第112話 仮面の騎士暗殺依頼

「この度は護衛の件、引き受けてくれて感謝する」

「はっ! 陛下のご命令とあらば」


 俺達は今、メルビアの王様であるディレイト陛下との謁見を行っている。

 ただ謁見と言っても場所が林の陰なので、何か様にならないが、一応頭を下げ、ひざまずき、それっぽい形式を取っている。


「堅苦しいのはもうよい。楽にしてくれ」


 俺は言葉通り楽にすると、ディレイト陛下が俺の手を取る。


「久しぶりだな。幼き日に私に会ったことを覚えておるか?」

「はい。父と母がお世話になりました」


 そう答えるとティアが俺のことをジト目で見てきた。

 その視線は、「私のこと忘れてたくせに」と語っていたが、いいじゃないか思い出したのだから。


「ねえ、ちょっと」


 ラナさんが俺の肩をたたき、小声で話しかけてきた。


「なんであんたがメルビアの王様と知り合いなのよ」

「両親の関係で⋯⋯ちょっとね」

「ヒイロちゃんのお父さんとお母さんは、勇者パーティーの一員だから、王様と知り合いでもおかしくないよね」


 リアナの言葉を聞いて、そのことを知らなかったルーナ、ラナさん、マーサちゃんが驚きの表情を浮かべる。


「ほ、本当ですの!?」


 ラナさんが俺の服の襟を持ち問い詰めてくる。

 ぐ、ぐえ! 苦しい! そして顔が近いよ。


「そうだよ。謎の紋章を持つ2人、リョウトおじさんとユイおばさんの子供なんだから」


 喋れない俺に変わってリアナが説明をしてくれる。


「ヒイロくんが何故こんなに強いのか少しわかった気がします」

「ヒイロさんと結婚したら、すごい人の義理の娘になるんだね」


 いくら楽にしていいって言われても、4人共リラックスし過ぎじゃないか。


「おほん。皆様、王の御前ですぞ」


 護衛騎士のトーマスさんが咳払いをして、騒いでいる俺達を注意する。


「よいよい。そんなことより冒険者のヒイロくんに、護衛とは別の依頼をしたいのだが」


 ディレイト王は殺気染みたオーラで、俺に語りかけてくる。

 護衛とは別に? ひょっとして今回襲撃して来た者達の調査か?


「どのような依頼でしょうか」

「⋯⋯暗殺依頼だ」

「暗殺依頼ですか!?」

「そうだ!」


 おいおい。一国の主が余所者である冒険者に出す依頼じゃないぞ。もし民にこのことがバレたら反発があることは避けられない。

 この依頼を聞いて、俺達だけではなく、騎士達やティアも驚いている。


「ターゲットは誰になりますか」


 受けるにしろ受けないにしろ、誰か⋯⋯そしてどういう経緯でこうなったかを聞いてみたい。


「相手は⋯⋯仮面の騎士だ!」


 お、おれ~!


 仮面の騎士の正体を知っている者は、一斉に俺の方へと視線はを向ける。


「ディ、ディレイト陛下⋯⋯恐れながら、今回の盗賊からの襲撃は彼のお陰で助かったと聞いていますが」

「そうです。仮面の騎士様は常に世のため人のために動いてらっしゃる方です。暗殺など⋯⋯」


 いつもは俺の味方をしてくれないラナさんだが、仮面の騎士のこととなると、とても頼もしく見える。


「そのようなことはわかっておる! だが⋯⋯だが⋯⋯奴は大罪を犯した」


 大罪だって! そんなことした覚えはないぞ。貴族派の連中だったらダードを始末したことを大罪と言うかもしれないけど。

 だが、あえて言おう! 俺は無実であると!


「仮面の騎士さんは悪いことをしないよ。ねっ! ヒイロちゃん」

「そうです。ルーンフォレスト王国では、困っている人達を助けていました。そうですよね、ヒイロくん」

「ちょっとエッチかも知れないけど、良い人だよ。そうだよね、ヒイロさん」

「私自身、仮面の騎士様に助けて頂きました。そうですわね、変態エロ男」


 皆庇ってくれるのは嬉しいけど、わざわざ俺の名前を言うのをやめてほしい。ほら、仮面の騎士の正体を知っているティアなんか笑っているじゃないか。


「そ、それで仮面の騎士はどのような罪を犯したのでしょうか?」


 俺は仮面の騎士の代理として、ディレイト王へその罪を問いただす。


「奴は⋯⋯奴は⋯⋯ティアの裸を見たんだあ!」


 平原に王の叫び声が木霊する。そして先程まで庇ってくれたリアナ、ルーナ、マーサちゃんが冷ややかな目で俺を見てくる。


「王様、私も勇者の力を使って、全力で協力するよ」

「そうですね。王女様に無礼を働いた方は処罰しないといけません」

「エッチな人は少し懲らしめた方がいいと思うよ」


 三人は王の言葉を聞いて、一瞬で裏切り、仮面の騎士の敵となる。


「み、みんなどうしたの? 仮面の騎士様はそんなことをするはずがありませんわ」


 ラナさんだけがまだ俺の味方でいてくれる。頼む三人に負けないでくれ。


「もしそこまで言うのでしたら、ティア王女に真実かどうか聞いてみましょう」


 だがラナさんは最悪の悪手を打つことになる。そこでティアに聞いちゃだめだろう。


「ティアちゃんどうなの?」


 皆の視線がティアに集中する。


「み、見られました」


 終わった⋯⋯すべてが終わった。


「死刑だね」

「死刑です」

「死刑ですね」

「仮面の騎士様にもきっと事情が⋯⋯」


 ラナさんの言葉がだんだん小さくなっていく。そして3人は俺を断罪することを選択したようだ。


「皆様待って下さい! あれは不慮の事故です」


 突如声を上げたティアの言葉に全員が耳を傾ける。


「仮面の騎士様は命をかけて私を護ってくれました。その恩人を暗殺しようだなんて⋯⋯私には到底見過ごすことはできません」


 て、天使だ⋯⋯天使が降臨したぞ。

 被害者であるティアが冤罪だと申し出てくれた。これで皆は仮面の騎士暗殺を諦めてくれるだろう。


「ですが、私は仮にも一国の姫。せめて責任を取って頂くことで、仮面の騎士様を許そうと思います」


 ん? なんだか話が変な方向へと行き始めたぞ。嫌な予感がする。


「ティアちゃん、その責任って何かな?」


 リアナが改めてその責任の意味を問うと、ティアは顔を赤らめてその答えを口にした。


「もちろん結婚です」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はこの場から某メタルなスライムのように逃げ出した。

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