第103話 幕間2 休日

「ラナちゃん待った~」

「お待たせしましたラナさん」

「いえ、わたしも今来たばかりですから、気になさらないで下さい。リアナさん、ルーナさん」


 太陽が一番高い所を通過した午後1時。

 うら若き乙女3人は、先日行きそびれてしまった、王都の街へと繰り出していた。


「1度ゆっくり王都を見てみたかったんだよね」

「私もです。ずっと寝ていましたから」

「え? ルーナさん。それはどういうことですか?」


 リアナとルーナは魔王軍の王都侵略、呪いについてラナに話す。


「そうだったの⋯⋯大変でしたね」


 ラナは心配する表情でルーナを見つめる。


「けれど魔王軍の副団長を倒すなんてリアナさんはすごいのね。私も負けてられないわ」


 ラナの言葉を聞いて、リアナとルーナはギクリとする。


「ほ、ほら。騎士団の人達もいたし、ねえルーナちゃん」

「わ、私ですか! そうですね⋯⋯え~と騎士団の人に2つ名をお待ちの方がいましたから?」


 2人はヒイロから、自分の名前を出さないようにと言われているので、ラナに魔王軍と戦ったことを指摘され焦ってしまう。


「何で疑問系なの。でも止めを刺したのリアナさんでしょ?」

「それはそうだけど⋯⋯」


 本当はヒイロの名前を出したかったけど、リアナは何とか口にすることを堪えた。

 とりあえずこの話題は良くないので、リアナは以前から気になっていたことをラナに聞いて見る。


「そ、そんなことよりラナちゃん。私のことはリアナでいいよ」

「そう? ならわたしもラナで良いわよ」

「ううん。私、親しい人や気に入った人は、ちゃん付けで呼ぶからこのままでいいかな」


 ラナとしては、ラナちゃんと呼ばれるのが恥ずかしかったが、理由を聞いてしまったら許すしかない。


「わかったわ。それとルーナのこともルーナって呼ぶけどいい?」

「いいですよ。ただ、私はさん付けで呼ぶ癖があるので、ラナさんのままでよろしいでしょうか」

「いいわよ。これからよろしくね。リアナ、ルーナ」

「よろしくね、ラナちゃん」

「よろしくお願いしますね、ラナさん」


 こうしてリアナ達はヒイロのことを誤魔化すと共に、ラナと一歩仲良くなることができた。



「うわあ。この白のワンピース。ルーナちゃんに似合うんじゃない」

「私もそう思うわ。清楚な感じがルーナにぴったりね」


 3人は王都の商店街で、ウインドウズショッピングしながらぶらぶらと歩いていた。


「そうでしょうか? それでしたらちょっと着てみますね⋯⋯すみませ~ん」


 ルーナは、2人に進められたワンピースを試着するために、店員さんに声をかける。


「こちらのワンピースを試着したいのですが」

「承知しました。今お客様に合うサイズがあるか確認して参りますね」


 そう言って店員は在庫を探しに倉庫へと向かった。


 1分ほど待っていると、先程の店員が戻ってきて、ルーナに謝罪の言葉をかける。


「申し訳ありませんが、あちらの商品でお客様に合うサイズが見当たらなくて⋯⋯」


 店員は、在庫がないではなく、見当たらないという言葉を使った。


「えっ? でもあそこに展示してある商品は、ルーナちゃんと同じSサイズじゃないの?」


 リアナが店員に聞くと、何やら話づらそうな表情をする。


「そ、そのお客様はお胸がふくよかでありますから、もしあのワンピースを着てしまうと大変なことになるかと⋯⋯」


 その言葉を聞いてリアナとラナは目を細め、ルーナの胸に視線を集める。


「あ~それね」

「バストがきつすぎて、胸の谷間がすごいってことね」


 殺意を持って2人はルーナに話しかける。


「仕方ないじゃないですか。私だって好きで大きくなったわけじゃ」

「持っている者の余裕って奴かな、かな」

「持たざる者の気持ち⋯⋯ルーナには一生理解できないでしょうね」


 このままでは2人の心が闇に落ちてしまう。そう思ったルーナはこの場から立ち去ることを選択する。


「そ、そうだ! ここからすぐ近くに、美味しい紅茶とお菓子を提供するお店があるみたいです」

「お菓子?」

「紅茶ですか?」

「リアナさんもラナさんも興味ありますよね? 行きましょう」

「わかったあ」

「しょうがないですね。お付き合い致します」


 こうしてルーナの機転により、ダークサイドに落ちかけた2人を救い出すことに成功した。



「ここのスコーン。美味しいね」

「紅茶も香りが良くて、お菓子にとても合いますわ」


 リアナとラナの興味が、喫茶店ポプラに移り、ルーナはひとまず安堵する。


「今度ヒイロちゃんも連れてきたいね」

「そうですね」


 リアナとルーナの頭の中は、ヒイロとデートでこの店にくることをイメージしていた。

 そんな2人を見てラナはタメ息をつく。


「2人とも本当にあの男が好きね」


 ラナの言葉を聞いて、リアナとルーナは心がドキンッと震える。


「な、何を言ってるのかなラナちゃん。私とヒイロちゃんは幼なじみっていう関係だけだよ。そりゃ~ヒイロちゃんのことを1番知ってるのは私だけど」


 何故か嬉しそうに自慢するリアナ。

 そして⋯⋯。


「私はヒイロくんとこれから冒険をしていく約束をしただけです。彼女だなんてそんな⋯⋯」


 ずっと一緒を強調し、そして彼女なんて一言も言ってないのにとラナは2人に少し呆れていた。


「どこがいいのあんな奴」


 初対面で私のパンツを見たし⋯⋯と言葉が出そうになったが、何とかラナは堪えることができた。


「そういうラナちゃんはどんな人がいいの?」


 その言葉を聞いたとき、先程の2人のように、心がドキンッと震えた。


「ひょっとして仮面の騎士さんですか?」


 ルーナに当てられてラナの心臓は、ドキドキと今までの人生で一番速く動いている。


「そ、そんなことはないわ! 仮面の騎士様は憧れているだけです」

「そうなんだ。だったらどうな人がラナちゃんは好きなのかな、かな」


 リアナの問いかけにラナは、恥ずかしながらも答える。


「エルフは長命だけど私は種族は気にしないわ。後、出来れば私より強くて、凄い魔法が使える方がいいわね」

「ヒイロちゃん強いよね」

「そして凄い魔法が使えます」


 リアナとルーナは、ひそひそ話でラナの言葉を分析する。


「見た目はそんなには気にしないけど、平均以上あれば」

「ヒイロちゃんかっこいいよね」

「そうですね。むしろ上の部類だと思います」


「自分の手柄を自慢するような人は嫌いだわ」

「魔族の副団長を倒せたのはヒイロちゃんのおかげなのに」

「それをリアナさんやエリスさん達に譲る⋯⋯謙虚ですね」


「優しさの押し売りじゃなくてさりげない優しさ? そういうことができる人は素敵だわ」

「今回、ヒイロちゃんはラナちゃんの腕と足を治したのに」

「自分だと告げずに去る⋯⋯さりげない優しさです」


「あ、後⋯⋯エルフって子供が出来にくいから旦那様になる人限定ですけど、少しエッチな方がいいです⋯⋯子供ほしいですし」

「これは文句なしだね」

「はい、ヒイロくんはエッチです」


 照れながらラナは自分の好みのタイプを話した。


「これもうヒイロちゃんのことだよね」

「もし仮面の騎士さんの正体がラナさんにバレてしまったら⋯⋯」

「さっきから2人でこそこそと⋯⋯なんですの」


 リアナとルーナは真剣な表情をして、ラナに向き合う。


「今後ラナちゃんは、ヒイロちゃんのことが好きになると思うよ」

「絶対にあの男を好きになることはないわ」


 しかし2人は思った。

 今、ラナが言っている言葉がすでにフラグだということを。


「それに仮面の騎⋯⋯ううん。私の理想とあの男は正反対よ正反対!」


 だからその仮面の騎士がヒイロだと突っ込みたかったが、2人は堪える。


 ラナはいずれヒイロに落ちる。そうリアナとルーナは思いながら、今日の女子会は終了となった。

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