第85話 新たな希望?
「え~、私が冒険者学校の理事長をしているマグナスです」
壇上に現れた人物は、以前ラームの街でルーナが盗賊に拐われた時、衛兵にすぐ捜索するよう指示してくれたマグナスさんだった。
そして会場にいる人達がざわめき始める。
「げっ! マグナスおじさんが理事長かよ!」
グレイが驚きの声をあげる。
「マグナスさんを知ってるか?」
今の口振りだと、グレイはマグナスさんと知り合いのようだ。
「知ってるも何も――」
その答えを述べようとしたが、周囲の声にかきけされて聞くことができなかった。
「拳帝マグナス様だ!」
「勇者パーティーの!」
「俺、あの人がいるからこの学校に入学したんだ」
勇者パーティー? あのマグナスさんが? 確かに本に載っている名前と同じだけど。
周りの声を聞くとどうやらそのことは間違いじゃないらしい。
「あなた知らないの? いいわ。私が特別に教えてあげる」
突然ラナさんが語り始めたぞ。
あれ? さっき話しかけるなって言ってたよな? 自分が話す分にはいいってことなのか?
「勇者パーティーの1人、マグナス
嬉々として話す姿から、ラナさんはマグナスさんに憧れているということが伝わってきた。それにおじ様って言ってたからひょっとしたら知り合いなのかもしれない。
「俺の説明することがなくなっちゃったけど、まあそういうことだ。昔じじいの紹介で会ったことがある」
同じ勇者パーティーのルドルフさん経由でグレイは知っていてもおかしくはないな。けどラナさんはマグナスさんとどういう関係なんだろう。
俺が疑問を持っている間も挨拶は続く。
「正直な話、私は学校にいることが少ないから飾りだけの理事長だけど、一つだけ皆さんに伝えたいことがあります」
飾りって、自分で言っちゃったよ。
「強くあれ! そしてどんな困難だろうと試練を打ち破って下さい。世界は理不尽な力で溢れています」
今、この言葉を聞いて皆の頭に思い描いたのは、先ほど演説をしたダードのことだろう。
「しかし、そんな力を乗り越えてこそ、真の強者が育つと私は思います」
まさか理事長はわざとダードを野放しにしているのかな。いつかこの理不尽なダードを乗り越える者が現れると信じて。
「この学校はそのための知識、技術を学ぶことができる所です。良い紋章を神様から授かった者はその力に溺れることなくより研鑽を、良い紋章をもらえなかった者はだからといって諦めず鍛練を怠らないで下さい。私の知り合いに、戦闘向けの紋章ではないのに、一級品の能力を持った者がいます」
そして視線を俺の方に向けてきた。
いやこれは俺じゃなくて、後ろのグレイを見ているんだ。
遊び人の紋章だけど高い能力を持つグレイ。
きっとルドルフさんの元で、想像を絶する修行をしてきたんだろうな。
「騎士になって王都を守るのもよし、冒険者になって魔王倒すのもよし、
パチ
パチパチ
マグナス理事長の言葉に圧倒されている会場から、少しずつ音の波が拡がっていき、やがて拍手の嵐となった。
特に隣にいるラナさんは、まるでアイドルの追っかけのようにおもいっきり拍手をしている。
「静かに! 静かにしてください」
あまりにも拍手が鳴り止まないため、司会者が静かにするよう注意する。
それにしても凄い人気だな。流石勇者パーティーの1人だけはある。
かく言う俺もずっと拍手を送り続けている1人だが。拳帝マグナスがそこにいる、それだけで心が舞い踊る。
「理事長ありがとうございました。それでは最後に、今年の新入生には素晴らしい紋章を持った方が入学しています」
堂々リアナの出番がきた。
勇者パーティーのマグナスさんが姿を見せ、入学式は盛り上がっている。そこに勇者であるリアナが登場したら⋯⋯。
少し不安はあるが、どれほど会場がヒートアップするか見てみたい気持ちがある。
「先の王都襲撃事件を皆さん覚えていると思います。その際に敵軍の将を撃ち、見事魔物を撤退させた勇者! リアナさんです!」
うおおおおおお!
会場からは先ほどのマグナスさん以上の熱気を感じた。
「リアナ! リアナ! リアナ!」
平民の野郎共からリアナコールが上がる。
「何で皆、リアナのこと知っているんだ?」
俺は斜め後ろにいるディアナに聞いてみた。
「勇者が王都に来たことは噂になっていましたから。わたくしもリアナさんの名前は、会う前から存じてましたわ」
そうか。流石は世界を救った勇者の紋章だな。他の紋章とは知名度が違う。
「だけど掛け声までするなんて」
「それは⋯⋯リアナさんは可愛いですから」
確かにそれは認める。
強く、可愛い勇者が誕生すればそりゃあ人気も出るか。
ん? けれど良く見ると騒いでいるのは平民達だけで、貴族からは声援は上がっていない。
まさか平民から勇者が出るのが面白くないのか?
そういえば3年前に勇者パーティーが、公爵以上の権限を譲渡される時、一部の貴族が反対したってことがあったな。
貴族至上主義の彼らからすると、勇者であろうと何であろうと許せることではないのかもしれない。
しかし蔑む視線で見る訳でもなく、背筋を伸ばし、むしろこれから起こることを心待ちにしている感じがする。
「静かにしろ!」
突然壇上にダードが上がり、騒ぎを静める。
こいつは何をやらかすかわからないのを皆知っているため、その言葉に従う。
「平民共がギャンギャンとうるせえぞ! これから起こることを黙って見てろ!」
これから起こること? なんだそれは?
何か嫌な予感がしたため、いつで動けるよう戦闘体勢に入る。
キュッ、キュッ。
どこからか足音が聞こえる。
そして舞台袖から俺達と同じ制服を着た青年が現れた。
あのダードが
プライドが高いあいつが頭を垂れるなんて、誰なんだ一体。
その答えはすぐ様、謎の青年が答えてくれた。
「私はギラバード公爵家嫡男、サリアス・フォン・ギラバード」
公爵家? それならダードが従うのはわかる。だが奴からはそれ以外にも、どこかで感じたことがある気配がする。
そしてサリアスは左手を掲げ、この場にいる全員に宣言する。
「そして⋯⋯勇者の紋章を持つものだ」
手の甲には【魔方陣の中に剣と盾の紋章】が見えた。
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