第149話 幕間2 引っ越し準備中編
マーサちゃんと女将さんはグレイの部屋へと行き、俺はエリスさん達が住む部屋へと向かった。
「副団長じゃなくてエリスはもう少し時間がかかるから私の方を先にお願~い」
ダリアさんの家はエリスさんの家のすぐ向かいにあり、2人とも賃貸で借りていると以前言っていた。なんだかんだすぐ近くに住む辺り、2人の仲の良さが伺える。
「私の持っていくものはここにある奴だよ~」
すでに荷物はまとめられているため、俺は異空間収納で次々と収納していく。
「ちょっとまって~」
最後にベットを入れようとした所で、ダリアさんから待ったの声がかかる。
「よく考えれば今ってチャンスだよね~」
チャンス? 何のことだろう?
油断していたわけではないが、突然ダリアさんに押されて、俺はベットに仰向けに倒れてしまう。
「ダリアさん何を⋯⋯」
そしてダリアさんは素早く俺の上に馬乗りになり、両手首を抑えられてしまう。
「大人の恋愛しようか~」
「お、大人の恋愛?」
それってもしかして⋯⋯。
ダリアさんが目を閉じ、ゆっくりと俺の唇に向けて顔が近づいてくる。
俺は右手、左手と腕を動かしてみるが、抜け出すことは敵わない。さすがは【剛剣のダリア】の二つ名を持つだけのことはある。け、けして本気で抵抗してないわけじゃないぞ⋯⋯俺は心の中で、誰かに言い訳をする。
もうダリアさんの顔が目の前だ。
いつも綺麗なダリアさんだが、今日は更に色気がプラスされていて、特に唇が
後10センチ⋯⋯数センチと顔が近づいてくるため、俺は反射的に目を閉じる。
グレイ、どうやら今日俺は大人の階段を昇るみたいだ。すまんな。先に行くぞ。
バタンッ!
突如荒々しくドアが開き、殺気を含んだ気配が現れて、俺は戦闘態勢を取ろうとするが、ダリアさんの抑える力が強くなり、動くことができない。
「ダ、ダリア! あなた何をしてるの!」
エリスさんが鬼の形相で現れるが、ダリアさんは動じることなく唇が近づいてくる。
だか後1センチというところで掌が間に入り込み、俺とダリアさんはその手に向かってキスをする。
「ダリア⋯⋯聞こえない振りをしても無駄よ⋯⋯遅いと思って来てみたら。い、如何わしいことを!」
「あれ~? エリス~、いたんだあ」
「いたんだじゃありません! あなたという人は!」
「別に個人の恋愛に関しては何をしてもいいと思うけど~」
「そ、それは⋯⋯」
どうやらエリスさんが、目にも止まらぬスピードで俺とダリアさんの唇の間に手を差し込んできたようだ。
残念に思いながらも、俺はどこか安心したような気持ちが沸いていた。
バタンッ!
「ヒイロちゃん大丈夫! 何か嫌な予感がして急いで来たんだけど」
今度はリアナが思いっきりドアを開けてダリアさんの家に侵入してきた。
嫌な予感って、リアナは動物的感でも持っているのか!
「リ、リアナ様⋯⋯ダリアが――」
言葉に詰まっていたエリスさんにとっては、渡りに舟だったようで、リアナに今起きたことを話す。
「ふ、ふ~ん⋯⋯いいねヒイロちゃんはモテモテで」
少し動揺した表情でリアナは語りかけてくる。その様子はいつも通りのリアナと同じに見えたが、突如気配が変貌する。
「でも今は、王国の人達から隠れて、荷物の整理をしているんだよ。そういうことをしている時間はないはずなんだけどなあ」
「「は、はい」」
言葉は普通だが、俺とダリアさんは勇者が持つプレッシャーに、思わず頷いてしまう。
「あ、あれって本当にリアナちゃん?」
「滅多に見ないけど怒りモードのリアナで間違いない」
「リアナ様は怒らせない方が良さそうですね」
俺達はヒソヒソと内緒話をしているとリアナが笑顔で話しかけてくる。
「3人とも何を話しているのかな、かな⋯⋯私には言えないことなのかな、かな」
俺は首を全力で振って否定する。
「さ、さあダリア。早く荷物をまとめて下さい。次は私の番ですから」
「そ、そうだね~⋯⋯まだこの後何人も待っているから急がないと~」
こうして、リアナの恐ろしさを見た2人は、急ぎ荷物を整理するのであった。
「じゃあ次はエリスの番だね~」
ダリアさんの荷物を異空間に収納し、エリスさんの部屋へと向かう。
「後少しで準備が終わります⋯⋯ここに置いてあるものはもう異空間に入れて頂いて構いません」
エリスさんの部屋は、粗方整理されており、後は幾つかのタンスが置いてあるだけだった。
「私も手伝うよ~」
「私も手伝います」
「2人ともありがとう」
そして3人はエリスさんの荷物を整理し始めたので、俺は置いてある物を異空間に次々と収納していく。
「後はこのタンスだね~」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ダリアさんがタンスを開けようとした時、エリスさんが慌てた様子でその行為を止めるようと口にする。
「えっ⁉️」
しかしエリスさんの声は届かず、ダリアさんはタンスの引き出しを開けてしまう。
「こ、これは~」
そこにはどんな宝石よりも価値がある、色とりどりの宝物が眠っていた。
「下着だ~」
「えっ? 私にも見せてください」
リアナもタンスの側に行き、マジマジとその下着を見始める。
俺も然り気無く作業している振りをして、エリスさんの下着に集中する。
「エリスさん白やピンクが主体で、フリルの着いた可愛い系の下着が多いですね」
「そうなんだよ~⋯⋯意外にエリスは可愛いのが好きだから~」
「ちょ、ちょっと何見ているのよ! リ、リアナ様も止めてください」
エリスさんは可愛い系の下着が好きと⋯⋯俺は脳内の誰にも破壊できない場所にその情報を保存した。
「えっ⁉️」
突然ダリアさんが驚きの声を上げる。
そしてタンスの中からある物を手に取り、まるで大物を捕らえたように頭上に掲げる。
「お、大人の下着だ~」
それは眩しく輝いた、アダルティーな大人しか装備ができないものだった。輝いているといってもそれは白ではなく黒光だ。
「し、しかも透け透けだよ⋯⋯なんで透明なのかな、かな」
「ヒ、ヒイロもいるのですから止めてください!」
俺としてはどんどんやって頂いて結構です。
「どういう時に使うのか私にも教えてほしいよ~」
「教えてくださいエリスさん」
あの表情からすると、下着の透明なのはどうしてか、ダリアさんはわかっていて、リアナは本当にわからなくて聞いているように見える。
「そ、それは⋯⋯」
勿論エリスさんはそんなことを答えれるはずもなく、恥ずかしくて声がどもっている。
「ねえエリス~⋯⋯少し前までこんな下着持っていなかったよね~⋯⋯誰のために買ったのか教えてほしいなあ~」
「エリスさん好きな人いるんですか! 私も知りたいです」
2人の興味が下着からエリスさんの好きな人へと移る。
しかしどちらにせよ答えにくいことなので、エリスさんは赤面して黙ったままだ。
「教えて~」
「教えてください」
ダリアさんとリアナの教えてコールが始まり、益々顔が赤くなっていく。
「エリスにも堂々春がきた~」
「その好きな人とあの下着を使うの⁉️ エリスさん大人の階段を昇りすぎだよ!」
赤くなった顔がさらに紅潮し、恥ずかしがっていると思いきや、エリスさんから殺気が溢れ出ている。
「あ~な~た~た~ち~⋯⋯言いたいことはそれだけですか! 人のプライベートな部分を!」
エリスさんは腰に差した剣を抜く。
あっ⁉️ これはマジで怒っているパターンだ。
「エ、エリス~冗談だよ~」
「そ、そうだよ透け透けの黒い下着を持っていても恥ずかしいことじゃないよ⋯⋯たぶん」
しかし、1度燃え上がった怒りの炎はそう簡単に消えるはずもなく⋯⋯。
「2人ともそこに直りなさい!」
剣を片手にダリアさんとリアナを追いかけるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます