俺がいるから嫌だと言い出すかと思っていたけど⋯⋯。
「これで荷物持ちは、変態ロリ好きエロ男にお願い出来るから楽だわ」
そっちかい! まあ文句言われるよりはいいけどさ。
「その人選納得出来ません!」
皆が賛成する中、突如ティアが右手を上げ、ハッキリとした声で反対してきた。
「今俺が言ったメンバーのどこがダメなんだ?」
俺の中では、この三人が最良のメンバーだと思ったが、ティアは違ったようだ。どんな人選なら良いのか、ティアの王女としての視点に興味があるから聞いてみたい。
「私が⋯⋯」
「私が?」
「何で私が入ってないのですか! 私もお兄ちゃんと冒険したいです!」
ただ単に自分が行きたかっただけかい!
ティアの意見を聞いて皆ずっこけているぞ。
「お兄ちゃんお願いです! 私も連れていってください」
「いや、ティアは王女だし無理だろ」
「そうですね。王女を冒険に連れていったとディレイト王に見つかったらどんなことを言われるか」
「そうじゃの。ここは前に聞きたがっていたじいの冒険話を話すから今回は諦めてくれんか」
ティアはむくれた顔をしていたが、渋々と縦に頷く。
「⋯⋯わかりました」
俺だけではなく、マグナスさんとルドルフさんに説得されて、ティアはセルグ村に行くことを諦めてくれたけど、あの顔は納得していない気がする。何か仕出かして来そうな感じがするが、ダメなものはダメだ。
こうして【グリトニルの眼鏡】を手に入れるための人選が決まり、明日の朝1番でヒイロ、ルーナ、ラナがセルグ村へ旅立つことが決定されたのであった。
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