第68話 後継者争い
「本日は決闘をして頂き感謝します」
「じゃあ~、またくるね~」
そう言ってエリスさんとダリアさんは部屋を出て行こうとするがドアノブに手をかけた所でこちらを振り向く。
「そういえばもう1つ伝えなくてはならないことがありました」
神妙な顔つきでエリスさんは語り出す。
「ヒ、ヒイロのその力。隠した方がいいです」
エリスさんみたいな綺麗な人に名前で呼ばれるのは照れるが、何でかしらないが、それ以上に本人も顔が紅潮しているので恥ずかしいらしい。
「副団長~。いい加減名前を呼ぶのに慣れなよ~」
「う、うるさい! 黙りなさい」
力を隠す?
「どういうことですか?」
その理由を是非とも聞いてみたい。
「内部事情なのであまり話したくないのですが、王は現在体調が思わしくなく⋯⋯」
なんとなくわかった。王の体調が悪い時に起こる大きい出来事は2つくらいしかない。
1つは王が弱っている隙に他国が攻め込んでくること。
そしてもう1つは⋯⋯。
「王宮内は今殺伐とした雰囲気になっています」
「第二王子あたりが王位に名乗り出てるんですか?」
「よくわかりましたね。さすがわたしの⋯⋯いえ何でもありません」
エリスさんは何かをいいかけてやめた。
何だよ。深刻な話をしている時に止められると気になるじゃないか。
ただそれは俺だけじゃなかったみたいだ。
「わたしの~」
「わたしの?」
「わたしの何ですかエリスさん」
女性陣の問いかけ、いや尋問のようなオーラに、ルーンフォレスト王国第1騎士団副団長が後退る。
「わ、わたしに勝っただけはあるって言おうと思ったけど、屈辱だからやめただけです!」
エリスさんは叫ぶような声で説明する。
「けど
「そう言ったよ」
「そう言いました」
確かにわたしのって言ってたな。
3人の突っ込みを受けてエリスさんはたじろぐ。
「い、言い間違えただけです! 今は大事な話をしているので静かにしていて下さい!」
顔を真っ赤にしながら3人を注意する。
「とりあえずそういうことにしておこうか~」
リアナ達もこの先の内容が早く聞きたかったのか、それ以上エリスさんを問い詰めることはしなかった。
「継承権第1位のエリオット王子と継承権第2位のランフォース王子の争いです」
よくあるパターンだ。
ただ、継承者争いをすることによって、国や民に迷惑はかけないでほしいものだ。
俺は今聞いた情報で、何となくエリスが言いたいことがわかった。
「ヒ、ヒイロ。貴方のその力は、魔王を倒した勇者パーティーのように規格外です。1度行った所であれば瞬時に移動できる転移魔法、大多数の魔物を一瞬で消滅させることができる極大魔法、剛剣士を上回る力と剣技、王城に伝われば、必ずや両方の陣営が取り込もうと動くでしょう」
それは面倒だ。そういう権力争いに巻き込まれてもいいことなんて1つもない。
あれっ? そうなるとリアナはどうなる。
勇者を召し抱えれば最大の宣伝効果になるじゃないか。
俺がリアナに視線を向けたことで察したのか、エリスさんが答えてくれる。
「すでにリアナ様も接触されています」
「えっ?」
リアナが驚きの声を上げる。
「私、そんな人達と会ってないよ」
「リアナは権力に疎いから、そういう話をされても気づいてないんだろ」
「その通りです。悔しいですがさすがリアナ様の幼なじみなだけはありますね」
「産まれた時から一緒ですから」
リアナはない胸を張る。
別に胸を張る所じゃないぞ。逆に何で気づけないのか、むしろ落ち込んでほしいところだ。
「ヒ、ヒイロの力が加われば必ずパワーバランスが崩れますから、どのような手を使ってでも自軍に取り込もうとしてくるでしょう。そうなるとどうなるか想像できますよね?」
最初は普通に接触してくるかも知れないが、自分の所に来ないとわかれば、汚い手を使ってくるかもしれない。
俺に直接仕掛けてくれればいいが、リアナやルーナ、マーサちゃんあたりを人質に取って、言うことを聞かせるなどの手を打ってくることも考えられる。
「ちなみにエリスさん達はどちらにつくつもりなんですか?」
この返答次第ではいずれ味方にも敵になるから2人の考えは聞いておきたい。
「私は余程の罪を犯さない限り、継承権の順番に従うつもりです」
第1王子につくのか。
ただ、場合によっては第2王子側に行くこともあるということだ。
「2人の王子はどんな方なんですか?」
どういうことになるにせよ、相手のことは知っておきたい。何も知らないでいると、いざという時に情報が少なくて初動が遅れ、取り返しのつかないことになるかもしれない。
「一言でいうと第1王子のエリオット様は政治に優れ民に優しく、第2王子のランフォース様は武芸に秀でており貴族派の方です」
平民の俺としては、このまま民に優しい第1皇子が王になってほしいな。
「客観的に見てエリオット様は優しすぎて非情な決断ができず、ランフォース様は第2騎士団の団長でもあり強気な性格です」
「なら今回の王都襲撃は最大のパフォーマンスですね」
「そうです。今までランフォース様を王位に推す声はなかったのですが、今回の件で後押しする声が高まりました」
王都襲撃は民の恐怖を煽るのには十分だった。皆が強い王を望むのは仕方ないことなのかもしれないな。
「ただ、ランフォース様が王位を取るようなことになれば、軍備を増強し、その力を魔物だけに向けるのではなく他国への侵略に使うと思います」
戦争か。
そうなったら幾人も人が死ぬことになる。
人類が手を取って魔王軍と戦わなければならないのに、その足並みを乱す行為になり兼ねないな。
「しかし周りが何を言おうと、最終的には現王の一声により、次の王位が決まりますから」
だがそうなるとランフォースが王に指名される可能性も十分あるということか。
「とにかく御二人とも王子達からの勧誘にお気をつけ下さい」
「わかりました。とても有意義な情報をありがとうございます」
とりあえず力を見せすぎるようなことをしなければ、俺の所に来ることはないだろう。問題は勇者であるリアナだ。
エリスから忠告を受けた当の本人は、いつも通りニコニコと笑顔を浮かべていた。
「リアナ大丈夫か」
何だか心配になり、俺は声をかける。
「政治とかそういうことはよく分からないけど、間違った方向に行っちゃったらヒイロちゃんが止めてくれるから私は心配してないよ」
まさかの何も考えてない?
いやそれだけ信用されているということか。今まで一緒にいれなかったこともあり、頼られて俺は嬉しく感じた。
「やはり敵いませんね」
この光景を見て、誰にも聞こえない声でエリスは呟いた。
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