第86話 2人目の勇者
うおおおおおおっ!
サイラスの紋章を拝見すると貴族達は大いに沸き上がる。
「あなた様に付いていきます」
「我らが希望サイラス様」
「これで貴族の権力が保たれます」
なるほどね。貴族達はサイラスのことを知っていたわけだ。
だからリアナが登場した時も静観していたのか。
けど本当に勇者なのか?
勇者なんてレジェンドレア紋章、同世代に2人もいるなんて信じられない。
俺は騒ぎに乗じて、【
名前:サイラス・フォン・ギラバード
性別:男
種族:人間
紋章:魔方陣の中に剣と盾
レベル:26
HP:832
MP:384
力:B+
魔力:B
素早さ:B
知性:B-
運:B
こ、こいつは本物だ。
しかも能力は軒並みリアナより高いぞ。
「おい、ヒイロ! あいつは本当に勇者なのか?」
どうやらグレイも俺と同じ疑問を持ったようだ。
「勇者だ。間違いない」
「視たのか?」
俺はその問いに頷く。
「視た? 視たってどういうことですか」
俺とグレイの会話にラナさんが割り込んでくる。
しまった! 今の話を聞かれたか! 【
俺はどうするか迷っているとサイラスが、会場にいる全員に語りかける。
「ラナさん。勇者が何か喋るみたいですよ」
「そうね。思わず動揺してあなたなんかに話しかけてしまったわ。今のは忘れてちょうだい」
どうやら興味がサイラスの方に向けられたため、俺に対する追及はしてこないようだ。
ちょっと迂闊だったな。権力争いに巻き込まれないよう、なるべく力を隠すと決めたから、こんなことでバレる訳にはいかない。
そうだ、グレイも俺の力を知るうちの1人だから、後でこのことを伝えておかないとな。
「先の王都襲撃の際は戦いに間に合わず、申し訳なかった。だがこれからは何があろうとこの勇者サイラスが王都を、いや世界を救って見せよう。そのために愚民である貴様らは、どんな犠牲を払ってでも私を支援しろ。それが魔王軍を倒す、最良の選択だ」
うわあああっ!
会場から、いや貴族達から歓声が沸き起こる。
こんな奴が勇者か。
一瞬勇者の紋章を持つ者は、リアナのように他人のことを考えられる奴だと期待していたけど、実際は自分のことしか考えていない、そこらにいる貴族と同じだった。
要はお前ら俺の為に死ね、そうすれば魔王を倒してやるぞって言っているようなものだ。
やはり勇者というからには、せめて表向きだけでも皆を守ると言ってほしい。
「やはり人間は最低ね」
隣にいるラナさんもどうやら俺と同じ感想を抱き、言葉にした。
入学式が終わり、新入生は各クラスへと移動している。
Fクラスの教室に向かっている最中にグレイが話しかけてきた。
「さっきヒイロとルーナちゃんが付き合っているのは、演技だったって言ってたよな?」
「そうだけど」
グレイは何か1人で考え込んでいる。
「何か⋯⋯そう、魔力かよく分からない力で、2人が繋がっているような気がするんだよな」
こ、こいつ。鋭いじゃないか。
職業は遊び人だけど、魔力ステータスはB+とかなり高いから、何か感じるものがあるのかもしれない。
けどグレイだけには言えないな。もしルーナを奴隷にしたなんてことを知られたら、学校中の男子を率いて俺を殺しに来そうだから。
とりあえずボロが出るかもしれないので、ルーナには喋らせないようにしよう。
「グ、グレイくん。な、何を言ってるのかな。そんなものがあるわけないだろう」
「いやいや、探知系の修行はじじいにこっぴとく仕込まれたから勘違いじゃないぞ」
チッ! ルドルフさんめ、余計なことを!
「そろそろ教室に着くぞ。グレイはFクラスの可愛い娘達と仲良くなるんじゃないのか?」
「そうだった。俺のバラ色の冒険者生活はここから始まるんだ!」
お前は何をしにここに来ているんだと突っ込みたいが、とりあえず今は【聖約のブレスレット】から目が逸れたからよしとしておこう。
「みんなおはようー! 俺はグレイ、仲良くしてくれ。特に女子からのお誘いはいつでも大歓迎だ」
Fクラスの教室に入って早々、女子全員に向かって声をかけるなんて、グレイのメンタルを1度鑑定で見てみたいぞ。
「グレイくんは相変わらずですね」
以前と変わらないグレイを見て、ルーナは苦笑いを浮かべる。
クラスメートから、何らかの反応が返ってくると思ったが、見事に無視されていた。
「おいおい、無反応はないんじゃないか」
グレイは近くに座っていた男子に話かけてみる。
「そんなおちゃらけている場合じゃないよ」
まあ、初日から女の子のことしか考えていないグレイは確かにありえないな。
「何言ってんだよ。勉強するにも、鍛練するにも仲良くなって楽しく学んだ方がいいだろ」
珍しくグレイにしては正論を言う。
「ちがうよ! 僕だって仲良くやりたいさ。けど入学式で見たろ。1年の学年主任はあのダード先生なんだぞ!」
どうやらクラス全員、実技試験でのダードの蛮行をしっているらしい。
「別に大丈夫だろう。仮にも教師だぞ」
「君は見ていないのか。試験で2人殺されそうになっているのを!」
その言葉によって、クラスの雰囲気がさらに重苦しいものとなる。
「そうだな。それは困るな⋯⋯だがもしそうなったら、また仮面の男が助けに来てくれるだろ。なっ! ヒイロ」
グレイは意味深な笑みを浮かべて、俺に同意を求めてくる。
こいつ、仮面の男が俺だってわかって言ってるな。
そういえばさっき、探知系のことをルドルフさんにしごかれたって言ってたから、あの場にグレイもいて、俺の正体を見破っていたのかもしれない。
「そ、そうだな。それに勇者パーティーのマグナス理事長がいれば、ダードの横暴を許さないだろう」
まあ、マグナス理事長に関してはここにいればなんだけど。学校にいることが少ないって本人も言ってたし。
しかしそんな空気を読まないことを言うつもりはない。
「そ、そうだね。いざとなれば拳帝マグナス様や仮面の騎士が助けてくれるよね」
グレイの言葉で皆、この学校生活を前向きに捉えるようになったようだ。
「僕はコージーよろしくねグレイくん」
「グレイでいいぜ。よろしくなコージー」
先程のネガティブな少年コージーとグレイの握手を皮切りに、次々とクラスメートがグレイの元へと集まる。
「私はジェシカよろしくね」
「アンナ、よろしく」
「サンジです。よろしくお願いします」
1人1人と握手をかわすグレイ。
「グレイくんすごい。皆とすぐお友だちになっちゃったね」
「そうだな」
いい意味でも悪い意味でも根が正直だから、皆と仲良くなれるのかもしれない。
だが1人、イスに座って本を読んでいるメガネの女の子だけがこの輪に入っていなかった。
見た所、社交的なグレイみたいなタイプは苦手にしてそうな感じがする。
グレイは全員と握手をかわし、最後にその女の子の所へ向かう。
「俺はグレイ。よろしく」
そして、右手を女の子に向かって差し出す。
女の子はじっとその手を見て、オドオドした様子でゆっくりとその手をとった。
「わ、わたしはミズハ。よ、よろしくね」
こうしてグレイのおかげもあり、Fクラスの最初の出会いは良好なものとなった。
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