第114話 王女のお礼
ディレイト王一行の護衛につき、しばらく歩いているとルーンフォレスト王都の城壁が見えてきた。
道中は特に魔物や盗賊などには合わず、すんなりとここまで来ることができ、安堵する。
ティア達を襲ってきた者達は1回の襲撃で殺せると思ったのか、それともこれから街の中やメルビアへの帰り道で殺すつもりなのか。敵が誰なのか、目的は何か、わからないことだらけなのでこちらとしても対応がしずらい。
「失礼ですがディレイト王でよろしかったでしょうか」
南門から、ルーンフォレスト王国の騎士達が数名こちらへと向かってきた。
ん? この声は⋯⋯。
「わたくし、ルーンフォレスト王国第一騎士団副団長エリスと申します。陛下からの御命令でお迎えに参りました」
エリスさんだ! まさかこんな所で会うとは。
「おお、出迎えご苦労。途中盗賊達に襲われたから大変だったぞ」
「大丈夫ですか! お怪我はされていませんか」
「大丈夫だ。この者達が助けてくれたからな」
「この者達?」
ディレイト王の紹介でエリスさんがこちらに視線を向ける。
「やっほ~、エリスさ~ん」
リアナはエリスさんに手を振り、俺達は頭を下げる。
「リアナ様! それにヒイロ達じゃありませんか」
エリスさんは、俺達がこんな所にいると思っていなかったのか、驚きの声を上げる。
「先週ぶりですね」
以前の約束通り、俺は1週間に1回、エリスさんと剣の稽古をしているので、その時以来だ。
「どういうことですか! ディレイト王が襲われた? 盗賊? ちゃんと1から説明しなさい」
エリスさんは俺に詰めより、どういう経緯なのか捲し立てるように聞いてきた。
「エ、エリスさん⋯⋯王の御前だけどいいの?」
「はっ! も、申し訳ありません!」
ディレイト王に頭を下げ、謝罪し、そして俺の方を睨んでくる。
俺は悪くない。なんで睨まれなくちゃいけないんだ。
「詳しいことは、トーマスとヒイロ達に聞いてくれ」
「わかりました。ではディレイト王、城まで案内させていただきます」
エリスさんは騎士達に、王を乗せる馬車を至急用意するよう命じる。
これは馬車が来るまで少し時間がありそうだな。
「エリスさん、ティア王女。少しお話が⋯⋯今よろしいでしょうか?」
俺は
「どうしました」
「なんですか? 私は忙しいのです」
「今回の襲撃者についてお話が⋯⋯」
嫌そうな顔をしていたエリスさんだが、襲撃者という言葉を聞いて表情が変わる。
「ティア王女は知っていると思うけど、襲ってきた奴らの中で、1人だけ他の奴と比べて、毛色が違う奴がいたのを覚えているかな?」
「確かに、話し方が盗賊とは思えない者が1人いました」
さすがティアだ。よく観察している。
「そいつのことを鑑定魔法で視た結果、名前はデュラン。紋章は⋯⋯剣と盾だった」
剣と盾。その紋章が表す職業は⋯⋯。
「騎士⋯⋯ということですか」
「そうです」
騎士であるということは、どこかの国に仕えているということだ。
そうなるとメルビアを侵略したがっているルーンフォレスト、そしてアルスバン帝国が1番に考えられる。
メルビアはただでさえ軍事力が低く、王と姫が殺されたとなると、士気はがた落ちして、戦わなくても領土を手に入れることができる。
誰かに聞かれたらまずいので、言葉には出さないけど、2人も俺と同じ事を考えていることだろう。
「ただ、騎士が金に困って、あの時初めて襲撃したとなると、国は関係ないけど」
「いえ、それはありません」
ティアが否定の言葉を口にする。
「襲われた時に盗賊の1人が言ってました。私達を殺すことが依頼だと」
依頼だと! そうなるとティア達をこのまま王城へ送ってもいいのか考えてしまう。もし首謀者がルーンフォレスト王国だったらとんで火に入る夏の虫だ。
「エリスさんはティア王女達の護衛役なんですか?」
「そうです⋯⋯先程から気になっていましたが、ティア王女はその⋯⋯ヒイロの力のことは御存知なのですか」
「はい、存じ上げてます。私と彼はけっ⋯⋯幼馴染ですから」
「ティア王女とヒイロが!? あなたリアナ様とも幼馴染ですし、どれだけ運が良いのですか」
ティアが何を言いかけたか気になるが、今は他に話さなければならないことがある。
「エリスさん⋯⋯王城で、ティア達をお願いします」
「ヒイロさん⋯⋯」
俺はエリスさんに向かって頭を下げる。
「言われなくても、それが仕事ですから任せておきなさい」
エリスさんから頼もしい言葉が返ってきて、俺は安心する。
「ねえ、お兄ちゃん」
お兄ちゃん? ティアが猫かぶりモードをやめて話しかけてくる。
「お兄ちゃんの力も知っているし、エリスさんは信頼できる方ってことだよね」
「ああ、騎士団で俺が1番頼りにしている人だよ」
俺の言葉を聞いてエリスさんは顔を背ける。
あれ? 俺なんかに信頼されて嫌だったのかな。
「エリスさん?」
「べ、別にあなたに信頼されても全然嬉しくないけど、ティア王女のことはしっかり護るから安心しなさい」
何故かエリスさんはどもりながら答える。
「これってツンデレって奴だよね。リアナさん達といい、お兄ちゃんの女性関係が心配になってきたよ」
ティアはそう誰にも聞こえない声で呟いた。
「ディレイト王、ティア王女。馬車の準備ができましたので、お乗りください」
エリスさんのエスコートで2人が馬車に乗っていく。
「これで俺達もお役御免だな」
「そうだね。無事ティアちゃん達を護れて良かったよ」
俺達は2人を見送ろうと佇んでいたら、突如ティアが馬車から降りて、こちらへ向かってきた。
「皆さんにちゃんとお礼を言うのを忘れていました。今日は助けて頂きありがとうございます」
王女だろうがなんだろうが、しっかりお礼を言うことができる娘に育って俺は嬉しいぞ。
「ティアちゃんとはお友達だもん。気にしないで」
リアナが代表でティアに答える。
「私も皆様とお友達になれて嬉しいです。是非メルビアに来られた際にはお城を訪ねに来て下さい。それでは失礼します」
そう言ってティアは馬車に乗ろうとしたが、また戻ってきた。
「お兄ちゃ~ん」
「「「「お兄ちゃん!?」」」」
皆、俺がティアにお兄ちゃんと呼ばれているのを聞いて、驚いている。
「お兄ちゃん⋯⋯伝え忘れたことがあるから屈んで」
伝え忘れたこと? 襲撃者についてか?
とりあえず俺はティアに従って体勢を低くする。
するとティアの顔が近づいてきて⋯⋯。
「もう1つの約束もいつか思い出してね⋯⋯チュッ!」
頬にキスをされた。
「それでは皆様、また会う日まで~」
そしてティアは馬車に乗り、そのまま王城へ向けて出発していくのを、俺は呆然と見ていた。
「ヒイロちゃん今のキ、キ、キッスはどういうことかな、かな」
「やっぱり御二人には何かありそうですね。この後じっくりと聞かなくては」
「お、お兄ちゃん!? 私の妹キャラが取られたあ」
「これからヒイロを呼ぶときは、変態ロリ好きエロ男って言った方が良さそうね」
や、やばい⋯⋯ただでさえ、ティアの裸を見たことがバレてまずいのに、さらに油に火を注ぐ結果となってしまった。
くそお! あの小悪魔め!
けれどティアにキスをされて、嬉しかった自分もいるから文句は言えない。
とりあえず、今はこの状況を切り抜けるため、俺は今までで1番早く魔法を唱える。
「【
俺は某メタルなキングのスライムより早く、この場から逃げ出した。
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