なん⋯⋯だと⋯⋯~世界でただ1人の紋章を授かり、あらゆる魔法を使えるようになったが、今では、初級魔法すら発動できず見下されるため、力を取り戻し、バカにした奴らに無双する~
第108話 ヒロインを救うのはいつだってヒーロー
第108話 ヒロインを救うのはいつだってヒーロー
転移した先で周囲を確認すると、馬車に護衛が1人。そして馬に乗った盗賊らしき者達が13人。これはどう考えても馬車の中の人物が助かる見込みはなかった。
俺が来るまではな。
???side
「後少しでルーンフォレスト王国の城壁が見えるはずです! ここは私が食い止めますのでお二人は早く逃げてください!」
馬に乗った騎士が馬車の中にいる主人に声をかける。
「ご、ごめんなさい⋯⋯私がもう少しうまく魔法を使えたら⋯⋯」
ドレスを着た少女が息も絶え絶えで、隣にいる身なりの良い中年の男性に語りかける。
「ティア、しゃべるな! お前は良くやってくれた」
「キュウ~」
衰弱している少女を中年の男性と浮いているトカゲ? が励ましの声をかけるが、事態は最悪の方へと向かっていた。
「くっ! お前らごときにこの私は殺られんぞ!」
騎士は向かってくる盗賊を切り捨てると、返す剣でさらにもう1人の首を突き刺す。
「ここから先は命にかけて通さんぞ!」
「ちっ! お前らバカか! まともに殺りあってどうする。狙うならまずは馬を狙え!」
盗賊のリーダーらしき男が部下達に命令すると、騎士が乗る馬に向けて、一斉に投げナイフが放たれる。
「くそっ!」
いくら騎士が強者であっても、馬上にいる状態で、馬を護ることができず、ヒヒーンという鳴き声と共に馬は倒れ、騎士も振り落とされてしまう。
「次は馬車の馬だ!」
照準を馬車に切り替え、再度20本くらいの投げナイフが向かってくる。
「だめです!」
少女の願いも虚しく、盗賊達が放ったナイフは見事馬へと当たり、馬車はひっくり返ってしまう。
「きゃあああっ!」
土煙が舞い上がり、横転した馬車は、静かにその場で佇む。
「う⋯⋯うぅ⋯⋯」
一瞬意識を失ったが、少女は自力で意識を取り戻し、状況を確認する。
痛い所は⋯⋯ないです。
あれだけの転倒の中、無傷なんて⋯⋯。
だが、目をゆっくりと開けた時に、なぜ自分が無事だったかを認識する。
「お、お父様! クロ!」
少女に傷がなかったのは、中年の男性とクロと呼ばれた生き物が、覆い被さるように抱きしめ、護ってくれたからだと理解する。
「目を開けて下さい!」
脈は動いているけど2人とも意識が戻る様子はない。
このままだとお父様やクロが⋯⋯。
私は助けを呼ぶため、魔法を使いすぎで疲労した身体にムチ打って、馬車から這いずり、ようやく外へ出ることができた。
陽の光が私の瞼を照らし、立ち上がろうとした時に、突如影が差す。
「どこへ行くのかなあ」
人相の悪い男がニヤニヤと、横たわっている私を見下ろしてくる。
けど2人を助けるためにも歩みを止める訳にはいかないわ。
私はこの男から逃れるために方向を変え、起き上がるため、腕に力をいれるが、その手が踏みつけられる。
「いつっ!」
男の体重をかけた足が私の手の甲に落とされ、思わず声を上げてしまう。
「どこへいくのかと言ってるんだ!」
私が無視したことで男は激昂し、怒鳴り付けてくる。
「な、なぜこのようなことをするのですか」
殺される恐怖で、声が震えてしまったが、何とか言葉にすることができた。
「お前達を殺せって依頼があったんだよ」
依頼?
「余計なことは喋らなくていいですよ。報酬がほしくないならね」
他の盗賊達とは毛色が違う男が、依頼のことを話した盗賊を叱責する。
「
しかし先程の依頼という言葉を聞いた後では、とてもその言葉は信じられない。
「とりあえず俺達の顔も見られたし、
盗賊にしては口調が丁寧な男が、足元にいる私の心臓目掛け、手に持っている武器を振り下ろしてきたので、私は転がり、何とかかわそうとしましたが、身体が動かず右の肺に突き刺さる。
「ごふっ!」
体内から血が溢れてくるのを止められず、口から吐き出してしまう。
「往生際の悪いことを⋯⋯だがどのみちその傷では助からないだろう。だが安心しろ、父親も一緒に死の世界へ送ってやるから」
男は、私を越えて馬車の中へと向かう。
血が口と胸から大量に出ているのに、感覚がほとんどない。私はもう助からないだろう。それなら最後にできることをするだけだわ。
言うことをきかない身体を動かし、右手で男の足を掴む。
「何をしているんですか。そんなことをしても無駄ですよ」
無駄かどうかを決めるのはあなたじゃない。
私を護ってくれた騎士達、そしてお父様やクロのためにも諦めるわけにはいかないわ!
「うぐっ!」
男は倒れている私の顎を蹴り上げて、私はなす術もなく転がっていく。
もう身体が動か⋯⋯な⋯⋯い。
「そこまで生きたいなら見せてあげましょう⋯⋯黒焦げになる父親を!」
右手に魔力を込め、男は馬車に向かって手をかざす。
ま、まさか!
「や⋯⋯め⋯⋯て⋯⋯」
「【
最後の力を振り絞った言葉も届かず、炎の弾が馬車へと向かう。
悔しい⋯⋯私はなんて無力なの!
私が憧れた勇者パーティーのように、困っている人達を助けるため、魔法の練習をしてきたけど、誰1人護ることができなかった。
こんな時、
しかし現実にそんなことが起きるはずもなく、炎の弾が馬車に着弾するのを眺めることしかできない。
「誰か⋯⋯たす⋯⋯け⋯⋯て⋯⋯」
私は本の中のヒロインのように、まだ見ぬヒーローが来ることを願い、救いを求めていた。
「その願い確かに聞き入れた【
辺りの温度が一瞬で冷える。
そして冷気が【
「えっ⋯⋯」
何? 何が起きたの?
閉じかけた目を開き、周囲を見てみると、そこには私を護るように白銀の仮面を被った騎士が立っていた。
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