第144話 憎しみの行く先

「地獄に落ちろベイル」


 消えたベイルの場所に向かって、手向けの言葉を言い放つ。

 そして俺は、リアナ達がいるメルビアに向かって、転移魔法を


 隙を見せても出てこないか。


「いるのはわかってるぞ⋯⋯ベイルを助けたこともな」


 俺は上空に向かって話かけると、直ぐ様相手から返答が返ってくる。


「フォッフォッフォ⋯⋯よく見破ったのう」


 ボルデラが、気絶したベイルを魔法で浮かせて俺の前に現れた。


「ベイルは燃え尽きたというよりは、消滅したように見えたからお前が転移魔法で逃がしたんだろ」


 だがなぜそんなことをした。

 もし始めから守るつもりであるなら、俺の攻撃魔法を邪魔するなり、防御魔法でベイルを助けてやればいいだけだ。


「さすがじゃのう⋯⋯止めを刺す瞬間も冷静に物事を見ておる」

「だったら次は、2人まとめて燃やし尽くしてやるよ」


 俺は右手に魔力を込め奴の隙を伺う。

 けれどここで魔法を撃っても、また転移魔法で逃げられることは俺もボルデラもわかっている。


「せっかくこやつの命を救ってやったのに、殺されるのは勘弁願いたい」

「なぜあのタイミングで助けたんだ」


 俺が質問をするとボルデラは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべ理由を語る。


「お主はわかっていると思うが、ベイルは性格に難があり、自分勝手な行動をとることがあるからのう」


 ベイル⋯⋯お前魔族にも性格に問題があると言われているぞ。


「こやつは【悪魔の種子デーモンシード】に適合した貴重なサンプル⋯⋯簡単に手放すのはおしい存在じゃ⋯⋯今後こやつの行動を制御するためにも、1度死ぬ思いをしてもらった方が良いと思ったのじゃ」


 ベイルの性格をちゃんと分析しているじゃないか⋯⋯だが甘い。こいつはそんなことで自分を変えるような男ではない。

 わざわざ教えてやる義理はないので、黙っているが。


「へえ、そうなんだ⋯⋯それでこれからどうする? ベイルを起こしてまた戦うか?」


 俺の言葉を聞いてボルデラの殺気が膨らんだ。

 今まで飄々ひょうひょうとしていたが、初めて俺に対して明確な殺意を向けてきた。

 これが本気の魔導軍団団長か!


「いや、やめておこう⋯⋯今日は帰るとしよう」

「リアナを殺そうとしたお前を逃がすと思うか?」


 この場に一触即発の空気が流れる。

 ボルデラとベイルの2人をここで逃すと、将来俺に害を成す存在になることが予測されるので、必ず始末しておきたい。


「【風短剣魔法ウインドダガー】」


 透明の風の短剣が、俺の頭上に数多く生まれる。

 転移魔法で逃げられない為にも、ここは威力ではなくスピード重視の魔法を放つ。


 無数の風の短剣が、空気を切り裂く速度でボルデラとベイルに襲いかかり、見事に命中する。

 しかし当たった瞬間、その短剣は向こう側へとすり抜け、2人の姿はまるで幻のように消えていった。


「くそっ! また幻影か!」


 再び姿ベイルと姿を現した時には、既に幻影だったようだ。

 俺は初歩的な魔法に騙され、苛立ちを覚える。

 自分では冷静でいるつもりだったが、リアナを殺されそうになったことで、心を乱されていたのかもしれない。


「フォッフォッフォ⋯⋯残念じゃったな。この場は引かせてもらうぞい」


 ボルデラの声だけを残して、2人の気配は完全に完全にこの場から消えていった。


 俺はボルデラを逃がしてしまったことで、苛立ちを覚え、呆然と立ち尽くす。


 いつまでもここにいてもしょうがない。残念だが引き上げるか。

 リアナとグレイの具合も気になるし、メルビアに戻るとしよう。


 俺はみんなの元へ行くために、転移魔法を唱えようとしたその時、王都の東門が突然重厚な音と共に開きだ出した。


 東門側にいた魔物は全て俺が倒したから、安全かどうかの斥候に来たのだろうか。


 しかし東門から現れたのは、隊列が組まれた騎士団だった。

 そしてその中でも馬に乗った、一際目を引く鎧を着た人物がおり、何やら兵士達に命令をしている。


「こいつら今頃来やがって!」


 騎士団の対応の悪さに、煩わしさを覚え、俺の中で憎悪の思いが膨らんでいく。


「ラン⋯⋯ス様!」


 距離があるため、ハッキリとは聞こえなかったが、騎士の声が平原に響き渡る。


 まさかあの命令している奴は!

 俺は馬上にいる者に対して鑑定ライブラを使うと、奴の名前が判明した。


 ランフォース⋯⋯あいつがリアナを魔物達の元へ行かせたのか。


 俺は魔力を左手に込め、ランフォースに照準を合わせる。


「お前の⋯⋯お前のせいでリアナは死にそうになった。たった1人で大勢の魔物と戦って⋯⋯その判断を下したお前を生かしておくわけにはいかない!」


 死ね!


「そこまでにするんじゃ」


 突如背後に現れた者に、俺は左手を掴まれる。


 っ!


 誰だ! 全く気配がなかったぞ! まさか転移魔法か!


 俺はゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはルドルフさんとマグナスさんがいた。


「気持ちはわかる⋯⋯だがお主がそれをしてはダメだ」

「ルドルフさん離して下さい⋯⋯俺は⋯⋯リアナを見殺しにしたあいつを許すわけにはいかない」


 俺の仲間に手を出す奴らは必ず始末すると決めたんだ。

 もし止めるというなら2人と戦うことも辞さない。


「ヒイロくん落ち着きなさい。そんな感情的になって人を殺したら、リョウトとユイが悲しむぞ」


 父さん⋯⋯母さん⋯⋯。


「私達だってランフォースの行動は許せない⋯⋯だが断罪する時は今ではない」


 ルドルフさんとマグナスさんも俺と同じ気持ちなのか⋯⋯。


 俺は、魔力を込めていた左手をゆっくりと下に下ろすと、2人は息を吐き安堵する。


「まずは東門以外にいる魔物を、3つに別れて追い出すのじゃ」

「この時気をつけてほしいのが、騎士団ではなく、全て我々で倒すということ」

「それってどういう⋯⋯」

「詳しい話は後で話す⋯⋯全てが終わったらどこかで落ち合おう」


 気になることはたくさんあるが、2人はとても急いでいるように見えたので、質問は後にした方が良さそうだな。


「それでしたらメルビアにしてください。ラナさんやグレイもいるので」

「わかった」

「承知した」


 ルドルフさんもマグナスさんも孫や弟子のことが気にかかるだろ。


「マグナスは南門、ヒイロは北門、わしは西門の魔物を殲滅する」

「終わったらメルビアで会おう」

「はい!」


 そして俺達は各門へと向かった。

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