第6章 仮面の騎士と小国の姫

第105話 強敵再度現れる?

「今日は上級職への転職についてお話します」


 今はネネ先生の冒険者についての授業。


「では皆さん、転職はどのようにされるか御存知でしょうか」


 クラスメート達はシーンと静まり下を向く。答えがわからなくてもわかっていても、教師に指されたくないのはどの世界でも一緒だ。


「それでは~サンジくん」

「げっ!」


 サンジは答えがわからないのに指名されてしまい、思わず声が出た。


「え~と⋯⋯その⋯⋯わかりません」


 見当もつかないので、当てずっぽうの回答もせず諦める。


「正解です」

「えっ? まじ?」


 なぜ答えがあっているのかわからず、サンジは混乱している。

 そしてその説明を先生が行う。


「転職については今だにわかっていないことが多いです。例えば上級職になる場合、当初はレベルやステータスの能力が関係していると思われていたのですが、調査を進めていくと、戦士のレベルが20で上級職になる方もいれば、レベル50でも転職できない方が存在していることがわかりました」

「じゃあどうすれば上級職になれるんですか?」


 グレイが手を上げて質問をする。

 相変わらずネネ先生の授業だと真面目に行うな。


「これはあくまで私の考えですが⋯⋯心が関係していると思います」

「心?」

「そう、心です。なぜなら戦士が盗みを働いたり、人を殺したりすると山賊に転職します。これは自分の中での行動が悪いことだと認識しているから、山賊になってしまうと思います」


 確かに先生の言うことは一理あると思う。

 だが例えば戦争で人を沢山殺しても、戦士が山賊になることはない。

 誰か1人くらいは、悪いことをしたと思う人がいそうだが、そのような事例は今までに一件もないため、単純に心の問題だけではないと思う。

 だから俺は、他に何かこう、神秘的な力が働いているような気がする。

 もし俺が転職するなら何になるんだろう?

 誰もわからない紋章だから楽しみでもあり、少し不安もあるが、今は授業中のため、ネネ先生の話に集中した。



 休日の早朝。

 今日はかねてより実行する予定だった、ルーナのレベル上げを行う。

 魔王軍侵略、呪い、冒険者学校への入学、そしてダードの件と色々あったため、こんなに遅くなってしまった。

 ちなみにダードについては、魔物に変貌したためマグナスさんに始末されたことになっている。

 侯爵家より抗議の話が来ると思っていたが、そのような話はこなかったとマグナスさんが仰っていた。

 どうやら家でも奴の行動は目に余るものだったらしく、むしろ秘密裏に討伐してくれて感謝されたらしい。

 家族にも見放されるか⋯⋯寂しいものだな。

 けれどダードの場合は自業自得なので同情など一切しない。


「ヒイロちゃんお待たせ~」

「お待たせしました」

「ふん」


 どうやら今日行くメンツが来たみたいだ。

 リアナ、ルーナ、まだ怒っているラナさん、そして⋯⋯。


「ヒイロさん今日はよろしくお願いします」


 マーサちゃんがいた。


「えっ? マーサちゃんも行くの?」

「はい! ルーナさんとリアナさんにお願いしたら連れていって下さると」


 まあ今日行くところは、そんなに強い魔物はいないから、危険はほとんどないか。

 だが先に言わなきゃ行けないいけないことがあるので、手招きをしてマーサちゃんを近くに呼び寄せる。


「どうしました?」

「ラナさんには俺の実力を隠してるんだ。だから黙っててくれないか」


 強いことが知れると、そこから仮面の騎士までたどり着いてしまう可能性がある。


「大丈夫です。そのお話はお二人からも聞いてます」


 視線をリアナとルーナに向けると、頷いている。


「ならお願いね」

「はい! 任せて下さい。これ以上ライバルを増やしたくありませんから」

「ライバル? なんのこと?」

「い、いえ。何でもありませんよ。ホホホ」


 何だが怪しいな。今までホホホなんて笑ったマーサちゃんは見たことないし。


「マ、マーサちゃん。ほら行こう」


 リアナがマーサちゃんを慌ただしく連れていく。

 なんだったんだ。

 少し引っ掛かったが、大したことではないと思うので俺は気にしないことにした。



「それじゃあ今日はルーナのレベルアップのため、魔物の討伐に行きます」

「皆様お忙しい中すみません」


 ルーナはみんなに頭を下げる。


「気にしないでルーナちゃん」

「私達友達でしょ。協力するわ」


 暖かい言葉を2人は返す。


「これから行く狩場はそんなに強い魔物はいないと思うけど、油断せずに行こう」


 ラナさん以外が頷く。


「マーサちゃん、今日は見学しててね」

「了解です。1度冒険者のお仕事を見てみたかったので、御一緒させて頂きありがとうございます」


 先日見事戦闘職の紋章を貰ったから気になるって所かな。


「もし怖くなったら言ってくれ」

「わかりました。何かあったら私を護ってくださいねヒイロさん」

「わかった。何があっても必ず護って見せるよ」

「⋯⋯は、はい」


 ん? 突然マーサちゃんの顔が赤くなってしまった。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫です⋯⋯いきなり女の子が好きな男の子に言ってほしいランキング3位のセリフを言うなんて」


 後半何を言っているのか聞こえなかったが、体調が悪いようなら今日の狩はやめた方がいいかもしれない。


「ヒ、ヒイロちゃん私も護ってくれる?」

「何をいってるんだリアナは。勇者であるお前は、ここにいる魔物に手こずるはずがないだろう」

「そんなあ」


 わけがわからないことをリアナが言ってきた。まさか魔物から混乱の攻撃を受けたのか?


「ヒイロくん。私は護ってくれますよね?」

「今日はルーナのレベル上げで来ているんだ。安心してくれ。命の危険があったら必ず助けるよ」

「はい❤️」


 今のルーナはレベル4だ。大勢の魔物に囲まれたら危ないかもしれないからな。


「う~⋯⋯今だけはこの紋章が恨めしいよ」


 リアナが何か唸っていたが、その時を俺は気づかなかった。



 俺達は王都を出て、草原を進む。


「ねえ」


 歩きながらラナさんが全員に声をかける。


「さっきから気になっていたのだけれど、このパーティーのリーダーってこの変態男なの?」


 変態男は止めてくれ。


「Fクラスだし、実力からいったらリアナがすべきなんじゃない?」


 ラナさんが至極真っ当なことを言い、リアナからの返答を待つ。


「わ、わたし? 私には無理だよ~」


 戦闘状況を見極め、指示をしながら戦うのは、少なくとも今のリアナには厳しいだろう。


「ヒ、ヒイロくんは頭が良いですから指揮するのに向いているんです」


 ラナさんは2人の言葉に、どこか納得していないようだ。


「その紋章も良くわからないものですし⋯⋯」


 確かによくわからないが、すごい紋章なんだぞと言いたいけど、今は我慢する。


「ヒイロさん、ヒイロさん」


 その時、後ろにいたマーサちゃんから声をかけられる。


「前方512メートルの所にスライムさんが2匹います」


 えっ?


 俺達はマーサちゃんの言葉に驚愕する。


「マーサちゃんそんな先の所が見えるの?」

「元々目は良い方でしたけど、近頃はさらに遠くまで見えるようになりました」


 俺は本当にスライムがいるのかどうか、こっそり探知魔法を使ってみると、確かに500メートルくらいの所にスライムが2匹いた。

 こいつは驚いた。いくら平原で遮蔽物がないからといって、これはもう目が良いなんてレベルじゃない。しかも500メートルくらいじゃなくて、512メートルとマーサちゃんは言っていた。そこまで正確にわかるのなら、これは何かのスキルの可能性があるな。


 俺の探知魔法の結果を聞くため、リアナとルーナがこちらに視線を向けて来たので頷いて見せる。


「疑うわけじゃありませんけど、本当にいますの?」

「まあまあ、とりあえず行ってみましょうか」

「そうね。特にターゲットを決めているわけじゃないですし、行きましょう」


 ラナさんも賛同してくれて、俺達は前方500メートル付近まで来るとスライム2匹がぴょんぴょんと跳ねていた。


「お、驚いたわ」

「本当にいました」

「マーサちゃんすごいね」


 3人は直接スライムの姿を見て、驚きを隠せない。


「えへへ」


 当の本人であるマーサちゃんは皆に褒められ照れている。

 そして勿論俺も驚いているが、俺の驚きはみんなとは違う。


 この気配、あのつぶらな瞳。お前達はまさか!

 俺は慌ててラナさんにバレないように鑑定魔法ライブラを使うと、そこには俺の心の友、スライとスラぞうがいた。


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