第115話 代表戦

「本日は勇者パーティーについてお話します」


 昼過ぎの眠い中、ネネ先生の歴史の授業。

 いつもなら、昼食を食べた影響でウトウトとする者が何名かいるが、今日は誰もが好きな勇者パーティーの話なので、寝ているものは1人もいない。


「それでは勇者パーティーのメンバーは誰か答えてください⋯⋯ルーナさん」

「はい。勇者アレル様、賢者ルドルフ様、拳帝マグナス様、そしてリョウト様、ユイ様の5名です」


 ルーナは優等生らしく、全て正しく答えた。


「はい。正解です。そして今、リョウト様とユイ様だけ、ルーナさんは職業を答えていませんでしたが、これは実際にも記録として残っていません。それゆえに、御二人には謎が多く包まれています」


 一緒に住んでいた時は勇者パーティーだとわからなかったから気にしていなかったけど、二人の紋章はなんだろう?

 ラーカス村で戦った際にヘルドが「その紋章はリョウトとユイのものか!」と口にしていたので、おそらく両親のどちらかが、門の紋章でどちらかが翼の紋章を持っていた可能性が高いと思う。この紋章の意味がわかれば俺の紋章が何か、判明するかもしれないので、学校の図書館で調べているのだが、いまだにわからない。1番手っ取り早いのがマグナス理事長に聞くことだが、ダードの一件以来、学校に来られていないようなので、正直今はお手上げ状態だ。


「それではそれぞれの出身地について⋯⋯ヒイロくん」


 お、おれ? やばいやばい。今は授業中だということをすっかり忘れていた。


「アレル様、ルドルフ様、マグナス様はルーンフォレスト王国で、とう⋯⋯じゃなくてリョウト様とユイ様は不明です」


 不意に指されたから危うく父さんと言ってしまう所だった。

 それにしても自分の両親に様付けで呼ぶのは、なんか背中がムズムズするな。


「そのとおりです。リョウト様とユイ様は紋章も出身地も不明ということで、謎に包まれていて、一部ではアレル様より人気があります」


 子供の俺もわかっていないからな。


「そして五人が成し遂げた偉業が魔王ヘルドの討伐です。13年前、この大陸の北東にある、死の大地と呼ばれる島から、突如魔物が攻めてきました。一時は大陸の3分の1ほどを奪われてしまいましたが、勇者パーティー一行が単身魔王城へ乗り込み、見事ヘルドを倒したことによって英雄となったのです」


 先生が話終えると、皆拍手をする。

 やっぱり父さん達はすごいな。今でも皆から慕われているのが、クラスメートの表情からわかる。


「でも⋯⋯マグナス理事長はわかるとして、勇者パーティー達は今どうしているんだろう」


 ジェシカさんの呟きによって、他のクラスメートも疑問に思い始める。


「⋯⋯他の勇者パーティー達ですが⋯⋯」


 先生は話すことを言い淀んでいる。無理もないか、父さんと母さんはもうこの世にはいないのだから。


「賢者ルドルフ様は健在で隣街のエリベートにいらっしゃいます。しかし残る3名⋯⋯勇者アレル様、リョウト様、ユイ様は現在消息がわかっていません」


 公式では死んだことにはなっていないのか。

 けどまさか勇者アレルも消息不明とは思わなかった。

 だがこれで1つわかったことがある。

 今まで腑に落ちなかったが、魔獣軍団団長ザイド、魔導軍団団長ボルデラなど魔物側に新たなる動きが見られるが、情報が全く公開されていない。

 おそらく勇者パーティーの半数以上が不在のため、今世間に新しい魔王軍が設立されたことを知らせると、せっかく復興してきた民に不安を抱かせるからだろう。

 そんな国の上層部の気持ちもわかるが、本格的に魔物が攻めてきたとき対応できるのだろうか。


 俺はそんな未来が来ないことを願っていたら、いつの間にか授業が終わっていた。



 本日最後の授業は、Eクラスと合同の実技講習だ。

 そして事前に通達があったが、ネネ先生の知り合いの方が特別講師で来るらしい。


「ヒイロ、今日の授業楽しみだな」


 グレイがいつもよりワクワクした様子で話しかけてくる。


「そうだな。他クラスとの授業は初めてだから俺も楽しみだよ」

「ばっっっっかやろー!」


 えっ? 何で怒られるの? 意味がわからない。


「楽しみなのは今日の臨時講師に決まってるだろ! 俺の情報だとシスターだぞ! シスター! 神に全てを捧げた清らかな乙女だぞ!」

「そ、そうだな」


 だからこいつのテンションが高いのか。


「お前はその乙女を神から救いたくないのか!」


 グレイは大声で叫んでいるため、皆の視線がこちらに集中している。

 ここで「救いたい!」と口にしたら、女子が俺をグレイのように見るだろ。


「何言ってるだいグレイくん。僕はそんなこと1度も思ったことないよ」


 俺は自分の保身の為に、思ってもないことを口にする。


「女性に自分の願望を押し付けるのは、良くないと思うな」


 自分の気持ちも正直に言えないなんて⋯⋯俺はなんて意気地がないんだ!


「いいだろ? 思うだけなら。別に奴隷にして、無理矢理いうことをきかすわけじゃないんだから」


 奴隷⋯⋯俺はその言葉に反応してしまう。もしルーナを奴隷にしていると皆にバレたら、友情を深めたクラスメート達は俺をどんな目で見るだろ。想像したくないな。


「ちっ! あいつらFクラスの分際で騒ぎやがって」


 俺とグレイのやり取りを見ていたベイルが、苛立ちを隠さず口にする。


「別にいいだろ? 授業はまだ始まってないから」

「その態度がむかつくんだよ! Fクラスはこの学校のお荷物! 荷物は荷物らしく黙ってればいいんだよ!」

「何だと!」


 さすがのグレイも、今の言葉にはイラッときたようでベイルを睨み付ける。

 だが今の言葉はグレイとベイルだけに収まらず、Fクラスのクラスメート達にも波及し、この場が一触即発の状態となる。


「はい! ケンカはそこまで!」


 ネネ先生がこの状況をみかねて、2人を止めに入る。


「何が原因かわからないけどここは学校です。もしやり合うならちゃんとしたルールの中でやり合いなさい」

「ルールですか?」

「まだ授業まで時間があるし、クラス代表3名による1対1の模擬戦で、2戦先に取った方が勝ちでどうかしら」

「3名? Fクラスの雑魚どもは俺1人で十分だ」

「そのセリフそっくり返してやるぜ」


 グレイは、ベイルの横暴な態度にかなり腹を立てているようだ。だけどいつものグレイはどちらかというと、のらりくらりと相手をかわして、あまりヒートアップすることがないけど、今日はどうしたんだ?


「では成績順でいうと⋯⋯Fクラスはヒイロくん、グレイくん、ルーナさん」

「わ、わたしですか!」


 ルーナは自分が呼ばれると思わなかったので、驚きの声を上げる。


「大丈夫。今のルーナなら問題なく戦えるよ」


 実際は問題ないどころか、この学校でも上位の実力者になっているからな。

 実はルーナとマーサちゃんを強くするため、2人はかなりの数の魔物を退治していた。その結果、以前と比べてレベルが15ほど上がって、現在レベル21になる。

 この学校の生徒達は一部を除いて、レベル10前後だからおそらく余裕で勝てるはずだ。それに俺とグレイが勝つからルーナに順番が回ってくることはないだろう。


「え~とEクラスはカイルくん、ベイルくん、サーシャさんですね」


 ほう⋯⋯ベイルは一応Eクラスだと2番目に強いのか。

 まあ戦闘向けの紋章を持っているから、当然といえば当然だな。


「それではまずはヒイロくん対カイルくん」


 俺は名前を呼ばれたので、中央へと向かう。


「ヒイロ、絶対勝てよ」

「頑張ってくださいねヒイロくん」

「あんな奴、ギッタギタにしてやれよ」


 俺はクラスメートに声援を受け、模擬戦用の剣を構える。


「悪いねうちのベイルのせいで」


 カイルはベイルの言動を謝罪してくる。どうやら俺の相手は良識ある人間のようだ。


「でも戦うとなったら負けるつもりはないよ」

「俺もだ」


 ここで負けたら、ベイルがどれだけ大きな顔をするかわからない。だからこの勝負絶対に勝つ。


「それでは⋯⋯はじめ!」


 審判であるネネ先生の開始の合図を聞いて、俺はカイルに向かって突進した。

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