第75話 幕間2 2人だけの会話

 王都ルフェリアを魔物が襲撃して2日後。


「ヒイロちゃん!」


 突然ノックもせずにリアナが部屋へと乱入してくる。


「慌ててどうしたんだ?」

「せっかく自由に会えるようになったからお話しよ」


 わんこが尻尾を振るようにリアナが待ち構えている。

 ラーカス村にいた時は村長命令で会うことも禁止されていたから、その思いは俺も同じだ。


「てっきり昨日来ると思ってたけど」


 そう切り返すとリアナの表情が急に重くなる。


「私もそう思っていたけど、昨日はちょっとショックなことがあって、精神的ダメージで私のHPをゼロになっちゃったから」

「なんだそれは」


 昨日何か特別なことがあったのか? 確か昨日はルーナの身体を清める当番がリアナだった気が。まさかルーナのスタイルの良さに衝撃を受けたとか? はは、さすがにそんなことはないか。


「と、とにかくお話しよお話しよ」

「だったらこいつをやりながらするか?」


 そう言って俺は剣を見せる。


「うん!」


 リアナからは元気な返事が返ってきた。



 街中で戦うと誰が見ているかわからないので、毎度お馴染みベーレの村とエリベートの街の間にある、街道沿いの草原へと転移魔法で移動した。


「それじゃあ行くよー。今日こそヒイロちゃんに勝ってみせるんだから」

「いいぞ。どれだけ成長したか楽しみだ」


 リアナが一直線に俺の方へと向かってくる。


「どうしても聞きたかったことがあって⋯⋯ラーカス村に来た魔王を倒したのはヒイロちゃんだよね?」


 上段からは真っ直ぐに振り下ろされた剣を受け止める。


「そうだ。魔王ヘルドを倒したのは俺だよ」


 そしてリアナから連続した突きが繰り広げられる。


「それじゃあ私の身体が治ってて、いつの間にか家に寝てたのも」

 

 サイドのステップでかわし、かわしきれないものに関しては剣でさばく。


「傷ついたリアナに回復魔法をかけて、自宅に転移させた」


 今度は俺が剣を横一閃になぎ払う。


「くっ! やっぱり。ありがとう⋯⋯ヒイロちゃん」


 リアナは何とか俺の一撃を受け止めたが、体重が軽いせいか後方へと吹き飛ばされる。


「それとその⋯⋯」


 左右に動き攻撃をしてくるが、言葉と同じように剣に迷いがあるため、俺は軽々とよける。


「どうしたリアナ。そんな剣じゃ俺に当たらないぞ」


 俺の激が通じたのか突然剣に鋭さが増してくる。


「ル、ルーナちゃんとはどんな関係なの!」


 そう叫んだリアナの剣には何やら殺意が含まれている気がする。

 まさか俺を殺す気か!


「ゴブリンに襲われている所を助けて、冒険者学校に行く目的が同じだったから一緒にここまて来たんだ」

「か、彼女とかじゃないよね」


 少ししぼんだ声で問いかけてくる。


「違うよ」

「そっかあ」


 俺が言葉を発するとリアナの剣から殺意が薄れていった。

 むしろリアナは笑顔で剣を振るってくる。

 なんだったんだ今のは。

 状況はわからないがとりあえず殺されなくてすみそうだ。


 それから数分間剣激が続く。

 しかし2人に取っては数十分、数時間に及ぶほど濃密な時間に感じた。


「それじゃあこれが最後だよ」


 最高の攻撃が繰り出されると思ったため、俺は今まで以上に注意を払ったが、実際には子供でも避けられるほどの一撃だった。

 俺はかわそうと思ったが、その動きを止めてしまう。

 なぜならリアナの目から涙がこぼれ落ちていたからだ。


「もう2度と⋯⋯2度と私から離れないでね」


 そして剣が俺の首で寸止めされる。

 俺はリアナの涙に目を奪われて動くことができなかった。


「わかった。それと俺の負けだな」

「ふふ、初めてヒイロちゃんに勝っちゃった」


 そして2人とも剣を納める。


「じゃあ私が勝ったからご褒美をいいかな?」


 リアナの表情が真剣だったため、俺は思わず頷く。


「ヒイロちゃんの胸を貸してもらってもいいかな?」


 少し照れくさそうに俯きながら言う。


「何を言われるか心配だったけどそれくらいならいつでもいいぞ」

「ありがと」


 ゆっくりと俺の胸に顔を埋めると、今まで溜まりに溜まった感情が爆発し涙声をあげる。


「寂しかった⋯⋯寂しかったよお!」


 俺も同じだ。今までずっと一緒にいたのに、2年も側にいるのに会えなかったのだから。


「これから何があっても私のそばにいて!」


 わかったよ。これからはずっと側にいる。俺は言葉では話さず行動で示すため、胸の中にいるリアナを抱きしめる。


「一生のお願いだよ」


 その言葉を言われたら守らない訳にはいかないな。


「わかったよ」


 こうして俺とリアナの2年ぶりの会話は終わりを遂げた。

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