第150話 幕間3 引っ越し準備後編

 ダリアさん、エリスさんの荷物を異空間収納に入れた後。


 俺達はリアナの部屋へと向かっていた。

 そういえばAクラスの寮に来るのは初めてだな。


 一応冒険者学校の生徒に会わないよう、探知魔法を使っているが、どうやら今この寮にはラナさんしかいないようだ。

 通常なら授業の時間だが、昨日の魔物襲来によって、冒険者学校の生徒も警護で駆り出されているのかも知れない。


 だが何があるかわからないため、俺とリアナは気配を消しながら移動し、

 そしてリアナの部屋に着くと、静かにドアを開け、急ぎ中へ入る。



「な、なんだこれは!」


 俺は部屋の中を見て、思わず驚いて声を出してしまった。

 キッチン、トイレ、風呂が完備されており、俺の部屋と比べて4倍くらいの広さがある。

 もうこの空間は、どこぞの高級ホテルじゃないかと見間違うほどだ。


「AクラスとFクラスでこんなに差があるなんて⋯⋯」


 差があるとは思ったがまさかこんなに違うとは!


「そうだね⋯⋯私も初めビックリしちゃったよ」


 それだけルーンフォレストが冒険者の育成に力を入れていたことがわかる。だがもう俺達はここに来ることはもうないので、どうでもいいことだ。



「ヒイロちゃんは⋯⋯冒険者学校をやめることになって本当に良かったの⋯⋯」


 異空間収納に荷物を入れている時、突然背後からリアナに声をかけられる。振り向いて後ろを見ると、リアナは俯いているため表情は伺えない。


「そんなことを気にしていたのか?」

「気にするよ⋯⋯だって私のせいでみんな⋯⋯」


 気にするなって言ってもリアナの性格上、無理な話しか。


「今回のルーンフォレスト王国のやり方は、俺も賛同できないし、みんなもそうだ。それに魔族が関わっていたことだし、リアナのせいじゃないよ」

「でも⋯⋯」


 納得しないか⋯⋯リアナは自分のことに対しては考え過ぎる所があるから、もしかしたら亡くなった人達のことも思い出しているのかも。このままだと罪悪感から、いずれ心が折れてしまうかもしれない。


 みんなの前ではそんな沈んだ態度は見せなかった⋯⋯空元気だったんだな。そんな姿を俺の前だけに出してくれて嬉しくおもうが、こんなことになった魔族やルーンフォレスト王国に怒りも沸いてくる。


「じゃあリアナは逆の立場になって、俺やラナさん達のせいで学校を辞めることになったらどうする?」

「もちろん私も辞めるよ! だって悪いのはヒイロちゃん達じゃないし」


 即答だな。


「だったら今回の件もそういうことだろ?」

「あっ⁉️」

「だから気にしないでいい⋯⋯もし悪いと思っているなら、いつか仲間が困った時にリアナが力になってやれ」

「⋯⋯うん⋯⋯そうだね。今度は私がみんなの力になるよ」


 そう言って笑顔になり、ガッツポーズを取る。


 良かった⋯⋯少しは元気が出たかな。

 リアナの笑顔は、みんなを明るくする笑顔だから、沈んだままでいてほしくない。


「それとその⋯⋯」


 何かリアナが言いづらそうに、モジモジとし始めた。


「他にも話したいことがあるのか? いいよ⋯⋯何でも相談に乗るぞ」


 俺の言葉が引き金になったのか、リアナが小さな声でポツリ、ポツリと話し始める。


「その⋯⋯昨日ティアちゃんのお父さんの前で⋯⋯」

「ティアのお父さん? ディレイト王のことか」


 昨日何かあったっけ?


「私がメルビアにいてもいいのか⋯⋯聞いてくれたじゃない」

「あ、ああ⋯⋯そんなことがあったな」

「その後⋯⋯もしリアナをメルビアに置いてくれないなら俺もって⋯⋯」


 リアナの顔が少しずつ紅潮してくる。

 俺にお礼を言いたいのかな? だけどそれでこんなに顔が赤くなるなんて、そんなに恥ずかしいことなのか?


「だから⋯⋯ありがとうヒイロちゃん⋯⋯すごく嬉しかった」

「お、おう」


 いつものように気軽にお礼を言うのではなく、照れながら言ってきたので、俺は返事に詰まってしまった。


「そ、それで! ま、まだお礼があるんだけど」


 更にリアナの顔が紅潮していく。もう息を止めているんじゃないかと思うくらい赤い。


「目!」

「めっ?」

「目を閉じて!」


 なんだか良くわからないけど、必死な様子で話しかけてくるので、俺は思わず目を瞑る。


 1秒、2秒、3秒⋯⋯⋯⋯10秒ほど立っても何かが起きる気配がない。


「もういいか?」

「ダ、ダメ! い、今するから待ってて!」


 何を待てと言うんだ。何か俺を驚かせることをするのだろうか。

 お金? 伝説の武器? 新しくできるようになった魔法をみせる? 大抵のことがあっても驚くことはないぞ。


 俺はリアナが何をするか、期待してまっていると⋯⋯突然頬に少し湿ったものが当たったので、思わず目を開ける。するとリアナの顔がすぐ横にあった。


 えっ? 今のって⋯⋯キス⁉️


 予想だにしないことが起きていて、心臓のドキドキが加速し始める。

 あの恋愛とかに疎いリアナがキス⋯⋯だと⋯⋯⁉️


「ほ、ほら! 前にティアちゃんが、助けてくれたヒイロちゃんにキスしてたじゃない! そ、それを真似てみたんだけど⋯⋯ダメ⋯⋯だった?」

「い、いや⋯⋯ダメじゃない」


 そんな上目遣いで可愛らしくダメだったなんて言われたら、ダメでもダメじゃないと言ってしまいそうだ。


「ヒ、ヒイロちゃん! 荷物は後そこに置いてある奴だけだからお願いね! 私、先にグレイくんの部屋に行ってるから!」


 リアナは顔を真っ赤にしたまま、部屋の外へと駆け出して行った。


 そしてリアナの部屋に1人取り残された俺は、放心状態のまま、いつまでも立ち尽くしていたので、後で遅いとラナさんに怒られた。


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