第87話 先生の紋章推理

「入学式で自己紹介したけど、もう一度しますね。私はネネ、皆さんのクラスの担任になります」

「ネネ先生は彼氏はいるんですか? 今度デートして下さい」


 早速グレイがバカなことを言い始めた。

 とりあえず他人の振りをしておきたいけど、先程の仮面の騎士の一件で俺はもうグレイの友達だと思われているよな。


「それは学業と関係ないのでお答えしません」


 そりゃそうだ。


「え~と歴史と実技の担当もしています。それと紋章は⋯⋯秘密です。相手に弱点を教えることになってしまうので、皆さんも紋章は極力隠すようにして下さい。ただ例外はありますけど」


 例外とはもちろん、勇者の紋章を持つリアナとサイラスのことだろう。


「女性の秘密と言われると暴きたくなるな」


 グレイが男のロマンのようなことを言い始めた。


「いいですよ。もし当てることができたらご褒美として先生がデートをしてあげましょう」


 この時頭の中にスイッチが入った者がクラスで1人グレイ、いや半数いた。

 もちろんその半数とはクラスの男子全員だ。


「ヒイロ! 鑑定を使ったら絶交だぞ!」


 チッ! 読まれたか! 鑑定を使えば楽勝だったのに!

 これで魔法を使うことができない。

 だが、今まで培った経験と知識で必ず当ててみせるぞ。

 俺の全ての能力をつぎ込み、ネネ先生を観察する。


 容姿:A-

 性格:未知数

 スタイル:上から85、61⋯⋯。


 トントン


 何者かが俺の左肩を叩く。


「ちょっと今真剣に調べているから後にしてくれ」


 その言葉を口にした瞬間、左隣の席から殺気が放たれた。


「ヒイロくん。何を真剣に調べているのですか?」


 ヒ、ヒィッ!


 ルーナが、今まで感じたことがないプレッシャーで話しかけてくる。


「い、いや。第一印象って大切だろ? 見事先生の紋章を当てて、優秀な所を見せようと思って。けしてデートがしたいとかそういうことじゃないぞ」


 俺はあまりの恐ろしさに、思わず言い訳をしてしまう。


「そうですか。でしたらヒイロくんが正解を出しても、先生とのデートはなしでいいですね」


 良くない!


 と今のルーナに言える勇気はないので仕方なく俺は頷く。

 デートがなくなったことで、忽ち俺のやる気は半減したが、一応先生の紋章を予想してみる。


 剣士だったら手にまめが、武道家だったら拳にタコがあったりするがそれは見当たらない。魔法系にしては筋肉がありそうだから⋯⋯それに両手にある日焼け⋯⋯。


「戦士」

「魔法使い」

「踊り子」

「僧侶」


 俺が考えている間にも、男子達が先生の職業を答える。


「残念だけどちがうわ」


 まだ正解は出ていないようだ。先生は当てることができないと思っているのか、余裕の表情を浮かべている。


「奴隷商人」


 うら若き女教師に対して、奴隷商人なんて言うとは。Fクラスと見くびっていたが中々どうして、このクラスにも勇者がいるじゃないか。


「え~とサンジくんだったかしら。後で校舎裏⋯⋯いえ、職員室にいらっしゃい」

「は、はい」


 先生は先程のルーナに負けないくらいの殺気を放ち、サンジくんにプレッシャーをかけた。


「さあ、後男子で答えていないのはヒイロくんとグレイくんかしら」


 情けないことに残るは俺達2人か。

 俺の中で答えはもう決まっている。申し訳ないがこの勝負勝たせてもらうぜ。

 そして俺は先生の職業を口にする。


「「アーチャー」」


 グレイの言葉と俺の答えが重なる。


「お前俺の真似をするんじゃねえよ」

「いやいや、それはグレイだろ」


 同じタイミングで言うなんて、益々こいつと友達だと思われるじゃないか。


「ど、どうしてアーチャーだと思ったの?」


 先生は俺達の解答を聞いて明らかに動揺している。


「右手に僅かですが、不自然な日焼けの後が。おそらくこれは指を保護するための弓がけを使用しているからです」


 クラスメートが先生の右手を注視する。


「ヒイロくんの言うとおり、右手の腕より下だけ日焼けの後があります」


 残りの推理を話す前に、グレイが視線で俺にも喋らせろと言ってきたので、この場は譲る。


「それと手に豆やタコが出来ていないから戦士、武道家は候補から外した。そして先生の腕に多少は筋肉があるようだから、魔法使いや僧侶も考えにくい」


 やはりグレイも俺と同じことに気がついていたか。初めて会った時も思ったが、やはりこいつの洞察力は侮れない。


「そして左手の親指だけ日焼けが見られないのは、弓を射る時に押手かけを着けているからだ」


 グレイの解答が俺と全く同じ見解だったことに驚く。


「どうだ先生! 答えを教えてくれ」


 Fクラスの教室に緊張が走り、ネネ先生の言葉に全員が集中する。


「⋯⋯正解です」


 先生が躊躇いながら解答を口にする。


「すげえぇぇ!」

「あの2人、洞察力が半端ないな!」

「グ、グレイくんすごいです」


 俺達が正解を導きだしたことで、クラスが沸く。


「まさか初対面で見破られるとは思いませんでした」


 おそらく先生が当てることができないと思った理由の1つが、アーチャーという職業だからだろう。普通アーチャーの紋章はエルフが授かることが多い。人族でもらうことができるのは稀のはずだ。


「珍しいですね」

「そうね。私の祖母はエルフなの」


 なるほどクォーターという奴か。それならアーチャーの紋章を持っていてもおかしくないな。


「2人共お見事です」


 先生から称賛の言葉を頂き、この部屋の全員が拍手をしてくれた。


「ですが正解者は、2人だったからデートはなしね」

「「えーっ。!」」


 俺とグレイは息がぴったしで抗議の声をあげる。


「ヒイロくん? 今の言葉は何ですか?」

「い、いえ。何でもないです」


 さっきデートが目的じゃないと言ってしまったため、残念ながら、非常に残念ながら俺は先生からのご褒美を諦めるしかなかった。



「ではこれで本日は終わりとなります」

「起立、礼。お疲れ様でした」


 こうして冒険者学校の1日目が終了した。

 グレイはクラスに残り、女の子達とさっそく話をしている。


 俺とルーナは、今日から学校の寮に入れるため、教室を後にすると、ちょうど隣のEクラスも終わったのか、人がゾロゾロと部屋から出てきた。


「お、お前はまさか!」


 背後からどこが聞いたような声がしたので振り向くと、そこには俺とリアナの同郷であるベイルの姿があった。

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