第139話 グレイの逃亡劇
「そんなあ⋯⋯間に合わなかったの⋯⋯リアナぁぁ!」
ラナ達は目の前の爆発に愕然とし、その場に座り込んでしまう。
「リアナさんリアナさん!」
「こんなことってないよ!」
ルーナとマーサは涙を流し、悲しみに打ちひしがれる。
もう少し速くこれたら⋯⋯あの時リアナが連れ去られる時に止めていたらと3人は後悔の念にかられ、絶望する。
「大丈夫、リアナは生きているよ」
「「「えっ⁉️」」」
爆発で生まれた土埃が徐々に晴れていくと⋯⋯そこにはリアナを抱きかかえた、仮面の騎士の姿があった。
「大丈夫かリアナ」
「えへへ⋯⋯これは夢かな⋯⋯でも最後にヒイロちゃんに合えて嬉しいよ」
周囲の倒れた魔物の数を見ると、リアナがどれほど頑張ったかがわかる。
「よくやったな⋯⋯後は俺に任せてくれ」
「⋯⋯うん⋯⋯」
リアナはゆっくり頷くと安心したのか、そのまま目を閉じる。
こんなにボロボロになるまで⋯⋯よく持ちこたえてくれたよ。もし間に合わなかったら、俺は一生自分のことが許せなかった。
まずはリアナの身体を治す。
「【
まばゆい光がリアナを包み込むと、無数にあった傷がなくなりいつも通り綺麗なリアナに戻る。
「仮面の騎士様! リアナは⋯⋯リアナは⋯⋯」
一速くたどり着いたラナさんが、心配そうな表情でリアナを見ている。
「今は疲れて寝ているだけだ」
「ほ、本当ですか⋯⋯よかったあ」
無事だと聞かされてラナさんは安堵する。
いつ死んでもおかしくないこの場に、助けに来てくれるなんて⋯⋯リアナは良い友達を持ったな。
「ヒイ⋯⋯ではなくて仮面の騎士様!」
マーサちゃんとルーナも駆け寄ってきて、マーサちゃんが危うく俺の名前を言いそうになっていたから、少し焦る。ラナさんに正体はバレたくないので踏み留まってくれて良かった。
「仮面の騎士様、でもどうしてここに?」
ルーナはメルビアに行かれたのではないのですか? と案に聞いてくる。
「それは――」
2時間前グレイside
くそ! やっぱり女の子の涙は答えるぜ。
ああもう! ヒイロは何でこんな大事な時にいねえんだ⋯⋯だが愚痴っててもしょうがない。
俺は急ぎ自室へと戻り、ここから逃げるための準備を行う。
そして部屋に飾ってある世界地図を確認し、逃亡経路をシミュレーションする。
ルーンフォレスト王国は西と南は平原が広がり、北には山が⋯⋯そしてそこから、川が南東に向かって海に流れ出ている。
「え~とメルビアは南東⋯⋯だったから北東に行くか」
荷物は最小限に、重くなると逃げ足が鈍るので、必要なものだけを持ち、俺は部屋を後にする。
外へ出ると大勢の人が寮の前に詰めかけていた。
皆、まだ理性を保っているが、いつその感情が爆発するかわからない状態だ。
「これはまずいな⋯⋯リアナちゃんが来て、騒ぎに巻き込まれると逃げるのが遅くなっちまう」
俺は人混みを縫うように避け、東門へと走る。
「痛い、痛いよう!」
「妻は⋯⋯キャサリンはどこにいる」
「あんな数の魔物見たことないぞ! 騎士団は何をやっているんだ!」
予想通りといえば予想通りだが、東門付近は城壁の外から逃げてきた人達でいっぱいだった。
自分の家族を探すもの、泣き叫ぶもの、この理不尽な殺戮に苛立ちをぶつけるものと様々で、辺りは騒然としていたが、俺にとっては好都合だ。
兵士達は怪我人の手当だったり、犠牲者の確認であったりと手を取られているため、東門の護りが薄い。
俺はその隙をついて城壁を上り、そこから北東側へと回る際に、魔物達の配置を見たが、これは⋯⋯。
「はは⋯⋯本当に針の穴を通す隙間もねえ。これを抜けるのは至難の業だぞ」
少なくとも俺が見た東から北側までで、魔物が配置されていない場所はない⋯⋯が均等に割り振られているわけではなく、城門がある東と北に魔物が集中しており、その間の北東側は数が少ない。
「予想通りだな」
後はあれがあれば⋯⋯よし! あった!
敵から王都を護るために、これは絶対必要だよな。
グレイが探していた物は長距離用のバリスタだった。
本来であったら矢をセットして遠くの敵を倒すものだが、もしこれで魔物達を攻撃しても焼け石に水⋯⋯むしろ自分の位置を教えることになり、総攻撃を食らうことは間違いない。
しかしグレイがバリスタにセットした物は矢ではなく、丸い何かだった。
俺は力の限界まで弓を引いて引いて引いて⋯⋯引きまくって一気に離す!
「いっけぇぇぇ!」
さあこれから遊び人である一世一代の逃亡劇が始まるぜ!
魔物共よ! 俺の全てを使ってここから逃げ出してやるからな。
こうしてリアナとは別の場所で、グレイの孤独な戦いが今始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます