第69話 母は強し
エリスさんとダリアさんが去り、部屋には俺とリアナとマーサちゃんだけになった。
「何だか
ただの決闘のはずがこの国の王位争いの話に変わってしまったので、マーサちゃんの言いたいこともわかる。
「とりあえずこの話は他言無用だからね」
「わかりました」
王位継承権の話をしている所を誰かに聴かれたりしたら、衛兵に捕まってしまうだろう。それだけこの国は貴族や王族の権力が強い。
こうしてエリスさんとダリアさんとの決闘は終わりをとげた。
外は夕暮れ時、辺りは紅く染まり夜の気配が漂う頃。
今日は冒険者学校の試験、そしてエリスさん達の決闘と内容が濃い1日だったな。
そうだ! 1つ女将さんに言わなくてはならないことがあったのを忘れていた。この時間だと夕食を作っていると思うから厨房に行こう。
一階の食堂に着くと昼食時とは違い、静かな時間が流れている。
「まだ食堂は開いてないよ」
俺の気配を感じてか、厨房から女将さんの声が聞こえてきた。
「いえ、女将さんに少しお話がありまして。今お時間はありますか?」
「大丈夫だよ。あたしもあんたに話があったんだ」
俺に話? なんだろう?
「では女将さんからどうぞ」
「いいのかい。大したことじゃないんだけどマーサのことでね」
マーサちゃんにはルーナの世話をして貰っているし、本当に助かっている。ただ宿も忙しそうだし、もう少し女将さんの手伝いをしてほしいって話かな。
それとも大事な一人娘に近づくなっていう話か。
「あの娘があんたと結婚するとか言って、迷惑かけて悪いね」
「いいえ、俺も王都1の看板娘の笑顔に癒されてますから」
「そうかい。そりゃあ良かった」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「それで終わりですか?」
「そうだけど」
「てっきりどこの馬の骨かわからない奴がうちの大事なマーサに近づくんじゃないよ。この変態ロリコン不審者が! 今すぐ出ていきな! て言われるかと思いました」
「はっはっは。あんたはそう言われたいのかい? 一応人を見る目は鍛えてあるからね。あの娘がそう決めたなら私から言うことはないさ」
女将さんは寛容だな。それだけマーサちゃんを信じているのかな。
もし俺が父親だったら、マーサちゃんみたいな可愛い娘にちょっかいをかける男は、【
「それにマーサを助けてくれたあんたを無下にはできないよ」
「女将さん」
こういう時母親は強いな。
子供を信じ、答えを待つことができる。
俺なんかは到底その域に達することはできないと改めて思った。
「とはいえ、今のマーサはただ外の世界に憧れている所もあるから」
「そうですね」
だけど憧れを持ち、閉じた世界に籠るのではなく、色々な所に視野を広げることはいいことだ。
「その時が来たら、あんたがマーサを連れていってくれたら安心だ。ただ何の紋章を貰うかにもよるけどね」
そういえばそろそろ紋章を貰う時期じゃないかな。
年度が変わればマーサちゃんは13歳だから、今年成人の儀に参加するのか。
マーサちゃんが何の紋章を授かるか今から楽しみだな。
「本人が望めば力になります」
「ありがとう」
少々動作が荒っぽい女将さんらしからぬ、洗練された立ち振舞いで頭を下げてきた。
その所作からマーサちゃんがどれだけ大切なのか伝わってくる。
未来はどうなるかわからないが、もしその時が来たらなるべくマーサちゃんの力になろうと俺は女将さんに誓った。
「それであんたの話ってなんだい?」
女将さんの話が終わったので今度は俺からの話を切り出す。
「今日、僕かルーナのことを誰かに聞かれませんでしたか?」
俺の問いかけに女将さんが驚いた表情をする。
「よくわかったね。見てたのかい?」
「いえ」
やはりそうか。
「ルーナという娘はいるかって? ただフードを被った怪しそうな奴だったから答えなかったけどね」
さすが女将さん。個人情報がしっかりしている。けれどここまで来たということはバレていると考えた方が良さそうだ。
「それともう1人不審な娘がいるよ」
女将さんが窓の外を指差すと、そこには俺の見知った人物がいた。
「ディアナ⋯⋯」
今日、冒険者学校の試験でルーナがいなかったことで、探しにくると睨んでいたけどまさか本人が来るとは思わなかったぞ。
「知り合いかい?」
「え、ええ」
てっきり
いや、実際に
ディアナの様子を伺うと、何かそわそわして落ち着かない雰囲気を出している。
どうする?
ここは接触してみるか。
だけどそうするとここにルーナがいるって教えているようなものだが⋯⋯。
「あんたの知り合いなら問題ないね。もう1時間くらいああしているからそろそろ声をかけようと思っていたのさ」
「1時間ですか⋯⋯」
ルーナの居場所を探るなら隠れて行うはずだが、あれでは素人以下だ。
そうなると他に何か目的があると見た方がいいか。
フード被った奴は、女将さんからルーナのことを聞けなかったとしても、宿屋に来ていた冒険者達から話を聞いて、ルーナがここにいることを知っているはずだ。
どうせバレているなら直接ディアナの真意を問いただしてみよう。
「女将さん教えて頂きありがとうございます。ちょっと話をしてきますね」
そう言って、俺は宿屋の外にいるディアナの元へと向かった。
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