第109話 助けた後にはご褒美があるもの

「ばしゃ⋯⋯のなか⋯⋯の⋯⋯ふた⋯⋯りを⋯⋯」


 少女は息絶え絶えながら、自分の事より馬車の中にいる2人を助けてくれと言っている。


「誰だ貴様は!」


 今は盗賊など構っている暇はないので、相手にしない。

 スキル【魔法の真理】からベターなものを選択し、俺は魔法を放つ。


「【聖結界魔法サンクチュアリ】」


 光の結界が少女と馬車を包みこみ、盗賊との間に壁が展開する。


「貴様は誰だと言っている!」


 無視されたことに苛立ち、恫喝するように声を荒げてくる。


「お前達に名乗る必要はない」


 なぜなら少女を殺害しようとした貴様らを絶対に生かしておかないからだ。


「だんな! まずはターゲットを確実に殺すぜ!」


 盗賊は少女に向かって投げナイフを投擲するが、俺は護ることをしない。


「キィン」


 ナイフは盾に当たったような音を残し、地面に落下する。


「何だと!」


 おまらごときに俺の魔法が破られてたまるか。


「くっ! こうなったら全員でかかれ!」


 ⋯⋯シーン。


「だ、だんな! ほ、他の奴らは⋯⋯すでに⋯⋯殺られています」

「な、なん⋯⋯だと⋯⋯」


 ここに来る間にすでに始末してあるので、残るはお前達2人だけだ。


「だ、だがターゲットの右肺に穴を開けた。何もしなくてもこのまま死ぬはずだ」


 確かにパッと見だが、少女の傷は致命傷


「う⋯⋯うぅ⋯⋯私は⋯⋯」


 少女はゆっくりと目を開け、左右に首を振って周囲の状況を確認している。


「はっ! う、うそ⋯⋯傷がないです!」


 血が噴き出していた胸の傷は塞がり、短剣で刺されたのが嘘のように綺麗な肌だった。


「バカな! 攻撃を遮断し、中の者を回復させる。そのような魔法見たことないぞ!」


 盗賊は目の前の出来事に驚愕し、睨み付けるように俺を見てくる。


「術者を殺せば結界も消えるはずだ!」


 確かに俺は結界内にいないため、攻撃することができる。殺すことが出来れば盗賊の言うように結界は消失するだろう。


「死ねや!」


 短剣を片手に盗賊は俺目掛けて突っ込んでくる。


「危ない!」


 少女の悲鳴のような叫びが平原に木霊するが、俺は異空間から出した翼の剣で、盗賊の心臓を一突きに刺す。


「がっ!」


 盗賊は一瞬声をあげ、そのまま地面に崩れるように倒れる。


「す、すごいです⋯⋯剣の動きが全く見えませんでした」


 少女は感嘆の言葉を口にし、仮面の騎士の実力に驚きを隠せない。


「⋯⋯まさかお前のような者が現れるとは」


 男は若干諦めたような口調で語りかけてくる。


「こ、これはどういうことだ⋯⋯」

「キュウキュウ」

「お父様! クロ!」


 馬車の中から頭を押さえながら1人の中年の男性と、空を飛んでいるトカゲのような生き物が出てきた。


「ティアを護るためにダメージを負ったはずだが、全く痛みがない」


 どうやら馬車の中の2人? も無事のようで良かった。


「あんただけ言葉や身なりからして盗賊に見えないが、なぜこんなことをした」


 俺の言葉に男だけではなく、中年の男性と少女も顔色が変わる。


「⋯⋯残念ながらここまでのようですね」


 男は武器を捨て、丸腰であることをアピールしてきた。

 投降か⋯⋯他に人がいなければ始末したいところだが、狙われた中年男性と少女が見てる手前、そのような行為に走ることはできない。


「せめて貴様だけは道連れにしてやる!」


 突如男は声を上げると右手には、球状のボールのような物が握られている。

 まずい! これはまさか!


「こいつは自爆するつもりだ! 三人共結界から出るなよ!」

「えっ?」

「しょ、承知した」

「キュウ」


 これで少なくとも死ぬことはないはずだ。

 だがこのままこいつに死なれると情報が入らなくなる。

 俺は急ぎ結界の中へと入り、男に向かって鑑定魔法ライブラをかける。


 名前:デュラン

 性別:男

 種族:人間

 紋章:剣と盾


 ズガガーガーン!


 その時、男の持っている球状の魔道具が、辺り一帯を光で照らし始め、そして爆発した。



 大きな音が鳴り止み、周囲を確認してみるが、当然の事ながら男の姿は見えなかった。

 捕まって依頼主がバレたら困る人種。そう考えると、貴族が頭に浮かぶ。そして自爆した男は、騎士の紋章を持っていたので、貴族がこの中年男性と少女を殺そうと部下に命じた可能性がある。しかし今となっては犯人は死亡してしまったため、この考えは憶測に過ぎない。


「あ、あの~」


 少女はおずおずと俺に向かって声をかけてきた。


「助けて頂き、ありがとうございました」


 頭を下げ、お礼を言ってくる少女はドレスを着ていて、可憐という言葉が似合いそうな雰囲気を持っている。

 身なりから言って貴族だと思うけど、一応鑑定魔法をかけて確認してみるか。


 名前:ティアリーズ・フォン・メルビア

 性別:女性

 種族:人族(メルビア王国の王女)

 紋章:幻獣

 レベル:13

 HP:121

 MP:182

 力:E

 魔力:C-

 素早さ:E+

 知性:C+

 運:B-


 えっ!!!


 ティアリーズ・フォン・メルビア。人族(メルビア王国王女)!

 この娘隣国であるメルビア王国の姫じゃないか。

 俺は驚きのあまり言葉を失う。

 しかも紋章がかなりレアで、幻獣は確か召喚師の職だ。


「私はティアと申します。このお礼はいずれ必ずさせて頂きます」

「いえ、礼など不要です。私は悪人を退治しただけですから」


 俺は仮面の騎士らしく演じ、この場から立ち去ろうとする。

 そろそろラナさんとリアナがここに到着するから、その前にここを離れたい。


「待って下さい! せめてお名前だけでも」


 この時事件が起きた。

 ティア王女が、俺を引き止めようと走ってきた際に、右胸を刺されたことによるドレスが破れ、白い透き通る肌と小ぶりの双丘が目に入る。

 ただ、勘違いしないでほしい。小ぶりと言ってもリアナより、大きさは上だ。


「仮面でお顔を隠してらっしゃるので言えないということですか?」


 俺がティア王女の胸に目を奪われて言葉がでないことを、否定だと勝手に解釈したようだ。というか気づいてないのか?

 あの堂々とした態度を見ると状況を理解してないのだろう。

 後ろにいる王であろう男はティア王女のことを指で指して、口をパクパクとさせている。


「どうなされました? 仮面の騎士様?」


 可愛らしく首を傾げているが、今の姿を理解すればそんな冷静にはいられないだろう。


「【異空間収納】」


 このままにしておくわけにはいかないので、俺はタオルケットを取り出し、ティア王女の胸が隠れるようにかけてあげる。


「これは何です⋯⋯かぁ!」


 どうやらタオルケットを受け取った時に、ドレスが破れ、胸が丸見えになっていることに気づいたようだ。


「み、み、み、見ました?」


 タオルケットで胸を隠し、涙目になりながらこちらを恨めしそうに見てくる。


「な、なんのことだ」


 仮にも一国の姫の裸を見たとなると、死罪はまぬがれないな。

 ここは惚けて逃げるしかない。


「で、では、さらばだ」

「待って下さい!」


 残念ながらその願いを聞くことはできない。立ち止まったら処刑されるだけだ。

 俺は転移魔法を使って急ぎルーナ達の元へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る