第110話 王女様との出会い?

「はあ、はあ」


 転移魔法で飛んだ先には、ティア王女の元へ走っているルーナとマーサちゃんの姿があった。

 

「ど、どうしたんですかヒイロさん」

「な、何が?」

「呼吸が乱れているし、凄い汗です」


 どうやら命からがら逃げて来たため、かなり動揺しているようだ。


「余程強い方がいらっしゃったみたいですね」

「あ、ああ」


 王女の双丘という強敵がな。


「だけどもう大丈夫だ。俺達はこのまま、盗賊に傷を負わされた護衛の騎士を助けながら、リアナ達と合流しよう。ルーナ、回復を頼めるか」

「わかりました」


 俺達は倒れている騎士達を、助けながら進んでいく。

 中には2名ほど重症な者もいたが、その時だけ、俺が回復魔法をかけ、幸いなことに、7名の騎士は命に別状はなく、全員救うことができた。



「ヒ~ロちゃ~ん!」


 遠くからリアナの呼ぶ声が聞こえてくる。

 どうやら王女達の所へ戻ってきたようだ。


「どうだった?」

「既に私達が到着する前に終わっていたわ⋯⋯仮面の騎士様の手で」


 ラナさんが顔を赤らめ、嬉しそうな表情で教えてくれる。


「お二人共そちらの方々は?」


 声のする方を見ると、そこには先程とは違うドレスを着た、ティア王女の姿があった。

 さすがに服を着替えているか。

 だが俺の脳内ではティア王女を見ると、どうしても小ぶりの双丘が頭によぎってしまう。


「護衛の騎士達を助けて頂き⋯⋯はう!」


「「「「「はう?」」」」」


 突然ティア王女は変な声を出して、胸を手で隠し始める。

 何だ? どうしたんだ? まさか短剣を刺された後遺症が残っていたのか。


「コホンッ! 取り乱してしまい申しわけありません」


 咳払いをして佇まいを直すティア王女。


「ヒイロちゃん、ティアちゃんはメルビアの王女様なんだって」

「ヒイロちゃん?」


 一国の王女をちゃん付けで呼ぶとは⋯⋯さすがリアナだ。いつも通りの平常運転だな。しかもティア王女の表情を見ると、そんなリアナを好ましく思っているようだ。


「お、王女!?」

「王女様です⋯⋯か⋯⋯」


 マーサちゃんは驚き、ルーナは信じられないのか呆然としている。


「「えーっ!」」


 そして平原に2人の叫び声が響きわたる。


「王女様って、あの王女様!」

「私、王女様を初めて見ました」


 俺と同じように、ルーナ達は驚いている。自分の時は困るが、人がビックリしている姿を見るのは面白いな。

 そんなことを考えていると、マーサちゃんが問い詰めるような視線を向けてきた。


「ヒイロさん知ってたんですか!?」


 やばいやばい。ニヤニヤして見ていたのがバレたか。


「知っていたとはどういうことですか?」


 俺とマーサちゃんのやり取りを見て、ティア王女が疑問に思い、質問してくる。


 げっ! まずいぞ。ヒイロは今初めてティア王女と合ったんだ。

 それを知ってるとなると不自然になってしまう。


「ヒ、ヒイロさんは色々な所を旅していたから、メ、メルビアの王女様も知っているのかなと思って」

「そ、そうそう、そうなんだよ」


 マーサちゃんが機転を利かせてそれっぽいことを言ってくれたので、俺はその話に乗る。


「へえ~、変態エロ男も旅をしていたのね」


 ラナさん。頼むから知らない人の前だけでも、その呼び方を止めてください。


「けれど⋯⋯それに⋯⋯」


「どうしました?」


 ティア王女は1人でブツブツと何かを呟いていたから、思わず声をかける。


「いえ、何でもありません」


 何でもないと言ったティア王女だが、視線はずっと俺を捉えている気がする。


「そうだ。自己紹介がまだでしたね。俺はヒイロと申します」


 俺の後に続いて2人も挨拶をする。


「私はルーナと申します」

「マーサです。よろしくお願いします」


 ルーナは清楚な感じに、マーサちゃんはいつも通り、看板娘の笑顔を見せる。


「失礼しました。私はティアリーズ・フォン・メルビアです」


 ティア王女は、優雅にドレスの裾をつまみ挨拶をする。

 改めてじっくり見ると、可愛らしい娘だということがハッキリとわかる。

 マーサちゃんが健康的な可愛さだとしたら、ティア王女は深窓の令嬢という言葉が似合いそうだ。

 でもこの娘⋯⋯。


「そして私の後ろにいるのが、お友達のクロです」


 ん? しかしクロと呼ばれた物はどこにもいない。馬車の中から現れた空飛ぶトカゲのことだよな。


「ヒイロちゃん、何かティアちゃんの後ろに隠れているよ」


 確かにリアナの言う通り、ティアの背後から尻尾が見える。これこそ頭隠して尻尾隠さずってやつか。


「ごめんなさい。この子は私以外には懐かなくて」


 クロはおずおずと俺達の方を見ると、急にティア王女の背中から飛び出してこちらに向かってきた。


「何これ? 可愛い」

「初めて見る種類ですけど動物でしょうか?」

「ねえねえヒイロちゃん、抱っこしていいかな」


 クロは女性陣に好評のようだが、本人は警戒心があるのか、中々触れさせようとしない。


「私に任せない。動物と言えば自然の生き物。森に住むエルフの私に懐かないはずがないわ」


 なるほど。エルフは自然との調和を大切にする種族だ。ラナさんならクロを抱きしめることができるかもしれない。


 ラナさんは手を広げ、クロが来るの待つ。

 すると想いが通じたのか、クロが一直線にラナさんの元へと向かう。


「おいでクロさん」


 まるで少女が、人形を抱きしめるような表情でクロを待つラナさん。

 意外と可愛い物が好きなのか。

 しかし、クロはラナさんの胸に飛び込むかと思ったが、その手をするりと避けて、俺の腕におさまる。


「嘘!? クロが私以外に懐くなんて初めてですわ」

「キュウキュウ」


 嬉しそうな表情で俺に頬擦りをしてくる。


「な、な、何で私の所に来てくれないの! しかもよりによって変態エロ男の所に行くなんて!」


 そんなことを言われても、俺にはどうしようもできない。

 けど俺に懐いている理由は、仮面の騎士の時に助けたのがヒイロってわかってるからなのか。

 それが理由なら非常にまずいことになる。

 もしかしたらティア王女に、俺が仮面の騎士だとバレるかもしれない。

 とりあえずクロは俺から離した方がいいな。


「ヒイロちゃんいいなあ。私にもクロちゃんを抱っこさせてよ」

「俺はいいけど、こいつがそれを許すかわからないぞ」


 俺は手に持っているクロを、そのままリアナに差し出すと、すんなり渡すことができた。


「やったー! やっと触れたよ。可愛いね君は」


 さっきまで見向きもしなかったのになんでだ? 動物でよくある、時間が経って警戒心が薄れたってやつか。


「リアナさん私も触りたいです」


 そう言ってルーナがクロに手を出すが、空を飛んで逃げてしまう。


「私はまだ嫌われているのでしょうか⋯⋯」


 ルーナはクロに避けられたことにより、しょんぼりしている。

 全員に慣れたわけじゃないのか。


「ひょっとしたら⋯⋯ヒイロさん。クロにルーナさんの所へ行くよう、お願いしてみてください」


 俺が渡したからリアナの所に行ったってことか。はは⋯⋯そんなわけないだろうと思ったが、王女様の命令なので、俺はその指示に従う。


「クロ~! ルーナに触らせてやってくれないか」

「キュウ」


 クロは一鳴きすると、俺の言ったとおり、ルーナの腕の中に抱かれる。


「クロさん、ありがとうございます」


 しょんぼりしていたルーナは、クロに触れたことで、幸せそうな表情に変わった。


「ほ、本当に俺の言うことを聞いたのか」

「そうだと思います。さすがは⋯⋯いえ何でもありません」


 ティア王女は何かを言いかけたが、口にするのを止めてしまった。さすがはなんだ? 気になるじゃないか。


「くっ! クロさんを触るには、この変態エロ男にお願いしないといけないとは⋯⋯そんなことしたくないわ⋯⋯でも⋯⋯」


 どうやらラナさんは俺にクロを触らせてくれと、お願いするかどうか迷っているようだ。そんなに嫌なことなのか? ちょっとショックだ。

 だが、あまりにもラナさんの悩んでいる姿が見ていられなかったので、俺はクロにラナさんの所へ行くようお願いをした。

 するとラナさんは恍惚な表情を浮かべ、その場に崩れ落ちる。

 そして俺に向かって。


「か、勘違いしないでよね。別に触れなくても良かったんだから。でも一応礼は言っておくわ⋯⋯ありがと」


 ツンデレみたいなお礼が返ってきた。

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