第82話 新しい朝
どこだここは?
お城より高い建物、いくつも並ぶ家のような物、そして凄い速さで走る魔道具。
その様は国の違い、地域の違い、文化の違いに収まらず、世界その物が違うように見受けられる。
目線がいつもの俺より高い。これは俺ではなく誰か他の人の視線なのか。
しばらく歩いていると、同じ服を着た青年少女が増えてきた。
そしてその者達と挨拶をかわして同じ方向へと向かっていく。
これまで俺の意思とは無関係に歩いていることから、これは夢である確率が高い気がする。
それにしても、こんなにハッキリと異様な世界観を作れるなんてどこのどいつだ。
この夢の持ち主が誰なのか興味が沸いてきたので、何とか姿が映らないか鏡を探すが、外に鏡などあるはずがない。
しかしその時、凄い速さで走る魔道具が止まり、魔道具についている小さな鏡に夢の主が映ろうとしていた。
よし! もう少しで見えるぞ。
歩いている俺が鏡に近づいていく。そして段々と顔が大きくなり⋯⋯。
「はっ! 」
突如世界が変わり、現在泊まっているエールの宿屋の天井が視界に映る。
「やっぱり夢か。けど夢なら夢でいいから、鏡に映る姿くらい見たかったよ」
ヒイロはそんなモヤモヤした気持ちを胸に秘めながら、今日という日が始まった。
冒険者学校入学式当日
リアナside
「どいてどいて~!」
リアナはこの日のために、昨日は19時に布団に入って眠りについた。
今日は、今日だけは私が1番早くヒイロちゃんの元へ行くんだ。
一階から階段を駆け上がり二階へと向かう。
「リアナ! 宿の中を走るんじゃないよ!」
「女将さんごめんなさ~い! でも今日だけはゆるして~」
リアナの行動を見て静止させようとするが、その姿を見て何故走っているか納得する。
「たくっ! 今日だけだからね!」
「ありがとー」
そしてそのままリアナが、ヒイロの部屋へと向かう姿を見て女将さんが呟く。
「青春だねえ」
宿屋で働くために必要なことの一つに、御客様が望んでいることを読み取る力がなくてはならない。
ここで働いて30年。その培った経験で女将はリアナの気持ちを汲み取った。
「早くその姿を見せてやりな」
女将の声が聞こえたのかわからないが、リアナのスピードが上がり、勢いよくヒイロの部屋のドアを開ける。
ガチャッ!
「おはようヒイロちゃん!」
ヒイロside
リアナが挨拶と共に、部屋に飛び込んできた。
普段なら
「リアナさんおはようございます」
そう、夢を見たこともあるが、今日はルーナが起こしにきたからだ。
「えーっ! なんでルーナちゃんがここにいるの!」
朝早くから驚きの声を上げる。
「リアナ、まだ寝ている人がいるから静かにしてくれ」
「ご、ごめんなさい」
俺に謝罪の言葉を述べつつ、ルーナの方に視線を向ける。
「私がここにいる理由は、リアナさんが1番わかっているのではないですか」
「きぃっ!」
リアナは悔しそうな表情を浮かべ、ルーナは勝ち誇った顔をしている。
(せっかくヒイロちゃんに1番早く見てもらいたかったのになあ)
今日は冒険者学校初日のため、2人共冒険者学校の制服を着ている。
白を基調とした上下が繋がっているワンピースタイプで、巷でも人気の制服である。
そしてリアナの肩にはAの文字が、ルーナの肩にはFのワッペンが貼られている。これはそのまま学校でのクラスを表している。
ちなみにリアナはここに来るまでに女将に会っているため、例えルーナより早く来ても、ヒイロが1番にはならなかった。
朝が弱いはずのリアナが、こんなに早く起きるなんて、俺に制服姿を見せたかったのかな?
俺は不機嫌な表情をしているリアナに話しかける。
「リアナ、ちょっとくるっと回ってくれないか」
「こ、こう?」
弱冠戸惑いながらも、俺の言うとりその場で回る。
あっ? 白だ。じゃなくて。
ルーナがこちらをじと目で見てくる。
これは、俺がリアナのパンツを見たことがバレてそうだ。
だけど今はそのことよりリアナに声をかける。
「素敵な制服だな。リアナにとても似合っていて可愛いよ」
ちなみにパンツも。
「そ、そうかなあ。私もこの制服気に入ってるんだよね」
不機嫌な表情はどこにいったのか、一転してリアナの顔には笑顔が戻る。
「そうですね。リアナさんとても素敵です」
「ルーナちゃんこそ凄く似合ってて可愛いよ」
最初に会った時は仲が悪そうに見えたけど、今のやり取りでわかるように、俺が思った通り2人は仲良しになったようだ。
「あっ! 後
リアナは何のことを言われているかわからず、頭の上にハテナを出している。
今の言葉で、やはりルーナには俺がリアナの下着を見たことがバレているのがわかった。
ルーナか。
実は呪いが解けて目が覚めてから、ルーナを少し避けている。
なぜなら、万が一変なことを口走って、奴隷であるルーナに命令をしないためだ。
しばらくこの状態に慣れるまでは、できれば距離をおいた方がお互いのためだと思うが、ルーナは朝一番に俺を起こしにきたからびっくりした。
まさかもう、俺の奴隷として全てを受け入れる準備はできているから気にしてないとか?
とりあえず遅刻してしまうので、今は【聖約】のことより、早く学校へ行く準備をしよう。
「それじゃあ俺も着替えるから2人共外に出てくれ」
リアナとルーナを部屋の外へと追い出し、制服に着替える。
男子はブレザータイプで、ネクタイを着けなければならないからちょっとめんどくさい。
しかしそんなことも言ってられないので、結ぶのが苦手なネクタイをつけて外へと出る。
「うん、うん、ヒイロちゃん似合ってるよ」
「そうですね。とてもかっこいいです」
「さすが私の未來の旦那様です」
3人が皆俺の制服姿を誉めてくれる。
良かった。こんなしっかりした服を着たことなんてほとんどないから、ちょっと心配だったんだよな。
ん? 3人?
いつの間にかマーサちゃんが2人に加わっていた。
「おはようございます皆様。朝食の準備が出来ているので食堂へお越し下さい」
どうやら朝御飯が出来たので、呼びに来てくれたようだ。
俺達は女将さんの御飯を頂き、宿屋のエントランスへと向かう。
さあここからが冒険者への第一歩だ。
「皆様羨ましいです」
マーサちゃんが寂しそうな表情でそう呟く。
なるほど。1人だけ学園に通うことができないから、疎外感を感じているのかも知れない。
「けどいいんです。私も凄い紋章を頂いて、きっとヒイロさん達に追いついて見せますから」
そう言って両手で可愛らしくガッツポーズをする。
「良い紋章が貰えることを俺も祈っているよ」
「私もだよ」
「私もです」
「はい! ありがとうございます。皆様に応援して頂けると素敵な紋章が貰える気がします」
そしていつも通りの王都1の看板娘の笑顔が戻った。
「3人とも頑張って下さいね~」
マーサちゃんの声援を受け、俺達は冒険者学校へと向かった。
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