第102話 幕間1 マーサの紋章

 マーサside


 朝焼けがにじむように東の空から上がる頃。

 今日は私の運命が決まる日。そんな朝の天気が晴天のため、幸先が良い気がする。


「よし!」


 私は鏡で自分の姿をチェックをする。


 ニコッ


 うん、可愛い。

 今日もルーンフォレスト王国1の笑顔だ。

 ヒイロさんは、こんな美少女をお嫁さんにできるんだから幸せ者よね。

 それなのにヒイロさんは私のことを焦らして⋯⋯つれない人ですね。

 お母さんに一通りしつけられたので料理、洗濯、炊事はできるし、容姿も悪くないと思う。スタイルに関しては⋯⋯これからルーナさんみたいになる予定だから、正直悪くない物件だと思う。


 私はメイドっぽい従業員の服に着替え、一階の食堂へと向かう。


「お母さんおはよう」

「おはようマーサ。今日は野菜の皮むきから頼むよ」

「は~い」


 私の1日は宿の朝食の手伝いから始まり、それが終われば空いた部屋の掃除をして、夕方までは自由時間。そしてまた夕食のご飯を作り、一日が終わる。

 けれど今日は、この仕事が終われば、宿のお手伝いはしなくて良いことになっている。なぜならこの後教会で、成人の儀があるからだ。


 出来ればヒイロさんやルーナさんみたいに、戦闘職系の紋章をアルテナ様から頂ければ、冒険者になる道のりが開かれる。

 まだ成人の儀まで時間はあるけど、今からドキドキが止まらない。

 こんなにドキドキするのはヒイロさんを好きと認識して以来。そう考えると目の前の皮むきが、おぼつかなくなりそうになるが、そこは長年宿のお手伝いをしてきた経験で、何とか仕事をやり遂げることができた。


「それでは行ってきます」


 私は、ヒイロさん、リアナさん、ルーナさん、ディアナさんに行ってきますの挨拶をする。4人ともわざわざ私の為に冒険者学校の寮から見送りに来てくれたのだ。


「良い紋章が貰えるといいな」

「ファイトだよ、マーサちゃん」

「アルテナ様に祈りを捧げれば大丈夫です」

「がんばってくださいね」


 私もきっと冒険者になりますから、待っててくださいね。

 皆さんの声援を胸に、私は教会まで旅立った。



 教会に到着すると、大勢の子供達が賑わいを見せていた。


「俺は勇者になるんだ」

「戦闘職ならなんでもいいや」

「今日の結果で俺は騎士団にスカウトされるかもな」


 特に男の子達が友人と楽しそうに話をしている姿が目についた。


 宿のお仕事で年上の人達を見ているせいか、同年代の男の子達は少し子供に見えてしまうのよね。

 告白も⋯⋯かなりされたことがありますけど、付き合おうという気持ちは生まれたなかった。

 ですがヒイロさんと初めて会った時、ビビッと何かが降りてきて⋯⋯けれどお客様だから私的なことをお話することが出来なかった。

 そして私は魔物に拐われてしまい、助けてくれたのがヒイロさんでお姫様抱っこもしてくれたって聞いた日には、もうこれは惚れるしかないでしょう。

 強くて優しくてかっこよくてちょっと優柔不断でエッチで⋯⋯もう~大好きです!



 成人の儀が近づくに連れて、周囲のざわめきが収まってきた。

 紋章を頂くことに楽しみもあるけど、不安もある。

 宿屋の娘である私が良い紋章を貰えるのかしら?

 特技は目が良いこと、後は家事、そして尽くすことかな。


 えっ?


 もしかして⋯⋯私は気づいてしまった。

 私に適正がある紋章って! お嫁さん!

 どうしよう。そうなると皆さんと冒険者になることができない。

 けどお嫁さんかあ⋯⋯ふふ。それもいいかも。


「ヒイロさんお帰りなさい。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも⋯⋯きゃあ! 私のエッチ」


 私はここに何をしに来たのかを忘れ、その場で身悶える。


「マーサ、マーサはいないのですか?」


 私が大人でルーナさんみたいにナイスバディだったらすぐに誘惑しちゃうのに⋯⋯な~んちゃって。


「マーサ! いないのなら抜かしますよ」


 ツンツン


「なんですか。今良いとこなんです」

「マ、マーサちゃんの番だよ」


 妄想していた私を隣にいたお友達が、成人の儀の順番が来たことを教えてくれた。


「えっ!」


 教会にいる人達の視線が私に集まり、皆呆気に取られている。


「コホン。マーサ。いるなら早く来なさい」

「は、はい」


 私は神父様の所へ向かっていく。


 恥ずかしい! 成人の儀の場で私はなんてことを。

 今までの人生で一番の失態だわ。穴があったら入りたい。


 しかし私の思いとは裏腹に成人の儀は始まっていく。


 神父様が祈ると私の左手が光出す。

 女神アルテナ様。私に戦闘職の紋章を下さい。

 そう願いながら左手に力を込める。


 そして光が収まり、紋章が浮かび上がる。


 浮かび上がった紋章は【筒?の紋章】だった。



「この紋章を知っていますか?」


 私は宿屋に戻って、皆さんに何の紋章か聞いてみた。


「王都の神父様が御存知ないのなら、かなり珍しい紋章になりますね」

「もし良かったら俺の魔法で見てみようか?」

「ぜひ、お願いします」


 ヒイロさんが真剣な表情で魔法を唱える。


「【鑑定魔法ライブラ】」


 私はヒイロさんの一挙一動に注視し、答えを待つ。


「これは⋯⋯名前は【銃の紋章】っていうみたいだ」

「「「「銃の紋章?」」」」


 そのような紋章は聞いたことがない。けれどとりあえずそれは置いといて、重要なのは戦闘職の紋章かどうかだ。

 ヒイロさんは私の能力を紙に記載してくれる。


 名前:マーサ

 性別:女性

 種族:人族

 紋章:銃

  レベル:2

 HP:46

 MP:99

 力:F

 魔力:D

 素早さ:E+

 知性:C

 運:C


 ただ、内容を見てこれがいいのか悪いのかさっぱりわからない。


「それとこの紋章が戦闘職かどうかなんだけど⋯⋯」


 ゴクリ


 心臓がドキドキして私の緊張は最高潮に達する。

 お願いアルテナ様!

 私は祈るような気持ちでヒイロさんの言葉を待つ。


「能力も高いし戦闘職だと思うよ」


 戦闘職? ほんと? 30分の1の確率を引けたの?


「やったー!」


 私は思わずその場で飛び上がる。


「ヒイロさんやったよ! これで皆さんと冒険することができます!」


 嬉しい。こんな嬉しいことは初めてかもしれない。


「これで一緒に冒険できるな」

「良かったねマーサちゃん」

「おめでとう」

「おめでとうございますマーサさん」


 こうして私は成人の儀によって、戦闘職の紋章を頂くことができ、冒険者としての最初の一歩を踏み出すことができた。

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