第72話 ヒイロVS暗殺者キルガ

 暗殺者は直ぐ様次の攻撃を繰り出してくる。

 俺も瞬時に起き上がり、その短剣を防ぐ。

 狙いは頭、心臓、首の頸動脈。的確に急所となる所を狙ってきた。

 さすがはこの暗闇の中で殺しにくるだけはあるな。


 攻撃が効かないと見ると暗殺者は1度後方へと下がり、辺りの様子を伺う。

 どうやら本来の部屋の主であるルーナを探しているようだ。


「残念だがここにはいないぞ」


 こんなこともあろうかと俺の部屋とチェンジさせてもらった。

 ルーナにはディアナがついているから大丈夫だろう。


「貴様がヒイロか」


 低い声で暗殺者は静かに声を出す。


「そうだが、それが何か?」


 まったく気配も感じさせず接近してくる。

 初動もないまま、いつの間にか近付いてくるのはやっかいだ。どうしても対応が遅れてしまう。

 そしてさっきの答えで、明確に俺も暗殺対象者の仲間入りしたらしい。

 その証拠に向けられる殺意が一段と増した気がする。


「貴様が! 貴様が!」


 憎しみを持った声で激しい攻撃が続く。

 俺は剣でギルガの短剣を防ぐが、攻撃に転じることができない。


 チィッ!


 やはりこのせまい室内では長い剣より、短い短剣の方が有利だ。

 しかし奴も中々攻撃が通らず、苛立ちを覚えている。


 さてどうするか?

 このままここで戦うのは得策じゃない。戦いにくいこともあるが、何より棚が壊れ、ベットの布団はメチャクチャに破れて、とても女将さんに見せられる状況じゃない。


「【不可視インビジブル】」


 奴が何かスキルを使うと、少しずつ体が透明になり、やがて姿が見えなくなる。


「なんだこれは? どこにいった?」


 そして何かが迫ってくる気配がしたので、俺は身をよじってかわすように動くが、右腕をかすめたのか血が吹き出る。


「消えた⋯⋯だと⋯⋯」


 なんだこれは、反則だろ。

 この襲撃を防ぐことなんて不可能だ。


 普通ならな。

 俺は消える暗殺者に対して魔法を唱える。


探知魔法ディテクション


 魔力の波が俺を中心に展開される。

 これで奴の居場所がわかるはずだ。


 暗殺者はゆっくりと左から迫ってくる。

 だが魔力の波で見えているぞ。

 俺は突き出してくる右手を掴み魔法を唱える。


「【転移魔法シフト】」


 移動先は毎度お馴染みベーレの村とエリベートの街の間にある、街道のそばへと飛ぶ。


「ど、どこだここは!」


 急に見知らぬ場所へと移動したため、暗殺者が驚きの声を上げる。


「やっと狼狽えたな」


 今まで冷静にことを運んでいたが、さすがにこの状況は理解できなかったようだ。そのせいか透明のスキルが切れて姿が丸見えになっているぞ。


 暗殺者は慌てて俺から離れていき、体勢を整える。


「貴様! 一体何をした!」


 憎しみを込めて俺に言い放ってくる。


「ただ、ちょっと外へ出てもらっただけだ」


 本当は何10キロも離れた場所だけど、これから死ぬお前に言ってもしかたないだろう。


 暗殺者は短剣を持ち直し、今まで以上に激しい攻撃を繰り返してくる。

 しかしここは先程とは違い、広い空間だからおもいっきり剣も魔法も使うことができるぞ。

 俺は的確に剣で短剣を打ち落とし、かすり傷をつけることも許さない。

 そして攻撃が途切れ、後ろに下がろうとした時を狙って、横一閃で剣をなぎ払うと、剣先に赤い血がつく。


「くっ!」


 暗殺者は右の腕から血が吹き出て、苦悶の表情を浮かべる。


「これでお互い、同じ所に傷を負ったな」


 静かな声で暗殺者は見当違いなことを言い始めた。


「同じ所に傷なんてないぞ。【完全回復パーフェクトヒール】」


 光が俺を包み、短剣で切られた傷が始めからなかったかのように治療される。


「なっ! ばかな!」


 ただ傷ついた腕を治しただけだ。驚くな。


 俺は奴が動揺している隙に【鑑定魔法ライブラ】で能力を確認する。


 名前:キルガ

 性別:男

 種族:人族(強奪者スナッチャーの頭目)

 紋章:短剣と黒装束の紋章

 レベル:36

 HP:510

 MP:88

 力:C

 魔力:D

 素早さ:B

 知性:B

  運:C


【短剣と黒装束の紋章】の職は暗殺者だ。

 それなら今回の仕事は打って付けの職業じゃないか。

 だけど残念ながら俺を殺すことはできないけどな。


 だが逆にキルガは確実にここで殺す!

 このままもし逃がしでもしたら、いつ襲ってくるか常に注意しなくちゃならないし、ルーナの命を狙ったこの暗殺者を生かしておく訳にはいかない。


「【不可視インビジブル】」


 冷静さを取り戻したのか、キルガは再び透明になって俺に向かってくる。

 だがこの場所なら探知魔法を使わずとも他の方法でお前を倒す手段があるぞ。


 俺は右手に魔力を込めて魔法を解き放つ。


「そのまま隠れていればいいものを! 俺達を狙った報いを受けるといい!」


「【煉獄魔法インフェルノ】」


 地獄の業火が、広範囲に展開され辺り一面を焼け野はらへと変貌させる。


「ぎゃああ!」


 そしてキルガの断末魔と、人型に焼け焦げた後が街道側の草原に残った。


「後はメチャクチャになった部屋について、女将さんになんて説明するかだな」


 俺としてはキルガを殺すことよりもそっちの方が億劫だ。


 こうして盗賊団である強奪者スナッチャーは完全に壊滅することとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る