第137話 絶望的な戦い

 リアナが東門を潜り抜けた後


「ランフォース様」


 勇者が王都から出ていく様を見届けているランフォースに、兵士からの報告が入る。


「どうした」

「先ほど捕らえた3人の者達が暴れて、手がつけられないのですが」


 この3人というのはもちろんラナ達のことだ。


「その程度のことも自分達で判断できないのか」

「は、はっ! 申し訳ありません」

「近くに第2騎士団の駐屯所がある。そこの牢にでも入れておけ」

「承知しました」


 兵士は踵を返しこの場から離れる。

 そして今度は別の兵士にランフォースは命令を下す。


「貴様、クルドを呼んでこい」

「はっ!」


 命じられた兵士は、直ちに大臣であるクルドを連れてくる。


「ランフォース王どうされました」

「勇者をこの地から追い出し、作戦は順調に行っている⋯⋯騎士団達の準備は出来ているか」

「後1時間ほどで準備が整います」

「急げ」

「承知しました」


 ランフォースはクルドと共に城へと向かっている最中、、自然と笑みが溢れてしまう。


「精々頑張ってくれたまえ⋯⋯この世界に必要なのは勇者ではなく絶対的な王だ。そのためにも貴様はここで死ぬがいい⋯⋯ハーハッハッ!」



 リアナside


 東門を抜けるとその先には平原が目に入るはずだけど、今日は見ることができない。変わりに視界に入ったのは⋯⋯あふれんばかりの魔物達だった。


「こ、こんなにたくさん⋯⋯」


 見渡す限りの魔物、魔物、魔物。

 実際に目で見ると想像以上に多くの魔物がいて、恐怖が沸いてくる。


「これはこれは勇者殿」


 魔物達の先頭には、先ほど空に映り、私を要求してきて老人の魔物であるボルデラの姿が見えた。


「ボルデラ貴様!」


 突如2メートル程の巨体で鱗を持つ亜人? が声を荒げる。


「どうされましたザイド殿」


 ザイド⁉️ あれってヒイロちゃんが戦った魔獣軍団の団長⁉️

 すごく強いって言ってた。

 まさかそんな強敵もいるとは思わなかったよ。

 でもなんだか揉めてるみたい。


「まさかこの人数で勇者を襲うというのか!」

「そのまさかですがそれが何か?」

「ふざけるな! こんなもの戦いでもなんでもない!」

「どんな手を使っても勝てば良い⋯⋯それに人間の言葉で、獅子はウサギを倒す時も全力を尽くすと言うではありませぬか」

「そんなもの知るかあ!」


 ザイドがボルデラに激昂し、今にも襲い掛かりそうな勢いだ。


「貴様は武人の誇りをなんだと思っている!」

「フォッフォッフォ⋯⋯わしは武人とやらではないのでわかりませぬな」


 ボルデラは、わざとザイドを怒らせるようなことを口にしている気がする。


「わたしは降りる」

「いいのですかな? この件は大魔王様に報告させて頂きますが」

「好きにしろ」


 そしてザイドは黒い翼のような魔道具を使って、この場から消えていった。


 何だったんだろう。

 でもこれで強敵が1人いなくなった。私にとってはプラスの材料だ。



「その姿どうされました」


 先程のザイドとのやり取りはなかったかのように、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、私に聞いてくる。あの表情はどうして私がこうなったかわかっている顔だね。だから私はその言葉を無視する。


「そんなことより、私はあなたの要求に従ってここに来ました⋯⋯魔物を王都から撤退させて下さい」

「フォッフォッフォ⋯⋯若者はせっかちだから困る⋯⋯裏切られたんじゃろ? 人間共に」


 ボルデラにどうしてこうなったのかを当てられ、リアナは顔を歪ませる。


「人間は弱い⋯⋯窮地に追い込まれると本性が出る⋯⋯今まで自分達を護っていた者ですら敵に差し出すなど、愚の骨頂じゃ」

「そうさせたのはあなた達でしょ!」


 先ほど罵声を浴び、石を投げられ、負の感情をぶつけられたリアナだが、王都の人達を恨んではいない。それは彼女の従来の性格なのか、いや彼女は真の勇者だからだ。


「人は確かに弱いよ⋯⋯でも弱いからこそ、他者に寄り添い、慈しむことができるの。さっきあなたが言ったように、確かに人は裏切ることや傷つけることもする。でも私はそれ以上の友情や愛情を今ままでもらってきた⋯⋯だから何を言われようが、何をされようが皆を護るために私は戦う」


 リアナはボルデラを真っ直ぐと見据えて言い放つ。


「なるほど⋯⋯良くわかった⋯⋯勇者というのはバカな生き物だと言うことが。弱いからこそ他者に寄り添い慈しむ? 友情? 愛情? そんなことは弱者が作った法律のようなものじゃ⋯⋯強者であるお主をいいように使うための」

「違う! そんなことないよ!」

「何が違うのじゃ⋯⋯現にお主は人族に差し出されからここにおるんじゃろ? 先程話していた慈しむ心や友情、愛情とやらが、街の者達が持っていればお主がここにいるわけがない。弱者だから何をやってもよいのか? 人族にはおかしなルールがあるのう」

「ほ、他の人に言われたからここにいるわけじゃないわ。私の意志よ!」

「じゃからその意志とやらも、勇者を都合良く使う者達の考えたものじゃ。自分達がお主を制御するための」


 リアナはポルデラの言うことに対して返す言葉ができない。


「そして産まれによって地位が決まる⋯⋯フォッフォッフォ⋯⋯馬鹿げた制度で笑うことしかできんのう。それに比べて魔族は違う、完全実力主義じゃ」


 確かにこの国は貴族に優しく、平民には厳しい所だ。

 貴族は平民に何をしても許されるけど、平民が貴族に何かをしたら打ち首になる。

 それにもしルーンフォレスト王国も魔族と同じ実力主義の社会なら、ヒイロちゃんはもっと評価されるはず。


「どうじゃ? 人族を捨てて、わしらの元へこんか。お主の実力ならこちら側ではもっと評価されるぞ」


 魔族の側に行く?

 確かに納得行かないこともあるけど、私は人が好き⋯⋯皆が好き⋯⋯そしてヒイロちゃんが⋯⋯。

 だからそんなことは絶対にない!


「私は行かない! 何があっても!」


 一瞬揺れた瞳だったが、ごちゃごちゃしたことを考えず、ここに来た目的⋯⋯魔物を倒すことだけを考え、改めて剣を構える。


「最後のチャンスを与えてやったのに、バカなやつじゃ」


 ボルデラは右手を上げ、魔物達に命令を出す。


 がおぉぉう! ぎゃあおおう! ぐるるぅぅ!

「行くよぉぉ!」


 互いの咆哮が開始の合図だったのか、リアナの1対1,500の絶望的な戦いが今始まった。


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