第155話 魔法銃
玉座の間に転移魔法で戻ると、そこは来た時と同じように静寂に包まれていた。
「マーサちゃん⋯⋯ううん、マーサ」
「ティア王女なんでしょうか」
「そこはティアって呼んで欲しかったです⋯⋯せっかくこちらも勇気を出してマーサって呼んだのに⋯⋯」
「そ、それは失礼しま⋯⋯ごめんなさい⋯⋯ティア」
どうやら2人は、敬称を付けずに呼ぶことにしたようだ。ティアもマーサちゃんも年は同じだから良い友達になるだろう。そうなってくれると俺も嬉しい。
「これを貴女にあげるわ」
そう言ってティアは、懐から何かを取り出し、マーサちゃんに差し出す。
「これって⋯⋯私の紋章にそっくりです」
確かに似ている⋯⋯というか同じといっても過言はないだろう。
「元々は先ほどの遺跡にあった宝箱に入っていたらしいです。お兄ちゃんなら、この道具の使い方もわかるのではないですか」
「わかった⋯⋯鑑定で見てみるよ」
「【
マーサちゃんの紋章と同じ形をした道具に鑑定をかけると、その詳細が明らかになってきた。
魔法銃
スナイパー系の職が装備できる魔道具。
引き金を引くと自分の魔力を消費して、魔法の弾を打ち出すことができる。その威力は込める魔力によって変化する。
「この武器は、スナイパー系の職が使うことができる魔法銃って言うみたいだ」
「魔法銃⋯⋯ですか」
「魔力を込めてここの引き金引くと、魔法の弾が発射する」
マーサちゃんは目が良いし、魔力値も高いから、おあつらえ向きの武器じゃないか。
「ひょっとすると私の職業はスナイパーと言うのでしょうか」
「おそらくそうだと思うよ」
マーサちゃんは眼を閉じて、魔法銃を両手で胸に抱きしめ、喜びを噛み締めているようだ。
それもそうか⋯⋯何の職かわからず、得意の武器もわからず。自分が冒険者としてやっていけるか不安だったのだろう。
だが、今ティアの手でその闇は払拭された。
「ありがとうティア⋯⋯地下に連れていってくれたこともだけど、この魔法銃をくれたことがとてもも嬉しい」
「喜んでくれたのなら何よりだわ」
「これで私もヒイロさんの⋯⋯皆の役に立つことができるよ」
そう言葉にしたマーサちゃんの顔は、とても晴れやかなものだった。
「ティア王女!」
玉座の間を出ると文官の礼服を着た、見たことのない2人が俺達のことを待ち構えていた。1人はすらっと背が高く、文官にしては若い20代後半の男性で、ティアにきつめに声をかけた人物は、白髪で顔が少し怖めの老人だ。
「何故このような⋯⋯ルーンフォレストの手先かも知れない者を玉座に招き入れたのですか!」
ルーンフォレストの手先か⋯⋯普通に考えれば、突如現れ、王女と親しい俺達は、不審な奴だと思うだろうな。
「王の許可は得ています⋯⋯それと私達の命の恩人に対してその言葉は無礼ではありませんか⋯⋯バルト宰相」
「確かに言葉が過ぎたかもしれません。ですが――」
バルト宰相と呼ばれた老人は、引き下がるつもりはないようで、尚もティアに食い下がっている。
「まあまあ⋯⋯バルト宰相。この方はディレイト王の友人のご子息です。それにティア王女が玉座の使用許可を得ている所は私も見ていたので、問題ないかと思われます」
「⋯⋯王が御認めになったのは理解した。だがいつまでもここにいていいものではないだろう⋯⋯マリウス伯爵」
若い文官がティアのことを庇ってくれたが、宰相と呼ばれたバルトという老人はジロリとこちらを睨む仕草をしてくる。
これは相当良く思われていないな。逸早く立ち去った方が良さそうだ。
「俺達はもう行きますので」
そして機嫌が悪そうなバルト宰相と、マリウス伯爵の横を通り、とりあえず俺の部屋へと向かった。
「何なんですかあの人は、私達を目の敵みたいにして」
「好意的⋯⋯という感じじゃなかったね」
マーサちゃんとリアナの言いたいこともわかるが、いきなり余所者が玉座の間に入ったら古参の人達は面白くないと思うし、警戒する気持ちはわかる。
「少し前までは、厳しい人ではありましたが、あのようなことを言う人ではなかったのですが⋯⋯」
「逆にマリウスさんは私達の庇ってくれて、好い人でしたね」
確かに見た目は好青年という感じだったが⋯⋯。
「マリウス伯爵は最近家督を継いだばかりですが、的確な意見を述べて頂けるので父も頼りにしていると仰っていました」
「確かに有能そうな人物ではあったな」
俺はマリウス伯爵より、ティアが先ほど言った、バルト宰相が変わったと言う話が少し気になった。先日マグナスさんが話してくれた、魔族が人に化けて侵入しているという話⋯⋯もし宰相に成り変わっていたら、メルビアを陥落させることなど容易にできるだろう。
だがそうならない為にも明日、エルフの村へと向かい、【グリトニルの眼鏡】を手に入れなくてはならない。
「3人共、そろそろ夜も遅くなってきたから、部屋に戻った方がいいぞ」
特にティアは王女だから、それこそ男の部屋にいることがバルト宰相にバレたら何を言われるかわからない。
「わかったよ⋯⋯お休みヒイロちゃん」
「おやすみなさいお兄ちゃん」
「おやすみヒイロさん」
挨拶を交わし、3人は部屋を出ていくとここには俺1人となり、改めて中断していた明日の旅支度を行う。
王宮内で誰が敵なのか不安を覚えながら、セルグ村へと向かう準備が終わると、いつの間にか夜が更けていたのでベットで寝ることにする。
そして夜が明けた。
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