第73話 暗殺そして
俺は転移魔法を使い、宿屋の外へと移動した。
部屋に直接飛んでも良かったけど、キルガとの戦いで騒ぎを起こしてしまったため、誰かが室内にいる可能性があるからだ。
「なんだいこれは!」
女将さんの声が深夜の宿屋に響きわたる。
あちゃー。説明をする前にバレてしまったか。せめて自分から話をして、少しでも心証を良くしようと思ったけどそれももう叶わないようだ。
とりあえず急ぎ俺の宿泊している部屋に戻ろう。
「何でこんなことになってるんだい。それにヒイロはどこに――」
「俺はここにいます」
部屋の前に着き、背後から声をかけると、女将さんは悲痛な表情をしていた。
「大丈夫かいヒイロ? 怪我はないかい?」
女将さんは部屋のことより俺のことを心配して抱きしめてくれる。
何だか母さんみたいだな。
あまり母親と会ったことがないので、不謹慎だが俺は無性に嬉しく感じた。
この惨状をどう説明するか。
「大丈夫ですかヒイロさん!」
そう言って俺の胸の中に飛び込んでくる。
あれ? ディアナさんは俺のこの嫌いじゃなかったっけ?
いや、暗闇の中暗殺者が侵入してきて怖かったのだろう。それでたまたま近くにいた男が俺だっただけだ。
勘違いするなよヒイロ。
「大丈夫ですよ。無事に撃退することができました」
俺の言葉を聞いてディアナさんは安堵する。これで狙われる心配もなくなるからな。
「撃退? 撃退ってどういうことだい?」
今ならディアナさんがいるから、2人で女将さんに暗殺者のことを言えば信じてくれるかもしれない。
「実は――」
俺は簡単に
「そうだったのかい。なら今日は別の部屋を用意するからそこに泊まんな」
「信じてくれるんですか?」
自分で言うのもなんだけど、15才の若造が暗殺者を撃退したなんていう話を普通なら疑うだろう。
「嘘だったのかい?」
「いえ」
「昨日も言ったけど、マーサと同じで人を見る目はあるからねあたしは」
「女将さん⋯⋯」
リアナやルーナは仲間だから別として、人に信じてもらうことを久しく忘れていたから本当に嬉しい。
「それにマーサから、あんたがとんでもなく強いということは聞いていたからね」
マーサちゃんに、エリスさんとダリアさんとの決闘を見せておいて良かったな。
「さあさあ片付けは後にして2人とも今日はもう寝なさい」
「わかりました」
「わかりましたわ」
こうしてにラームの街から始まった
バンッ!
リアナが机を叩く音が部屋中に響く。
「何で私に教えてくれなかったの!」
昨日リアナには教えず、キルガを倒したことに不満があるようだ。
「そうです。リアナさんもっと言って下さい」
マーサちゃんがリアナを煽るようなことを言う。
いや、リアナはともかくマーサちゃんは戦えないから、絶対に呼ばなかったからね。
「いや急に襲撃してきたから伝える暇がなかったんだよ」
真相を知っているディアナと女将さんには口止めをしてある。だから2人が話さない限りリアナ達にバレることはないはず。
そもそも今回のことは、リアナに知らせずに終わらす予定だった。なぜなら最初からキルガを捕らえるつもりはなく、殺すと決めていたからだ。
俺達を狙った奴らを生かすことなど、最初から考えていなかったため、そんなことに勇者であるリアナを巻き込む訳にはいかない。
ルーナもそうだが、2人とも優しすぎる。どんな奴でも死んだら心に傷跡が残り、苦しむことになるだろう。そうならないように裏の仕事は全て俺が片付けると初めから決めていた。
「ちょっとヒイロちゃん聞いてるの!」
プンプン顔のリアナが問い詰めてくる。今は変なことを考えずこっちに集中した方が良さそうだ。
「ヒイロちゃんなら暗殺者さんが来ることもわかっていたんでしょ!」
「おいおい。俺は予言者何かだと思っているのか」
「そうだよ!」
中々鋭いなこいつ。まさか予測していたことがバレているのか。
「まあまあ御2人とも落ち着つきなさい」
俺の嘘がばれないようにディアナが仲裁に入ってくれる。
「それにこの娘は誰? 自然にヒイロちゃんの隣にいるけど」
そういえば紹介がまだだったな。
「この人はルーナの友達のディアナさんだよ。俺達と一緒に冒険者学校に通う予定だ」
「ディアナです。よろしくお願いしますわ」
優雅に頭を下げる。
話し方もそうだけど、ディアナはそこそこ裕福な家に育ってそうだな。
そんなディアナさんをよそ目に、リアナとマーサちゃんは後ろでヒソヒソと話し出す。
「何ですかあのおほほって言いそうな金髪美人は!」
「それにむ、胸も大きいしスタイルがいい」
「ヒイロさんは胸が大きい人が好きなんですか?」
「そんなことはないよ。ヒイロちゃんのエッチな本は年下から年上までまんべんなく揃っていたから」
「まあ、私は今勝てなくても未來がありますから。けどリアナさんは⋯⋯」
「ず、ずるいマーサちゃん。私だって⋯⋯私だって⋯⋯」
あの2人は何をしているんだ。
しかしその話し合いが終わったのか、改めてディアナに向かって挨拶をする。
「ヒイロちゃんとは生まれた時から一緒にいるリアナです。よろしくね」
なんていう自己紹介をしてるんだリアナは。
「ヒイロさんの婚約者のマーサです。よろしくお願いします」
マーサちゃんまで。
「こ、婚約者?」
ディアナが狼狽えながら視線を向けてきたので、違うという意味を含めて、俺は首を横に振る。
3人の中で何か重い空気が流れ、それぞれが様子を伺っている。
何? 君ら仲が悪いの?
俺はこのどす黒い雰囲気を変えるため声を発する。
「そ、そうだ! ディアナから2人に話があるんだろ」
ディアナは、思い出したかのようにハッとなり、言葉を紡ぐ。
「今、ルーナさんのお世話は貴女方御2人がやられていると聞きました。どうかそのお役目を私に譲って頂けませんか」
真摯な思いを込めてリアナとマーサちゃんに頭を下げる。
「私達もルーナちゃんとお友達だから3人でやろうよ」
その言葉にマーサちゃんも頷く。
「いえ、これは贖罪の意味もあり、私がやらなくてはいけないのです」
ディアナはさらに深く頭を下げる。
実は2人に会う前にディアナから俺は聞いていた。
ルーナには迷惑をかけた。だから少しでも役に立つことがしたいのだと。
本来プライドが高そうなディアナが、ここまで頭を下げているから何とか希望を叶えてやりたい。
「わかったよ」
「わかりました」
そんなディアナの想いを感じたのか、リアナとマーサちゃんは承諾する。
「ありがとうございます」
そして2人の手を取る。
ふう。一時はどうなるかと思ったが、嫌な雰囲気もなくなってよかったよかった。
これで大きな出来事は終わりのはずだ。後は冒険者学校の入学式を待つだけ⋯⋯だよな? 俺の中で何か不安が残ったまま3週間が過ぎた。
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