第145話 勇者パーティーの力

 王都西門にて


「やれやれ⋯⋯久しぶりの大群相手⋯⋯血湧き肉踊るわい」


 賢者ルドルフは1,500匹の魔物の前で全く臆することなく、佇んでいる。その姿は一騎当千の猛者そのものであり、見た目は老人でも全てをなぎ払う威圧感があるため、魔物達は近づくことを躊躇する。


「その一瞬が命取りじゃ⋯⋯小童共が!」


土地震魔法アースクエイク


 ルドルフが魔法を唱えると大地が揺れ、地が裂け、約半分の魔物が奈落の底へと堕ちていく。


 本来魔物は本能に従う生き物である。人がいれば襲うという行動が遺伝子レベルで刷り込まれているが、仲間達の無惨な姿を見て、一歩一歩と魔物達が我先にと逃げ出していく。この場にいる時間が長ければ長いほど、死に近づくリスクが高まると感じ取ったからだ。


「なんじゃつまらんのう⋯⋯わざわざ王都に来るくらいじゃから、もう少し骨のある奴らだと思っておったのに」


 退却する魔物をルドルフは眺めている。

 残り750匹の中に、自分に立ち向かってくる強者がいないか。

 しかしその思いは叶うことなく、全ての魔物が逃げ始めている。


「はあ⋯⋯もうええわい⋯⋯そのまま死ぬがいい」


 ルドルフはつまらなそうな表情で、止めの魔法を解き放つ。


「【炎竜巻魔法フレイムトルネード】」


 炎の竜巻が逃げ惑う魔物達を次々と飲み込んでいくその姿はまるで、ルドルフという火竜から逃げる、草食動物のように見えた。


 こうして西門の魔物達は物の数分で全滅し、ルドルフはマグナスがいる南門へと向かった。



 王都南門にて


 マグナスはルドルフの転移魔法によって、南門を攻撃しようと動いてる魔物達のすぐ目の前に飛ばされた。


 突如現れた人間に一瞬魔物達は怯んだが、直ぐ様相手は人間⋯⋯しかも中年の男1人⋯⋯恐れる物は何もないとマグナスに飛びかかっていく。


「やれやれ⋯⋯私も舐められたものですねえ」


 数えきれないほどの魔物が、一斉にマグナスの命を狩る為に、襲いかかるが、間近に迫った瞬間、「グシャッ」とした音と共に頭が消し飛ぶ。


 マグナスのあまりの速さに魔物達は、何が何だかわけがわからなかったが、これだけの数がいれば、いずれ誰かが獲物の首を狩り取れると思い、攻撃の手を緩めることをしない。

 しかし一匹、また一匹と仲間が命を失い、そして500匹ほど抹殺された時に、何かがおかしい、このままだと自分も意味がわからないまま殺されてしまうと理解する。

 だが実際にマグナスは、特別なことなど一切行っていない。

 ただ自分の射程範囲に来た敵を、拳で顔面を殴り飛ばしているだけである。しかしそのスピードは凄まじく、常人では姿を捉えることが不可能な速さのため、魔物達は畏れをなしている。


 そして一匹の魔物が後ろを振り向き、逃げ出す様を見せると、徐々にこの場に生き残った1,000匹の魔物も逃走することを選択する。。


「またこのパターンか⋯⋯逃げ出すならその程度の距離では意味を成しませんよ」


 マグナスが左足を前に出し、右拳を引く構えを見せると、大気が揺れ、明らかに先ほどとは異なる空気が流れる。

 その姿に、逃げていた魔物も得たいのしれない物を感じて、思わず振り向いてしまう。


 そして引いていた右拳に気が集まり初め、徐々に力が収束していく。


「唸れ竜よ! 全てを食らいつくしなさい! 天破神明流竜牙!」


 マグナスが集まった気を解放すると白色の竜が生まれ、逃げる魔物達を地形ごと飲み込んでいく。そして竜が通った後には魔物の死骸すら残されていなかった。

 先程までは逃げ出す魔物達も統率された動きだったが、今のマグナスの攻撃を見て冷静さを失い、他を蹴落としてでも自分が先にこの場から逃れようとパニックが起こる。


 しかしマグナスはそんな魔物達の事情は関係なしに、2発目、3発目の竜牙を撃ち込むと⋯⋯この場にはマグナス1人だけとなった。



 王都北門にて


 俺は転移魔法で北門まで飛ぶと、そこには1,500匹の魔物と背後には騎士団の姿が見えた。


「誰だあいつは」

「ひょっとしたら冒険者学校に現れた仮面の騎士という奴じゃないか」

「まさか我らの邪魔をする気じゃないだろうな」


 後ろから何やら声が聞こえるが、リアナを見殺しにした件で俺は騎士団を信用していないのため、聞こえない振りをする。


 すると前方の魔物の大群から一匹の魔物が前に出て、俺に話しかけてくる。


「我が名はドーラ! ボルデラ様より北門を任されたものだ」


 ボルデラ⋯⋯今聞きたくない名前が出てきて、俺はわずかだが苛立ちを覚える。


「貴様は強いと聞いている! 先程戦ったグレイのように私を楽しませてくれ!」


 グレイ⋯⋯まさかこいつがグレイを追跡した奴なのか!

 その言葉を聞いて俺は怒りが沸いてくる。運良くたどり着けたから良かったが、一歩間違えれば死ぬ所だったんだぞ。

 俺はグレイの胸部が焼けただれていたことを思い出し、前に出過ぎているバカな指揮官に向かって魔法を放つ。


煉獄魔法インフェルノ


「ぐわぁぁっ!」


 俺の手から地獄の業火が放たれ、北門の指揮官である大型のリザードマンから苦悶の声が上がり、後方にいた魔物達と共に、焼け野はらへと変貌させる。


「な、なんだあの魔法は!」

「私は夢でも見ているのか!」


 後ろの騎士団いちいちうるさい。

 だがまだ魔物達は半分ほど残っているので、俺は再度左手に魔力を込めて魔法を解き放つ。


「【氷の国ニブルヘイム】」


 液体窒素の白き霧を生み出し、辺りを一瞬にして氷の世界へと塗り替える。するとこの場に立っている魔物はいなくなった。


「に、2発の魔法であの大群を全滅させた⋯⋯だと⋯⋯」

「仮面で隠しているが、まさか勇者パーティーの誰かじゃないのか」


 一応、マグナスさんに言われたように、騎士団には一匹も手柄を与えていない。


 もうここに⋯⋯こんな国にいる必要はない。俺はルドルフさん達と落ち合う為に決めたメルビアへと転移魔法で飛び、ルーンフォレスト王国を後にした。

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