第138話 最後の願い

 先手必勝!


「【聖稲妻魔法ホーリーライトニング】」


 私の手から放たれた白き稲妻が、魔物の群れに向かってほとばしる。


「ぎぃぃ!」


 断末魔を上げ、40匹ほどの魔物が焼け焦げ地面にひれ伏す。


 よし! 初めの一手としては悪くないね。

 次は⋯⋯そして私は魔物から離れるように走り出す。

 大勢の魔物との戦い方は、ヒイロちゃんに習っているからね。


 まず1つ目は止まって戦わないこと。

 1つの所に留まると取り囲まれて、対処できなくなっちゃうから。

 私は走りながら立ち塞がる魔物を次々と切り払う。

 そして魔物が固まっている所には⋯⋯。


「【火炎弾魔法ファイヤーボール】」


 魔法で攻撃する。


「ぐぎゃああっ!」


 炎の弾が魔物に着弾すると爆発が広がり、周囲の魔物を撃ち倒していく。


「フォッフォッフォ⋯⋯あの娘、以前より魔力が上がっていますね」


 もちろん魔物の強さにもよるが、以前のリアナなら【聖稲妻魔法ホーリーライトニング】で20匹ほどしか倒すことができなかなった。

 だが今は、倍の数を倒せるようになったのは、ヒイロとの修練の賜物だ。


「さすがは勇者と言った所じゃ⋯⋯だがその元気⋯⋯いつまで続くかなのう」


 しかし成長したリアナを見ても、ボルデラは余裕の表情を浮かべる。



 リアナは走りながら魔物を切り伏せて行くと、王都の城壁までたどり着いた。


 ヒイロちゃんから教わった2つ目は、背後を取られないこと。

 人間は後ろには目がついていない。探知魔法や武道の達人なら背後の出来事もわかるかもしれないけど、普通はそんなこと出来ないので、後ろから攻められないように建物などを背に戦い、一ヶ所に留まらないよう左右に動きながら対処する。


「【聖稲妻魔法ホーリーライトニング】」


 集まってきた魔物に対して再度魔法を放つ。

 いくら前方の視界180度の敵を相手すればいいと言っても、多勢に無勢、私は次の行動に移るために森の方へと走り出す。


 ヒイロちゃんから教わった3つ目は、なるべく1対1の状況を作ること。


「やあっ!」


 森に入った瞬間、次々に襲ってくる熊の魔物に対して剣で応酬する。

 周りの木々が邪魔をしているから、1匹か2匹しか攻撃してこないため、楽々と剣で対応する。


 私はこの3つのことを状況に応じて使い分け、ボルデラの隙を伺う。



「はあ、はあ」


 走りながら剣を振り、魔法を使うのはさすがに疲れる。

 息つく暇もない。


「もうあの勇者を見るのは飽きた⋯⋯お前達も行って早々に始末してきなさい」


 ボルデラの前に位置どった魔物達も、リアナの元へ向かう。


 私はこの時を待っていった。


「いくよ!」


 今まで以上のスピードで、ボルデラから離れながら魔物を倒して行くと、目標までの道のりが出来た。


「私は絶対あなたには負けない!」


 そして誰もいない勝利のラインを真っ直ぐと進んでいく。


「ば、ばかな! 何だあの速さは! 今までは手を抜いていたのか!」


 ボルデラは迫ってくるリアナに恐怖を覚え狼狽える。


 ヒイロちゃんからの最後の教え⋯⋯戦力差がある時は敵の頭を叩き潰す!

 チャンスは1度きり、私は全力で右手に魔力を込めて一気に解き放つ。


「【光の流星ミーティアオブライト】」


 頭上20メートルの所に魔方陣が展開され、そこから無数の光の流星が、ボルデラに向かって降り注ぐ。


「こ、この魔法は⁉️」


 ボルデラはリアナを侮っていたこともあり、避けることはかなわない。

 そして流星が地面に突き刺さり、辺りの土を弾き飛ばし、土から粉塵が舞い上がる。


 これは今私が使える最高の魔法。

 敵は防御魔法を使っていなかった。

 普通なら死んでもおかしくない⋯⋯もし生きていたとしてもかなりのダメージを負っているはず。


 舞い上がった粉塵が段々となくなっていく。

 私だけではなく魔物達も動きを止め、ボルデラの様子を伺っている。


 そして完全に視界が晴れた後、そこには無数の魔物が地面に倒れていた。

 おそらくボルデラの後方にいた魔物だ。


 ボルデラは⋯⋯いない!

 私はこの時勝利を確信し、背後にいる魔物達と対峙する。


 魔物は、自分達のボスが殺られたことによって、人間であるこの小さな少女に恐れをなし、後退る。


「逃げるなら私は追わないよ⋯⋯さあどうする?」


 魔物達はさらに後ろへと下がるが、その光景は、先程とはどこか様子がちがうような気がする。


暗闇弾魔法ダークネスボール


 背後から声が聞こえた瞬間、私は反射的に左に飛び、迫ってくる何かをかわすが、地面に着弾した瞬間の爆風をまともに食らってしまい、地面を転がり回る。


「くっ!」


 爆風で飛んできた石にやられた⁉️ 左腕から血がダラダラと流れてくる。


 何今のは? 魔法?


 私は背後を振り向くと⋯⋯そこには無傷のボルデラがいた。


「フォッフォッフォ⋯⋯今のは少し肝が冷えたぞい」


 そう言葉にしておきながら、表情は焦った様子がまるでない。


「ど、どうやって私の魔法から逃れたの⁉️」


光の流星ミーティアオブライト】は直撃したはず! 何で⁉️

 私はボルデラが無傷の原因を疑問に思っていると本人が理由を語り始めた。


「わしには1,500の盾がおるからのう⋯⋯まあ今は1,000くらいになってしもうたが」

「1,500の盾?」


 聞いた瞬間はわからなかったけど、ボルデラの視線が【光の流星ミーティアオブライト】で倒れた魔物にいったことによって、その言葉の意味を理解した。


「あなた⋯⋯仲間を盾にしたのね!」

「仲間? 私にはそんなものはおらん⋯⋯いるのは私の役に立つ道具だけじゃ」

「道具?」

「そうじゃ道具じゃ⋯⋯役に立たなければ廃棄し、別の物と取り替えるだけの」


 その言葉を聞いてボルデラへの怒りがさらに沸いてくる。


「仲間を犠牲にするあなただけは絶対に許さない!」


 私にはその考えが全く理解できない、理解したくもないよ。


「どう許さないと言うのじゃ。わしの盾はまだこんなにおるぞ」

「けど1/3は倒したよ。後2回同じ事を繰り返せば私の勝ち」

「1/3? フォッフォッフォ⋯⋯面白いことを言うのう」


 ボルデラはリアナの言葉に対して不敵に笑う。

 リアナの手によって1,500から1,000匹減ったのは事実だ。

 余裕の表情を浮かべるボルデラを、リアナは不気味に感じる。


 ドドドドッ!


「何⁉️」


 王都の東から土煙が舞い上がり、無数の何かが迫ってくる。


「そ、そんなあ⋯⋯」


 視線の先には、今ここにいる魔物と同数程度の援軍が現れたため、リアナは思わず声に出してしまう。


「どうしたのじゃ? 先程と同様の戦いを2回ではなく4回行えばいい⋯⋯わしのような老人に辛いが、お主のような若者なら簡単じゃろ」


 回数の問題だけではなく、さっきより多くの魔物、疲労、それに左腕を負傷している状態で、同じように戦えるかわからない。

 それがわかっていて、ボルデラは言ってくるので、腹立たしいことこの上ない。


「さあ⋯⋯わしのしもべ達よ⋯⋯勇者を殺すのじゃ」


 グルルルゥッ! グオーンッ! キシャーッ!


 幾つもの魔物達が唸りを上げ、ボルデラの合図で襲いかかってくる。


「【聖稲妻魔法ホーリーライトニング】」


 先頭にいた大蛇の魔物に対して魔法を放つと黒焦げになり、声を上げぬまに崩れ落ちる。

 この大群に対して唯一簡単なことは、魔法を使うとどこに撃っても当たることだ。


「はあ、はあ⋯⋯くっ!」


 だけど私のMPには限界がある⋯⋯後何回魔法を使う事ができるの⋯⋯。

 私はなるべく魔法を使わないよう、足を利用して剣で戦う方向に切り替える。


 森の中に入り、次々と向かってくる虎のような魔物を斬り伏せていく。


「いたっ!」


 剣を振るう度に、さっきボルデラにやられた左腕が痛む⋯⋯でも私は負けない! 絶対に負けないから!

 痛みを恐れず、私は斬って斬って斬り続ける⋯⋯いつか終わりが来ることを信じて。



 それから1時間後⋯⋯私は走りながら戦い、今は東門の側で激闘を繰り広げている。もう魔物をどれくらい倒したのかわからない。目の前にいる敵をただ、斬って、魔法を放って倒す作業を幾度となく繰り返す。

 だけどもう限界が来てちゃった⋯⋯MPがないので、これ以上魔法は使うことができない。それに身体には魔物につけられた無数の傷があり、血が少しずつ体外に流れていき、意識を保つことも辛くなってきた。


 ボルデラside


「そろそろじゃな」


 ボルデラは魔物に命令して、初めの襲撃で捕らえた20代後半ぐらいの女性を連れてこさせる。


「ヒイッ! た、助けて下さい⋯⋯わ、私には娘がいるんです」


 女性は大勢の魔物に囲まれ、恐怖で正気を保つことができない。


「そんなに助かりたいかのう?」

「は、はいぃ!」


 女性はボルデラの問いに対して何度も頷く。


「では助けてしんぜよう⋯⋯あそこに王都の東門がある⋯⋯さあ行くがよい」


 魔物が女性の拘束を解くと、女性は東門に向かって一目散に走り出す。


 リアナside


「はあ、ひぃ、はあ、助けてぇ!」


 助けて?

 突如現れた人の声に、私の意識が甦る。

 視界に入ったのは東門の方へ走り出す、一人の若い女性だ。

 こんな所に人が?

 疑問が浮かんだけど、後ろから追いかけている魔物⋯⋯そしてボルデラが魔法を放とうとする姿が目に入り、急ぎ女性の元へとに駆けつける。


「【暗闇弾魔法ダークネスボール】」


 闇よりも深い色をした弾が、一直線に女性の元へと向かっている。


「間に合って!」


 もうこれ以上犠牲者を出したくないよ。

 MPがないため魔法で護ることはできない、お願い私の身体! あの人を助けるための力を!


 これが人を護る勇者の力なのか⋯⋯リアナは今まで以上のスピードで走り抜け、ボルデラの魔法から身体を投げ出して女性の盾となる。


「アァッアアッ!」


 爆発音と共に、リアナの悲鳴が辺り一帯に響き渡る。

 女性を無事護ることは出来たが、リアナは魔法を受けた影響で倒れ、一歩も動くことができない。


「あ、ありが⋯⋯わたしには⋯⋯娘が⋯⋯アイラ⋯⋯がいる⋯⋯死ねない」


 アイラ? その言葉で、この女性が寮を出る時に会ったアイラちゃんの母親だと理解する。


「いい⋯⋯の⋯⋯早く⋯⋯逃げ⋯⋯て⋯⋯」

「は、はい!」


 リアナが逃げてと伝えると、、女性が駆け込む。


「フォッフォッフォ⋯⋯予想通りの展開じゃ⋯⋯あの勇者は他人を見捨てることができない。


 そしてボルデラは再度右手に魔力を込める。


「中々楽しい余興じゃったぞ。じゃがこれで終わりじゃ⋯⋯【暗闇弾魔法ダークネスボール】」


 再び闇より深い色をした弾が放たれるが、リアナは幾度となく魔物達に攻撃されたダメージ、疲労、そしてボルデラの魔法を食らったことによって、もう立ち上がることができない。


「リアナ!」

「「リアナさん!」」


 先程女性が逃げるために開いた潜り戸は、ラナ達が開けたからだ。

 しかし外へ出た瞬間見えたのは、倒れているリアナと迫ってくるボルデラの魔法だった。

 ラナ達は何とか駆けつけようとするが、距離があるため、叫ぶことしかできない。


 どこからか仲間の声が聞こえてくる。

 でもごめんね⋯⋯もう身体が動かなくて目がよく見えないの。

 死ぬ間際に皆の声が聞けてよかったよ。


 もし⋯⋯一生のお願いを言っていいなら⋯⋯⋯⋯⋯⋯最後にヒイロちゃんに会いたかったなあ。



 そしてリアナの倒れている場所で、魔法による轟音が鳴り響いた。


―――――――――――――――


【読者の皆様へお願い】


 作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★3を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る