第83話 ヒイロ危機一髪⁉️
冒険者学校に着くと、生徒とその保護者であろう人達で賑わいを見せていた。
ただ、保護者といっても入学式に参加できるのは、平民ではなく貴族の親達である。
ルファリア王国は、貴族主義が進んでいる国であるため、このようなことは珍しいことではない。しかし、1つだけ例外があり、それは魔王ヘルドを倒した勇者一行だ。
彼等は平民で冒険者だったが、その功績によって、公爵以上の権限とお金を貰うこととなっていて、そのような前例があるため、冒険者になって、勇者一行のように成り上がろうとしている人達がこの世界にはたくさんいる。
「皆さんおはようございます」
背後から声をかけられたので振り向くと、そこには制服姿のディアナがいた。
「おはよう」
「おはようディアナちゃん」
「おはようございます」
三者三様に挨拶をする。
ちなみにルーナと俺の腕についている【聖約】によってつけられた奴隷の証は、仮面の騎士の時に使用した認識阻害魔法で隠している。
もし冒険者学校でこのことがバレたら、俺は皆から最低の屑野郎として扱われるだろう。
だからこの秘密は何としても隠さなければならない。
そして女子達は、キャッキャと制服姿を誉めあったりしていたので、俺は席を外す。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
「わかった。それじゃあここで待ってるね」
俺はこの場から離れ、トイレに行き戻ってくる。
すると3人は1人の男に話しかけられていた。
「ねえねえ、君達可愛いね」
まさかナンパか? リアナ、ルーナ、ディアナ、3人の容姿はおそらくこの学校でもトップクラスだろう。
だがそれにしても入学式に女の子を口説くなんてどこの誰だ?
俺は男の前に割って入り、リアナ達を守るように立ちながら言い放つ。
「こんな日にナンパなんて常識がないんだな」
「非常識な強さを持つお前には言われたくないけどな」
ナンパ師の顔をよく見ると、俺とルーナの知っている顔だった。
「グレイ!」
「よお、久しぶりだなヒイロ」
勇者パーティーの1人、賢者ルドルフさんの孫であるグレイがなぜこんな所に。
「どうしてここにいるんだ?」
「ここにいる理由なんて1つしかないだろ?」
ということはグレイも冒険者学校に? 遊び人だけど賢者の孫ということもあってかなり能力は高かったからな。
「それにしても出会って早々ヒイロはひどいなあ」
「なんで?」
「ただ、知り合いのルーナちゃんがいたから話しかけただけなのに、公衆の面前でナンパ師扱いとは⋯⋯あの激戦を一緒に生き延びた仲間として悲しいよ」
確かにたくさん人がいる中で、ナンパ師扱いしたのは申し訳なかったな。
「グレイ、すまなかった」
俺は素直に頭を下げ、謝罪することにする。
しかし、グレイはすでにその場にはいなく、リアナとディアナの所へと向かっていた。
「君、名前はなんていうの? リアナちゃんというんだ。良い名前だね⋯⋯君は? ディアナ? 名前の通り綺麗だね。あっ? 俺はグレイ。あいつの親友だからよろしくね」
2人の両手を取って、ナンパを再開しており、そんなグレイを見て、女性陣は苦笑いをしている。
「やっぱりナンパじゃねえか!」
思わず、俺は大声を上げてツッコンでしまった。
「だっていいだろ? お前にはルーナちゃんという素敵な彼女がいるんだから、2人の内どちらか、いや2人と付き合っても」
彼女? そういえばルーナに手を出させないように、そういう設定にしていたな。
「か、彼女だなんてそんなあ。グレイくんは相変わらず正直ですね」
ルーナが顔を赤らめて体をクネクネとし始める。
ガシッ!
ぎゃあー!
何者かが俺の両肩を掴み、あまりの痛さに声がでない。
本当に激痛が走ると言葉を発することもできないということを今、初めて知った。
「ヒイロちゃん、どういうことかなこれは」
「ヒイロさん、わたくしはそんなお話聞いていませんけど」
肩に置いてある手に一層力が入る。
「これは言っちゃまずいことだったか?」
「ううん、いずれわかることですからしょうがないです」
いやいや、ルーナは何を言っちゃってるの? 話す内容次第では俺の命の灯火が消えてしまうから冗談はここまでにしてほしい。
「前会った時、凄い仲が良くて、理想の恋人って感じだったな」
黙れグレイ!
この戦場の緊迫した状況がわからないのかお前は。
「それなのに、他の女の子達をはべらせて⋯⋯ヒイロは最低だな」
リアナとディアナ、2人と付き合おうとしたお前には言われたくないな。
「ヒイロちゃん、ルーナちゃんとは付き合ってないって言ってたじゃん!」
「言っても無駄ですよリアナさん。だってルーナさんはヒイロさんの⋯⋯」
奴隷だからとディアナは言いたいのか。
残念だが、非常に残念だが、ルーナにご主人様として命令したことはまだない。
とりあえず今は皆の誤解を解くことが先決だ。
「あの時はグレイという悪い虫がルーナにつかないように、カップルの振りをしていただけだ」
「ひどいよヒイロくん! 私とのことは遊びだったのね」
おいおいなんてことを言うんだ! ルーナはこんな娘じゃなかったよね。まさか奴隷落ちして、キャラ変でもしたのか。
しかも今の言葉は周辺の人達にも聞こえていたみたいで、周りから話し声が聞こえてくる。
「おい、あいつ3股をかけてるらしいぞ」
「しかも皆可愛いじゃねえか!」
「死ねばいいのに」
冒険者学校での、俺の第1印象は最悪のものになった。
このままだと友達100人計画が、入学して早々、頓挫することになってしまう。
「最低ヒイロちゃん」
「外道ですわ」
「羨ましいぞヒイロ」
リアナ、ディアナ、グレイの3人だけにとどまらず、周辺の人達も白い目で俺を見てくる。
終わった。
これから俺は冒険者学校で、3股をかけた糞やろうと認識されるだろう。
だが膝をついてガックリとしている俺に、天からの助けが降りてきた。
「ごめんなさい。ヒイロくんの言っていることは間違っていません。あの時と同じように演技をしていただけです」
ルーナが今までのことは嘘だと否定してくれた!
「なんだ演技だったのか」
「そうだよな。そんな状況普通じゃありえないよな」
「けどあのかっこいい男の子ならハーレムがあってもおかしくないよね」
周囲の誤解も解けていく。
良かった。これで俺はまた生きていける。
「よし! これでルーナちゃんにもアタックしていいってことだよな!」
「わ、私はヒイロちゃんのことを信じてたけどね」
「そ、そうですわ。私もルーナさんを弄ぶようなことはしていないと思っていました」
おい女子2人。さっきと言ってることが全然違うじゃないか。
だが、蒸し返して色々聞かれるとまずいので、俺は黙るしかない。
それにしてもルーナ何ではあんな演技をしたんだ?
イタズラで行うことは⋯⋯考えにくいし、このような公衆の面前で目立つことも嫌いなはずだ。
考えてもわからない俺の横をルーナが通り抜け過ぎる。
そしてその時に、小さな声で俺に向かって答えを教えてくれた。
「あ、あまり私を1人にしないで下さいよ⋯⋯ご主人様」
その言葉聞いて、ルーナに変な命令をしないように避けていたことを思い出す。
まいったなあ。バレていたか。
それを言われたらこの騒動についても許すしかないな。
俺は恥ずかしいのを我慢して演技したルーナの願いを聞き、今後は今まで通り過ごすことを決意した。
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